給付金・助成金の不正受給に関与した場合|詐欺罪の成否、返還、在留資格への影響
2026/08/29
申請すればお金がもらえると誘われて、内容をよく分からないまま書類に署名した。知人の申請を手伝って口座を貸しただけだと思っていたら、数年後に警察から連絡が来た。給付金や助成金をめぐるご相談では、自分は主導していないという方が相当数を占めます。しかし、捜査機関はまず、申請書に名前があり、口座にお金が入った人から事情を聞きます。
本記事では、公的な給付金・助成金の不正受給がどのような罪に問われるのか、申請を手伝っただけの立場はどう扱われるのか、返還すれば済むのか、そして在留資格の更新や退去強制にどう影響するのかを説明します。
給付金の不正受給はどのような罪になりますか
結論として、中心となるのは詐欺罪(刑法246条)です。虚偽の申請によって国や自治体を欺き、給付金を交付させた場合がこれに当たります。
あわせて、補助金や助成金の制度によっては、不正に交付を受ける行為を個別に処罰する規定が置かれています。制度ごとに返還命令、加算金の徴収、事業者名の公表といった行政上の措置も定められており、刑事の手続とは別に進みます。実態のない事業を装って申請した、売上の減少を偽って報告した、実際には雇用していない従業員の分を申請した、といった類型が典型です。
申請を手伝っただけでも罪に問われますか
問われることがあります。手伝いの内容によって、共同正犯(刑法60条)とされるか、幇助(刑法62条)とされるか、あるいは処罰の対象とならないかが分かれます。
特に問題となりやすいのは、次のような関与です。
- 虚偽の内容と分かったうえで申請書を作成した、あるいは翻訳して説明した
- 申請者を集め、手数料や報酬を受け取っていた
- 受給後の金銭の分配に関与した
- 自分の口座を受取先として提供した
報酬を受け取っていた場合、単なる手伝いではなく、仕組みの一部を担っていたと評価されやすくなります。逆に、内容が虚偽であることを知り得なかった事情があるのであれば、それを裏づける記録が重要になります。
名義を貸して自分の口座で受け取った場合はどうなりますか
受け取った金額の全部または一部を他人に渡していたとしても、申請人本人として扱われるのが通常です。
捜査では、申請書の筆跡、口座の開設と管理の状況、入金後の資金の流れ、依頼してきた人物とのやり取りが確認されます。ここで重要なのは、微信などのメッセージ、通帳の記録、書類の写しといった、自分の立場を説明できる資料を保全しておくことです。相手に頼まれて全額を渡したという事情は、量刑や処分の判断に影響し得ますが、それを示す材料がなければ主張として弱くなります。
自主的に返還すれば刑事事件にならずに済みますか
返還したことで当然に刑事責任がなくなるわけではありません。ただし、返還の有無と時期は、処分の判断に大きく影響します。
多くの制度では、自主的な返還の申出を受け付ける窓口が用意されています。捜査が始まる前に自ら申し出て全額を返還し、関与の経緯を説明している事案と、捜査が始まってから返還した事案とでは、検察官の判断は同じではありません。加算金を含めた返還額、分割の可否、返還の原資をどう確保するかは、早い段階で整理する必要があります。返還の交渉と刑事の対応は、方針を一致させて進めることが重要です。
不起訴になれば在留資格に影響はありませんか
不起訴になったことは大きな意味を持ちますが、入管手続が自動的に終わるわけではありません。刑事手続と入管の手続は別個に進みます。
在留期間の更新や在留資格の変更、永住許可の審査では、素行が善良であるかどうかが判断の要素になります。不起訴であっても、事実関係が入管に把握されていれば、経緯の説明を求められることがあります。特に、給付金の申請が事業の実体を偽る形で行われ、それが在留資格の申請内容とも食い違っている場合には、入管法22条の4に定める在留資格の取消しが問題になり得ます。
有罪となった場合、退去強制のおそれはありますか
刑の内容と在留資格の種類によります。
まず、入管法24条4号リは、1年を超える拘禁刑に処せられた場合を退去強制事由としていますが、この規定には但書があり、刑の全部の執行を猶予された場合は除かれます。一部執行猶予の場合も、実際に服する部分が1年以下であれば同様に除かれます。したがって、執行猶予付きの判決であれば、この規定によって直ちに退去強制の対象となるわけではありません。
他方で、別表第一の在留資格(就労資格や留学など)で在留している方については、一定の財産犯を含む特定の犯罪により拘禁刑に処せられた場合を退去強制事由とする規定(入管法24条4号の2)があります。どの罪がこれに当たるか、判決の内容がどう評価されるかは個別の確認が必要ですので、判決が確定する前に、入管手続への影響を踏まえて弁護方針を立てることが重要です。
すでに捜査が始まっている場合、何をすべきですか
まず、供述をする前に方針を決めることです。
取調べでは黙秘権があります。日本語で作成された調書は、通訳を通じて内容を確認したうえで、署名するかどうかを判断してください。制度の名称や申請の経緯は、外国人の当事者にとって説明が難しい部分であり、通訳を介した伝達の過程で意味がずれることがあります。違和感があれば、その場で訂正を求めることができます。
あわせて、次の準備を進めます。
- 返還の申出と資金の確保
- 自分の関与の範囲を示す資料の保全
- 身元引受人と、再発防止のための生活環境の整理
- 在留資格の期限と更新時期の確認
起訴されるかどうかが決まる前の段階で、これらを積み上げておくことが、不起訴を求める活動の中心になります。
当事務所のご案内
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)は、中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護と入管手続を主たる注力分野としています。担当する松村大介弁護士(第一東京弁護士会所属・登録番号59077・2019年登録)が、警察署での最初の接見から検察官との交渉、公判、その後の入管手続に至るまで全工程を直接担当します。事務員や若手弁護士が代わりに対応することはありません。
外国人事件に精通した中国語専属通訳が常駐しており、捜査機関が手配する通訳とは別に、依頼者ご本人のために動く立場の通訳を利用していただけます。取調べで何を話したのか、入管で何を聞かれているのかを正確に把握できる体制です。刑事手続が終わった後の在留資格の更新・変更等については、提携する行政書士とワンストップで対応します。
- 難関とされた在留特別許可を1回の手続で獲得した事例。観光目的で来日した相談者が日本人女性との間に子を授かったものの、在留資格を失い不法滞在で逮捕・起訴された事案です。婚姻と認知の手続が未了で当局から一旦不受理とされたところ、松村弁護士が憲法的な観点から当局と交渉して婚姻・認知を成立させ、入管法違反の刑事裁判を意識した被告人質問・証人尋問を行いました。国籍国発行の公的書類がほとんど存在しない困難な状況下でも有利な証拠を集め、入管当局の過去の許可事例を分析することで、1回の手続で在留特別許可を得ました。
- 強制退去の危機にあった女性を救済した事例。冤罪により不法就労助長罪に問われ、強制退去の危機に瀕した女性の事案です。「退去強制事由には故意・過失を要しない」とされてきた従来の実務に対し、責任主義の射程を問う訴訟を提起して上訴審まで争いました。その後、入管から在留特別許可が認められました。
初回のご相談は無料です。費用は事案に応じてお見積りします。まずは現在の状況を整理するところから、一緒に始めさせてください。
おわりに
給付金や助成金の不正受給は、主導した人と、頼まれて名前や口座を出しただけの人とで、実際の関与の度合いが大きく異なります。それにもかかわらず、書類に名前が残っている以上、まず説明を求められるのは名義人です。だからこそ、経緯を示す記録を早く集め、返還と刑事対応の方針を一致させ、あわせて在留資格への影響を見据えて動くことが必要になります。捜査が始まる前でも、始まった後でも、早い段階でご相談ください。
なお、本記事は一般的な解説であり、個別の事案については弁護士に直接ご相談ください。また、ここで紹介した過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではありません。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。
覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
お問い合わせ
舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
微信ID:matsumura1119
この記事の他の言語版
----------------------------------------------------------------------
舟渡国際法律事務所
住所 : 東京都豊島区高田3丁目4-10布施ビル本館3階
電話番号 :050-7587-4639
東京にて中国人の方をサポート
東京を中心に刑事事件の弁護
----------------------------------------------------------------------