会社の名義貸しを頼まれたときの法的リスク|代表者・株主の名義と刑事責任、在留資格への影響
2026/08/29
会社をつくるので代表者として名前を貸してほしい、印鑑証明書と在留カードのコピーを出してほしい、毎月いくらか渡すから、と持ちかけられて迷っている。そのようなご相談が続いています。頼んでくるのは同郷の知人や、在留資格の手続を手伝ってくれた人であることが多く、断ると仕事や住まいの世話をしてもらえなくなるのではないかと心配して、その場で断りきれなかったという方も少なくありません。
本記事では、会社の名義を貸すという行為がどのような犯罪に発展し得るのか、税金や借金の請求が誰に来るのか、そして在留期間の更新や在留資格の取消しにどう影響するのかを、順を追って説明します。
会社の名義を貸すとは具体的にどのようなことを指しますか
結論から申し上げると、実際には自分が経営に関与しないのに、登記や契約の上で自分が経営者・出資者であるかのように振る舞うことのすべてが名義貸しに当たります。形は一つではありません。
- 株式会社や合同会社の代表取締役・代表社員として登記される
- 出資者・株主として名前を出す
- 会社の口座開設や賃貸借契約、携帯電話契約の名義人になる
- 他人が実質的に運営する店舗について、自分の名前で営業の許可や届出を行う
いずれの場合も、外から見れば会社を動かしているのはあなたです。実質は別の人が仕切っていたという事情は、後から説明しても簡単には受け入れられません。
名義を貸しただけでも刑事責任を問われますか
問われることがあります。名義貸しそのものを直接処罰する規定がなくても、その会社が何に使われたかによって、あなた自身が犯罪の当事者として扱われる場面が現実にあります。
実体のない代表者を登記させた場合には、公正証書原本不実記載の罪が問題になります。会社の口座が振込詐欺や特殊詐欺の受け皿に使われれば、詐欺罪(刑法246条)の共犯として捜査を受けることがあり、少なくとも口座を用意した行為が幇助(刑法62条)に当たらないかが検討されます。会社を通じて資格外の就労をさせていれば、不法就労助長罪(入管法73条の2)の名義上の事業主として調べられます。
捜査機関の見方は、報酬を受け取っていたか、書類にどこまで自分で署名したか、会社の実態を知り得たか、という点に集まります。何も知らなかったという説明だけでは足りず、なぜ知り得なかったのかを具体的に示す必要があります。
代表者として登記されると会社の借金や税金はどうなりますか
刑事の話にならなくても、金銭の負担は名義人に向かってきます。ここが名義貸しの最も現実的な怖さです。
会社が滞納した消費税や源泉所得税、社会保険料について、実質的な経営者が姿を消せば、税務署や年金事務所は登記上の代表者に説明を求めます。取引先への未払いや賃料の滞納についても、代表者個人が連帯保証をしていれば個人の債務になります。さらに、取締役は会社に対して任務を果たす義務を負い、その義務を著しく怠って第三者に損害を与えた場合には、個人として賠償責任を負うことがあります。名義だけだったという主張は、この場面でも通りにくいのが実情です。
名義貸しによって在留資格が取り消されることはありますか
あり得ます。特に、名義貸しが在留資格の申請と結びついている場合は深刻です。
入管法22条の4は、偽りその他不正の手段によって在留資格を得た場合や、申請に虚偽の内容が含まれていた場合を、在留資格の取消事由として定めています。実体のない会社の代表者として経営・管理の在留資格を得ていた、あるいは名義上の会社に所属していることにして就労資格を得ていた、という構図が判明すれば、取消しの手続に進む可能性があります。取消しに至らなくても、次の在留期間更新で不許可となる要因になります。
また、契約機関や所属機関に関する届出の義務(入管法19条の16)に照らして、実際には勤務していない会社を所属先として届け出ている状態は、それ自体が説明を求められる材料になります。
貸した名義の会社が不法就労に使われていた場合はどうなりますか
名義上の事業主として、不法就労助長罪の捜査対象になり得ます。
不法就労助長罪(入管法73条の2)については、退去強制の場面ではさらに注意が必要です。この行為は入管法24条3号の4により、刑事処罰を受けたかどうかにかかわらず、行為があったこと自体で退去強制事由に当たるものとされています。刑事手続で不起訴になったから入管手続でも問題にならない、という理解は成り立ちません。刑事と入管は別々に進むという前提で、両方に備える必要があります。
報酬をもらった場合と、断れずに貸した場合で扱いは違いますか
結論としては、報酬の有無だけで結論が決まるわけではありませんが、量刑や処分の判断には影響します。
毎月一定額を受け取っていた事案では、会社が何に使われるかについて疑いを持ちながら引き受けたと見られやすくなります。他方で、報酬がなく、雇用や住居について相手に依存していた、日本語の書類の意味を理解できないまま署名させられた、といった事情は、故意の有無や関与の程度を判断するうえで重要です。こうした事情は、記憶が新しいうちに、いつ誰にどの書類を渡したかという形で具体的に整理しておくことが役に立ちます。
すでに名義を貸してしまった場合、何から始めればよいですか
まず事実を正確に把握することです。順序としては次のようになります。
- 法務局で会社の登記事項証明書を取得し、自分がどの立場で登記されているかを確認する
- 署名した書類、受け取った金銭、やり取りの記録(微信のメッセージ、振込履歴)を保存する
- 役員から外れるための手続(辞任の意思表示と登記)を進める
- 税や社会保険の請求が来ている場合は、放置せず窓口で経緯を説明する
- 捜査機関から連絡があった段階では、供述する前に弁護人と方針を決める
取調べでは黙秘権があります。言葉が十分に通じない状態で、内容を確かめないまま調書に署名することは避けてください。通訳を通じて内容を確認する権利があります。
当事務所のご案内
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)は、中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護と入管手続を主たる注力分野としています。担当する松村大介弁護士(第一東京弁護士会所属・登録番号59077・2019年登録)が、警察署での最初の接見から検察官との交渉、公判、その後の入管手続に至るまで全工程を直接担当します。事務員や若手弁護士が代わりに対応することはありません。
外国人事件に精通した中国語専属通訳が常駐しており、捜査機関が手配する通訳とは別に、依頼者ご本人のために動く立場の通訳を利用していただけます。取調べで何を話したのか、入管で何を聞かれているのかを正確に把握できる体制です。刑事手続が終わった後の在留資格の更新・変更等については、提携する行政書士とワンストップで対応します。
- 難関とされた在留特別許可を1回の手続で獲得した事例。観光目的で来日した相談者が日本人女性との間に子を授かったものの、在留資格を失い不法滞在で逮捕・起訴された事案です。婚姻と認知の手続が未了で当局から一旦不受理とされたところ、松村弁護士が憲法的な観点から当局と交渉して婚姻・認知を成立させ、入管法違反の刑事裁判を意識した被告人質問・証人尋問を行いました。国籍国発行の公的書類がほとんど存在しない困難な状況下でも有利な証拠を集め、入管当局の過去の許可事例を分析することで、1回の手続で在留特別許可を得ました。
- 強制退去の危機にあった女性を救済した事例。冤罪により不法就労助長罪に問われ、強制退去の危機に瀕した女性の事案です。「退去強制事由には故意・過失を要しない」とされてきた従来の実務に対し、責任主義の射程を問う訴訟を提起して上訴審まで争いました。その後、入管から在留特別許可が認められました。
初回のご相談は無料です。費用は事案に応じてお見積りします。まずは現在の状況を整理するところから、一緒に始めさせてください。
おわりに
会社の名義貸しは、頼まれた側にとっては軽い頼まれごとに見えても、後になって刑事の捜査、税金や債務の請求、在留資格の取消しという三つの負担が同時に向かってくる性質のものです。すでに名義を貸してしまった方も、まだ迷っている方も、早い段階で事実関係を整理し、弁護士に相談していただくことで取り得る選択肢が広がります。特に、捜査が始まる前に自ら関係を清算しておくかどうかで、その後の展開は大きく変わります。
なお、本記事は一般的な解説であり、個別の事案については弁護士に直接ご相談ください。また、ここで紹介した過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではありません。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。
覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
お問い合わせ
舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
微信ID:matsumura1119
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