会社の資金を私的に使った場合の業務上横領・背任|外国人従業員と役員の刑事責任と在留への影響
2026/08/29
会社の売上金を一時的に自分の口座に移した、経費を水増しして精算した、会社のカードで私的な買い物をした、自分が代表を務める会社から関係会社へ回収の見込みのない貸付けをした。こうした行為について会社から説明を求められ、あるいは突然、警察から呼出しを受けることがあります。
会社のお金を自分のために使う行為は、日本では業務上横領罪や背任罪という重い犯罪として扱われます。とくに外国人の方の場合、刑事事件としての処分に加えて、在留期間の更新や在留資格の変更、勤務先との労働関係という三つの問題が同時に進行します。本記事では、どの行為がどの罪に当たるのか、示談ができれば不起訴になるのか、在留資格にどう影響するのかを整理します。
会社のお金を私的に使うと何罪になりますか
結論から申し上げると、多くの場合は業務上横領罪になります。会社の金銭や物品を業務として預かり管理している人が、それを自分のものとして処分した場合に成立し、法定刑は10年以下の拘禁刑です。罰金刑の定めがありません。
典型的な場面は次のとおりです。
- 集金した売上金や顧客からの預り金を自分の口座に入れた
- 会社名義のカードや現金で私的な支出をした
- 架空の経費や水増しした領収書で精算を受けた
- 会社が保管する商品や部品を持ち出して売却した
業務として預かっていたのではなく、たまたま預かった他人の物を自分のものにした場合は単純横領罪(刑法252条、5年以下の拘禁刑)となります。会社の役員が任務に背いて会社に損害を与えた場合には、会社法上の特別背任罪という、より重い罪が適用される場合があります。
横領と背任はどう違いますか
大まかにいえば、自分が預かって管理している財産そのものを自分のものにしたのが横領、財産の管理を任された立場の人が、その任務に背く行為をして会社に財産上の損害を与えたのが背任(刑法247条、5年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金)です。
たとえば、回収の見込みがないと分かっていながら知人の会社に会社資金を貸し付けた、相場からかけ離れた価格で会社の資産を売却したといった行為は、財産を自分の懐に入れていなくても背任として問題になります。
捜査段階でどちらの構成をとるかによって法定刑が大きく変わりますので、事実関係の位置づけを早い段階で正確に主張しておくことが重要です。
後で返すつもりだった場合も罪になりますか
成立しうる、というのが実務の考え方です。横領罪の成立には、他人の物を自分の物のように処分する意思、いわゆる不法領得の意思が必要ですが、後で補填するつもりだったという弁解だけでこの意思が否定されるわけではありません。
とくに、会社に無断で引き出している、帳簿を操作して発覚を防いでいる、返済の具体的な当てがない、といった事情があると、返すつもりだったという説明は認められにくくなります。一方で、返還の意思と資力が客観的に裏づけられる事案や、社内で事実上黙認された運用があった事案では、それが処分を左右する重要な事情になります。
会社から告訴された場合、どのように進みますか
会社が警察に被害届や告訴状を出すと、捜査が始まります。業務上横領や背任は親告罪ではありませんが、実際には会社の申告が端緒となる例が多いです。
典型的な流れは、社内調査、会社からの説明要求、退職や懲戒処分、被害届、任意の事情聴取、そして事案によっては逮捕・勾留です。金額が大きい、証拠隠滅のおそれがある、住居や勤務先が不安定であるといった事情があると、身柄拘束につながりやすくなります。
外国人の方の場合、住居や勤務先を失っていること自体が、逃亡のおそれの判断で不利に働くことがあります。身元引受人の確保や住居の維持は、早い段階で手当てすべき事項です。
弁償や示談ができれば不起訴になりますか
不起訴になる可能性は高まりますが、保証されるものではありません。検察官は、被害額、期間、手口の計画性、地位の悪用の程度、被害回復の状況、本人の反省と再犯のおそれなどを総合して、起訴するかどうかを判断します。
実務上、次の対応が重要になります。
- 被害額を早期に確定し、可能な限り全額を弁償すること
- 会社との間で、清算と宥恕の意思を含む合意を書面で整えること
- 資金の使途を明らかにし、隠された財産がないことを示すこと
- 親族などによる資金援助や身元引受けの体制を整えること
金額が大きい事案ほど、起訴前の限られた期間内に弁償の枠組みを作れるかどうかが結論を分けます。
有罪になると在留資格はどうなりますか
刑事手続と入管手続は別に進みます。まず退去強制事由については、入管法24条4号リが1年を超える実刑を受けた場合を対象としており、同号の但書によって全部執行猶予は除外されます。したがって、執行猶予付きの判決であれば、この規定を理由に直ちに退去強制手続に進むことは通常ありません。
もっとも、業務上横領は法定刑の上限が10年で罰金刑の定めがなく、被害額が大きい事案では実刑となることもあります。実刑で刑期が1年を超えれば、24条4号リによって退去強制の対象となり得ます。その場合でも、在留特別許可(入管法50条)を求める余地はありますが、同条1項但書により、無期又は1年を超える実刑を受けた者については加重された要件が課されます。同条5項は、家族関係や在留の経緯を含む考慮要素を定めています。
実刑に至らない場合でも、在留期間の更新や在留資格の変更は素行を含めた総合判断で行われ、財産犯で有罪となった事実は正面から評価されます。永住許可の審査ではさらに厳しく見られます。刑事事件の終結後に在留の問題が始まる、という時間差を見落とさないでください。
会社から損害賠償や解雇を求められた場合はどうすればよいですか
刑事事件とは別に、民事の損害賠償請求と、労働契約上の懲戒処分という二つの問題が並行します。会社が主張する損害額が、実際に自分が得た利益と一致しないことは珍しくなく、内訳の確認が必要です。
対応の際の注意点は次のとおりです。
- 事実を確認しないまま、会社の提示する金額の承認書や念書に署名しない
- 署名した書面は刑事手続でも証拠として扱われうることを理解する
- 懲戒解雇の有効性や退職金の扱いには、労働法上の争点が残る場合がある
- 退職により在留資格の活動を行わない状態になれば、在留資格取消し(入管法22条の4)や契約機関に関する届出(同法19条の16、14日以内)の問題が生じる
刑事、民事、労働、入管という四つの手続を、同じ事実関係のもとで矛盾なく進める必要があります。当事務所では中国語通訳を備え、ご本人とご家族に対して手続全体の見通しをご説明しています。
当事務所のご案内
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)は、中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護と入管手続を主たる注力分野としています。担当する松村大介弁護士(第一東京弁護士会所属・登録番号59077・2019年登録)が、警察署での最初の接見から検察官との交渉、公判、その後の入管手続に至るまで全工程を直接担当します。事務員や若手弁護士が代わりに対応することはありません。
外国人事件に精通した中国語専属通訳が常駐しており、捜査機関が手配する通訳とは別に、依頼者ご本人のために動く立場の通訳を利用していただけます。取調べで何を話したのか、入管で何を聞かれているのかを正確に把握できる体制です。刑事手続が終わった後の在留資格の更新・変更等については、提携する行政書士とワンストップで対応します。
- 難関とされた在留特別許可を1回の手続で獲得した事例。観光目的で来日した相談者が日本人女性との間に子を授かったものの、在留資格を失い不法滞在で逮捕・起訴された事案です。婚姻と認知の手続が未了で当局から一旦不受理とされたところ、松村弁護士が憲法的な観点から当局と交渉して婚姻・認知を成立させ、入管法違反の刑事裁判を意識した被告人質問・証人尋問を行いました。国籍国発行の公的書類がほとんど存在しない困難な状況下でも有利な証拠を集め、入管当局の過去の許可事例を分析することで、1回の手続で在留特別許可を得ました。
- 強制退去の危機にあった女性を救済した事例。冤罪により不法就労助長罪に問われ、強制退去の危機に瀕した女性の事案です。「退去強制事由には故意・過失を要しない」とされてきた従来の実務に対し、責任主義の射程を問う訴訟を提起して上訴審まで争いました。その後、入管から在留特別許可が認められました。
初回のご相談は無料です。費用は事案に応じてお見積りします。まずは現在の状況を整理するところから、一緒に始めさせてください。
おわりに
会社の資金を私的に使った事案は、金額が小さくても業務上横領という罰金刑の定めのない罪で立件されることがあり、被害額が大きければ実刑の可能性も現実のものとなります。そして刑事処分が終わった後には、在留期間の更新、あるいは在留特別許可という別の手続が待っています。会社から説明を求められた段階、警察から連絡があった段階で、署名を求められる前に弁護士にご相談ください。早い段階であれば、被害額の確定、弁償の枠組み、事実関係の位置づけといった、結論を左右しうる働きかけの余地が残されています。
なお、本記事は一般的な解説であり、個別の事案については弁護士に直接ご相談ください。また、ここで紹介した過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではありません。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。
覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
お問い合わせ
舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
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