業務中の交通事故と雇用主の責任|技能実習・特定技能の現場で起きたときの対応
2026/08/28
会社の車で資材を運ぶ途中に、交差点で相手方の車と接触した。寮から現場への送迎を任され、運転中に人身事故を起こしてしまった。技能実習や特定技能の現場では運転を伴う業務や送迎が日常的に行われており、事故は決して珍しいことではありません。
問題は事故の後です。刑事責任は運転していた本人が負う一方、会社との関係が悪化して働けなくなれば、在留資格そのものが危うくなります。雇用主の側にも賠償責任や労務管理上の責任が生じます。本記事では、本人と雇用主それぞれの責任と、在留資格を守るための手順を整理します。
業務中の交通事故で、会社はどのような責任を負いますか
従業員が業務の執行中に第三者に損害を与えた場合、雇用主は使用者としての損害賠償責任を負うのが原則です。さらに、事故車両が会社の所有であったり、会社の事業のために使われていたりする場合には、その車を運行の用に供している者としての責任も問題になります。
つまり、被害者は、運転していた従業員本人だけでなく、会社に対しても賠償を請求することができます。会社が賠償した後に本人へ負担を求めることはあり得ますが、その範囲は業務の内容や日頃の労務管理を踏まえて制限されるのが通例です。全額を請求されても、応じる前に確認が必要です。
技能実習生や特定技能の外国人が会社の車で事故を起こした場合、本人はどうなりますか
刑事責任は運転していた本人が負います。人身事故であれば、過失の内容と被害の程度に応じて捜査が行われ、検察官が処分を決めます。被害者との示談、被害弁償、反省の状況が処分に影響する点は、他の交通事件と同じです。
民事の賠償は、実際には会社が加入している任意保険から支払われることが多くあります。ここで確認していただきたいのは、その保険が、実際に運転した人を補償の対象としているかどうかです。運転者の範囲や年齢の条件から外れていた場合、保険金が支払われず、本人が高額な負担を負うおそれがあります。
技能実習や特定技能の現場で、特に問題になりやすい点は何ですか
運転が、本来行うべき業務の範囲に含まれているかどうかです。技能実習は認定された計画に沿って実習を行う制度であり、計画にない作業を継続的にさせることは制度の趣旨に反します。送迎や配送の運転が実習計画に含まれていないのに常態化していた場合、事故をきっかけにその点が明らかになることがあります。
そのほか、次のような事情も問題になりやすい点です。
- 日本の運転免許を持たないまま、構内であるからと運転させていた場合
- 長時間労働の後や早朝の送迎で、疲労した状態の運転が常態化していた場合
- フォークリフトなど、必要な資格のない者に運転させていた場合
- 事故の報告が監理団体や登録支援機関に上げられていない場合
これらは、事故の刑事責任とは別に、受入れ機関側の責任として問われる事柄です。本人が責められる筋合いのない事情も含まれています。
事故を理由に解雇された場合、在留資格はどうなりますか
働けなくなることが、在留資格に直結します。就労資格で在留している方が退職や解雇に至った場合、入管法19条の16の定めにより、契約機関に関する届出を14日以内に行う必要があります。この届出を怠ると、それ自体が問題になります。
さらに、入管法22条の4は在留資格の取消しについて定めており、正当な理由なく在留資格に応じた活動を継続して3か月以上行っていない場合が取消事由の一つとされています。解雇された場合には、次の受入れ先を探すこと、そして探している経過を記録に残すことが重要です。技能実習であれば監理団体や外国人技能実習機構、特定技能であれば登録支援機関やハローワークへの相談が、正当な理由を裏づける資料になります。連絡を絶って住居を離れることは、最も避けるべき対応です。
会社が警察に届け出ないよう求めてきた場合、どうすればよいですか
応じてはいけません。交通事故の当事者には、けが人の救護と警察官への報告が法律上義務づけられており、届け出ないまま現場を離れれば、それ自体が犯罪となります。会社の指示であったとしても、責任を免れる理由にはなりません。
また、業務中や通勤中の事故を労災として届け出ないよう求められることもありますが、これも応じるべきではありません。労災保険は外国人にも適用され、在留資格の有無によって左右されるものではありません。治療費や休業の補償だけでなく、後遺障害が残った場合の補償の道も閉ざされてしまいます。
労災の申請と、相手方の保険との関係はどうなりますか
業務中や通勤中の事故で相手方にも過失がある場合は、第三者による災害として扱われ、労災保険の給付と相手方からの賠償との間で調整が行われます。二重に受け取ることはできませんが、相手方の対応が遅い場合や、相手方が任意保険に入っていない場合に、先に労災から給付を受けられることには大きな意味があります。
手続には所定の届出が必要で、事故の状況を説明する書類も作成します。日本語での書類作成に不安があるときは、支援機関や弁護士の助けを得てください。ここで提出する資料は、後の賠償交渉でも使われます。
事故は在留期間の更新や在留資格の変更に影響しますか
影響し得ます。在留期間の更新や在留資格の変更の審査では素行が考慮されますので、人身事故で罰金の前科がついた場合、不利な事情として評価される可能性があります。飲酒運転や無免許運転が絡む場合は、より厳しく見られる傾向があります。
特に注意が必要なのは重大事故です。入管法24条4号の2は、別表第一の在留資格をもって在留する者について一定の犯罪による有罪判決を退去強制事由と定めており、自動車運転死傷処罰法2条および6条1項の危険運転致死傷が含まれます。技能実習、特定技能、技術・人文知識・国際業務といった在留資格は別表第一に位置づけられます。また、入管法24条4号リは、1年を超える拘禁刑の実刑に処せられた場合を対象とし、全部執行猶予の場合は除かれています。
事故が起きたら、本人と会社はそれぞれ何をすべきですか
本人については、救護と警察への報告を行い、現場の記録を残し、会社に速やかに報告することが出発点です。そのうえで、取調べで不正確な供述をしないこと、任意保険の適用範囲の確認、労災の届出、在留期間の満了日の確認が必要になります。
会社については、事故の報告を受けたら、保険会社への連絡、被害者への対応、労災の手続、そして技能実習や特定技能の場合は監理団体や登録支援機関への報告を行うことになります。事故を隠すことは、雇用主にとっても最も危険な選択です。当事務所では中国語の通訳を備え、事故を起こした本人からのご相談も、受入れ機関からのご相談もお受けし、刑事・賠償・労災・在留の各手続を並行して整理しています。
当事務所のご案内
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)は、中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護と入管手続を主たる注力分野としています。担当する松村大介弁護士(第一東京弁護士会所属・登録番号59077・2019年登録)が、警察署での最初の接見から検察官との交渉、公判、その後の入管手続に至るまで全工程を直接担当します。事務員や若手弁護士が代わりに対応することはありません。
外国人事件に精通した中国語専属通訳が常駐しており、捜査機関が手配する通訳とは別に、依頼者ご本人のために動く立場の通訳を利用していただけます。取調べで何を話したのか、入管で何を聞かれているのかを正確に把握できる体制です。刑事手続が終わった後の在留資格の更新・変更等については、提携する行政書士とワンストップで対応します。
- 難関とされた在留特別許可を1回の手続で獲得した事例。観光目的で来日した相談者が日本人女性との間に子を授かったものの、在留資格を失い不法滞在で逮捕・起訴された事案です。婚姻と認知の手続が未了で当局から一旦不受理とされたところ、松村弁護士が憲法的な観点から当局と交渉して婚姻・認知を成立させ、入管法違反の刑事裁判を意識した被告人質問・証人尋問を行いました。国籍国発行の公的書類がほとんど存在しない困難な状況下でも有利な証拠を集め、入管当局の過去の許可事例を分析することで、1回の手続で在留特別許可を得ました。
- 強制退去の危機にあった女性を救済した事例。冤罪により不法就労助長罪に問われ、強制退去の危機に瀕した女性の事案です。「退去強制事由には故意・過失を要しない」とされてきた従来の実務に対し、責任主義の射程を問う訴訟を提起して上訴審まで争いました。その後、入管から在留特別許可が認められました。
初回のご相談は無料です。費用は事案に応じてお見積りします。まずは現在の状況を整理するところから、一緒に始めさせてください。
おわりに
業務中の交通事故では、刑事責任は運転していた本人が負う一方、賠償責任は会社にも及び、さらに労災、監理団体への報告、在留資格の維持といった手続が同時に走ります。技能実習や特定技能の方にとって最も避けるべきは、事故の後に会社との連絡が途絶え、働けない期間が長引いてしまうことです。解雇された場合でも、届出と次の受入れ先を探す経過の記録を怠らないでください。
なお、本記事は一般的な解説であり、個別の事案については弁護士に直接ご相談ください。また、ここで紹介した過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではありません。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。
覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
お問い合わせ
舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
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