通勤中・業務中の交通事故と労災|外国人が知っておきたい労災申請と在留資格への影響
2026/08/28
配達の仕事の途中でバイクごと転倒した、工場へ向かう通勤の道で車に追突された、社用車を運転していて事故に巻き込まれた。けがで働けなくなったのに、会社は労災の手続を取ってくれず、相手方の保険会社からは示談の話だけが届く。日本語での説明が十分に理解できないまま、治療費と生活費の不安だけが積み上がっていく。技能実習、特定技能、技術・人文知識・国際業務、留学中のアルバイトなど、立場を問わずこうしたご相談が寄せられます。
本記事では、通勤中・業務中の交通事故について、労災保険(労働者災害補償保険)の使い方、相手方のいる事故における自賠責保険や任意保険との関係、そして在留資格への影響という三つの角度から整理します。
通勤中や仕事中の交通事故でも労災保険は使えますか
結論から述べると、使えます。労災保険は、仕事が原因で生じた負傷(業務災害)と、通勤の途中で生じた負傷(通勤災害)を対象とする制度で、治療に関する給付、働けない期間の収入を補う給付、後遺障害が残った場合の給付、亡くなった場合のご遺族への給付が用意されています。交通事故であっても、それが業務の遂行中または通勤の途上で起きたものであれば、労災保険の対象になり得ます。保険料は事業主が負担するもので、労働者本人が保険料を払っていないから使えない、ということはありません。
在留資格がない状態で働いていた場合でも労災は認められますか
労災保険は、実際に労働者として働いていたという事実に着目する制度であり、国籍や在留資格の有無によって適用の有無が決まるものではありません。在留期間を過ぎたまま働いていた場合や、資格外活動の許可の範囲を超えて働いていた場合であっても、労働者としての災害である以上、給付の対象になり得ます。ただし、入管法上の問題が消えるわけではありません。不法残留は入管法24条4号ロ、在留資格で認められた活動を行わず資格外活動に専ら従事することは同条4号イが、それぞれ退去強制事由として定めています。労災の申請と入管の手続は切り分けて考える必要があり、どの順序で、誰に、何をどう説明するかを誤らないことが大切です。
通勤災害と業務災害はどう違いますか
業務災害は業務の遂行中に業務に起因して生じた災害、通勤災害は住居と就業場所との間を合理的な経路と方法で移動する途中に生じた災害です。給付の名称や細かい取扱いに違いがあるほか、通勤経路を大きく外れたり(逸脱)、通勤と関係のない行為を始めたり(中断)した場合には、原則としてその後は通勤とは扱われません。もっとも、日用品の買物や通院など日常生活上必要な行為をやむを得ない事由で最小限度の範囲で行う場合は、合理的な経路に戻った後は再び通勤として扱われます。どこで、何のために立ち寄ったのかという事実が結論を左右します。
相手のいる事故で労災と自賠責保険のどちらを使うべきですか
どちらも利用できますが、同じ損害について二重に受け取ることはできません。相手方のいる事故で労災を使う場合は、第三者行為災害届を労働基準監督署に提出します。労災を先行させる利点として、こちらにも過失がある場合に給付が過失割合で減らされないこと、窓口での自己負担が生じないこと、相手方保険会社との交渉が難航しても治療を続けられることが挙げられます。他方、慰謝料は労災からは支払われないため、相手方への請求は別途行う必要があります。どちらを軸にするかは、過失割合と後遺障害の見込みによって変わります。
労災を申請すると入管に知られて在留資格に影響しますか
労災を申請したこと自体が直ちに入管へ通報される仕組みにはなっていません。労働基準監督署は労働者を保護するための機関であり、給付の判断は労働者としての実態と業務起因性によって行われます。もっとも、その後の在留期間の更新や在留資格の変更の審査では、就労の実態や収入の状況が問われることがあります。資格外活動や在留期間の超過という問題を抱えている場合は、労災の申請だけを単独で進めるのではなく、入管手続の見通しと合わせて全体を設計する必要があります。発覚を恐れて何もしないままでいると、治療も補償も受けられず、生活が崩れ、かえって在留の見通しも悪くなることが少なくありません。
会社が労災の手続に協力してくれない場合はどうすればよいですか
労災の請求は、本来は被災した労働者本人が行うものです。請求書には事業主が事実を証明する欄がありますが、会社が記入を拒む場合でも、その経緯を書き添えて労働基準監督署に提出することができます。労災であることを認めず健康保険で処理するよう求めたり、事故そのものを報告しなかったりする対応は、それ自体が法令に反する可能性があります。雇用契約書、給与明細、勤務シフト、業務用の連絡アプリの記録、配達履歴や運行記録など、働いていた事実と当日の行動を示す資料は、削除される前に保存しておいてください。
帰国することになった場合、労災の給付はどうなりますか
支給が決定された給付は、帰国後も原則として受け取ることができます。受取方法や連絡先をあらかじめ整えておくこと、代理人を選任しておくことが実務上重要です。ただし治療そのものは日本国内の医療機関で受けるものですから、可能であれば症状が固定するまでの治療と、後遺障害に関する判断を帰国前に済ませておくことが望ましいといえます。帰国が退去強制や出国命令によるものであっても、労災の受給権が当然に失われるわけではありません。手続の途中で日本を離れる場合は、その前に何を確定させておくべきかを確認してください。
自分が事故の相手方として責任を問われる場合はどうなりますか
加害者の立場であっても、業務中や通勤中の事故で自身も負傷していれば、労災の対象になり得ます。他方で、過失運転致死傷などの刑事責任、被害者に対する民事上の賠償責任、そして在留資格への影響は、それぞれ別の手続として進みます。社用車を運転していた場合は会社の責任も問題になり、任意保険が使えるかどうかが生活に直結します。事故直後の説明の仕方がその後の過失割合や処分の見込みを左右しますので、早い段階で事実関係と資料を整理しておくことをお勧めします。
当事務所のご案内
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)は、中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護と入管手続を主たる注力分野としています。担当する松村大介弁護士(第一東京弁護士会所属・登録番号59077・2019年登録)が、警察署での最初の接見から検察官との交渉、公判、その後の入管手続に至るまで全工程を直接担当します。事務員や若手弁護士が代わりに対応することはありません。
外国人事件に精通した中国語専属通訳が常駐しており、捜査機関が手配する通訳とは別に、依頼者ご本人のために動く立場の通訳を利用していただけます。取調べで何を話したのか、入管で何を聞かれているのかを正確に把握できる体制です。刑事手続が終わった後の在留資格の更新・変更等については、提携する行政書士とワンストップで対応します。
- 難関とされた在留特別許可を1回の手続で獲得した事例。観光目的で来日した相談者が日本人女性との間に子を授かったものの、在留資格を失い不法滞在で逮捕・起訴された事案です。婚姻と認知の手続が未了で当局から一旦不受理とされたところ、松村弁護士が憲法的な観点から当局と交渉して婚姻・認知を成立させ、入管法違反の刑事裁判を意識した被告人質問・証人尋問を行いました。国籍国発行の公的書類がほとんど存在しない困難な状況下でも有利な証拠を集め、入管当局の過去の許可事例を分析することで、1回の手続で在留特別許可を得ました。
- 強制退去の危機にあった女性を救済した事例。冤罪により不法就労助長罪に問われ、強制退去の危機に瀕した女性の事案です。「退去強制事由には故意・過失を要しない」とされてきた従来の実務に対し、責任主義の射程を問う訴訟を提起して上訴審まで争いました。その後、入管から在留特別許可が認められました。
初回のご相談は無料です。費用は事案に応じてお見積りします。まずは現在の状況を整理するところから、一緒に始めさせてください。
おわりに
通勤中・業務中の交通事故は、治療、補償、刑事、入管という四つの問題が同時に走り出す出来事です。労災は在留資格の有無にかかわらず利用し得る制度ですが、その申請の進め方は、在留の見通しと切り離して考えることができません。会社に相談しづらい、日本語で説明できない、発覚が怖いといった理由で時間が経つほど、証拠は失われ、選べる手段は減っていきます。事故から日が浅いうちに、ご自身の状況を整理して専門家に相談してください。
当事務所では中国語での対応が可能で、外国人の刑事事件と入管手続の双方を扱ってまいりました。過去には、交通事件をきっかけに在留の問題が表面化した事案で、刑事処分と入管手続を並行して見据えた対応により在留の継続につながった例もあります。なお、本記事は一般的な解説であり、個別の事案については弁護士に直接ご相談ください。また、ここで紹介した過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではありません。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。
覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
お問い合わせ
舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
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