交通事故の現場で警察に何を話すか|外国人が通訳を確保する方法と供述の注意点
2026/08/28
交通事故の直後は、誰でも冷静ではいられません。相手が大きな声を出している、警察官が次々と質問してくる、周囲に人が集まってくる。日本語での細かいやり取りに自信がない状態で、その場の空気に押されるまま、よく分からないまま話してしまったという方は少なくありません。ところが、事故の直後に現場でどう説明したかは、その後の刑事処分や過失割合の判断に長く影響します。
本記事では、事故の現場で法律上必ずしなければならないこと、警察に何を話し何を話すべきでないか、そして日本語に不安がある場合に通訳をどう確保するかについて、外国人の当事者の視点から整理します。
交通事故を起こしたとき、その場で必ずしなければならないことは何ですか
けが人を救護すること、道路上の危険を防ぐ措置をとること、そして警察官に報告することの三つです。これは道路交通法が事故の当事者に課している義務であり、けが人を放置してその場を離れれば救護義務違反、いわゆるひき逃げとして重い処罰の対象になります。物損だけの場合でも、報告をせずに立ち去れば当て逃げとして扱われます。
相手がその場で示談を持ちかけてきたとしても、警察を呼ばないという選択はしないでください。後日になって相手が痛みを訴え、人身事故として届け出た場合、報告義務を果たさなかったこと自体が独立した違反として問題になります。事故の証明がないために保険が使えないという不利益も生じます。
警察は現場でどのようなことを聞きますか
事故がどのように起きたかを、位置と時間に沿って具体的に確認します。人身事故の場合は実況見分が行われ、当事者が現場でどこを走っていたか、どの地点で相手に気づいたか、どこでブレーキを踏んだかを指し示すよう求められます。この指示説明は実況見分調書としてまとめられ、後の刑事手続で有力な資料になります。
ここで気をつけたいのは、記憶が曖昧な点について、はっきりしないまま位置を指し示してしまうことです。数メートルの違いが、速度や回避の可能性の評価を変えることがあります。分からない点は分からないと述べ、その旨を記録してもらうことが正確な調書につながります。
日本語に自信がない場合、通訳はどう確保できますか
捜査機関は、日本語を十分に理解できない当事者について通訳人を手配します。取調べや調書の作成には通訳人が立ち会い、調書は通訳を介して読み聞かされます。したがって、言葉が分からない状態のまま説明を求められたときは、通訳をつけてほしいと明確に伝えて構いません。その場ですぐに手配できない場合、後日改めて事情を聴くという扱いになることもあります。
他方、事故現場の初期のやり取りでは、家族や勤務先の同僚、たまたま居合わせた知人が通訳役を務めてしまう場面がよくあります。これは避けた方が安全です。専門用語の訳が不正確になりやすいうえ、通訳をした人自身が事故の利害に関わっている場合、後になって内容の信用性が争われることもあります。
その場で謝罪すると責任を認めたことになりますか
謝罪の言葉だけで法的な責任が確定するわけではありません。過失の有無や割合は、道路の状況、信号、速度、双方の位置関係といった客観的な事実から判断されます。相手のけがを気遣う言葉をかけること自体は、人としてごく自然なことです。
ただし、自分が全部悪い、こちらが飛び出した、といった事実に関する断定的な発言は、供述として記録され得ます。実際には相手側にも不注意があった事案で、現場での一言が後の主張を難しくしてしまうことがあります。謝意を伝えることと、事故の原因について結論を述べることは、切り分けて考えてください。
現場では何を話し、何を話さないべきですか
見たこと、記憶していることを、そのまま話してください。逆に、次のような発言は控えるべきです。
- 記憶にない事実を、そうだったかもしれないと推測で述べること
- 速度や距離について、根拠のない具体的な数字を答えること
- どちらの過失が大きいかという評価を、自分から結論づけること
- 相手の求めに応じて、その場で賠償額を約束すること
速度については、正確に分からなければ分からないと述べるのが正しい対応です。分からないと答えることは、隠していることでも、非協力的な態度でもありません。
自分のために現場で残しておくべき記録は何ですか
後から作り直せない情報を、その場で確保しておくことです。具体的には、車両の損傷部位、路面のブレーキ痕、信号や標識、周囲の見通しなどを撮影した写真、相手方の氏名・連絡先・車両番号・加入している保険会社、目撃者がいる場合はその連絡先です。自分の車のドライブレコーダーの記録は、上書きされる前に保存してください。
また、その日のうちに、自分の記憶を自分の母語で書き留めておくことを強くお勧めします。時間が経つほど記憶は曖昧になり、後の取調べで細部が変わると、供述の信用性を疑われる原因になります。
在留カードや在留資格との関係で気をつけることはありますか
中長期在留者には在留カードの携帯と提示の義務がありますので、事故の現場では求めに応じて提示することになります。ここで在留カードを持っていない、在留期限が過ぎている、届け出た勤務先とは違う仕事をしていた、といった事情が明らかになると、交通事故の捜査から入管法上の問題が発覚することがあります。
実際、不法残留は入管法70条1項5号の罪であるとともに、24条4号ロの退去強制事由でもあり、刑事手続と退去強制手続は別個に進行します。交通事故の処分が軽く済んだとしても、入管の手続はそれとは別に続きます。事故をきっかけに在留の問題が表面化した場合は、早い段階で見通しを立てる必要があります。
弁護士に相談するのはどの時点がよいですか
できるだけ早い段階、できれば警察で本格的な取調べを受ける前です。現場での説明や最初の調書は、後の手続の出発点になります。方針を決めないまま調書を重ねてしまうと、後から訂正するのは容易ではありません。
当事務所では中国語の通訳を備え、事故直後の対応の助言から、警察・検察への対応、相手方との示談交渉、そして在留資格への影響の見通しまで、一連のご相談をお受けしています。事故の内容と在留の状況の両方を踏まえて、次に何をすべきかを整理することができます。
当事務所のご案内
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)は、中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護と入管手続を主たる注力分野としています。担当する松村大介弁護士(第一東京弁護士会所属・登録番号59077・2019年登録)が、警察署での最初の接見から検察官との交渉、公判、その後の入管手続に至るまで全工程を直接担当します。事務員や若手弁護士が代わりに対応することはありません。
外国人事件に精通した中国語専属通訳が常駐しており、捜査機関が手配する通訳とは別に、依頼者ご本人のために動く立場の通訳を利用していただけます。取調べで何を話したのか、入管で何を聞かれているのかを正確に把握できる体制です。刑事手続が終わった後の在留資格の更新・変更等については、提携する行政書士とワンストップで対応します。
- 難関とされた在留特別許可を1回の手続で獲得した事例。観光目的で来日した相談者が日本人女性との間に子を授かったものの、在留資格を失い不法滞在で逮捕・起訴された事案です。婚姻と認知の手続が未了で当局から一旦不受理とされたところ、松村弁護士が憲法的な観点から当局と交渉して婚姻・認知を成立させ、入管法違反の刑事裁判を意識した被告人質問・証人尋問を行いました。国籍国発行の公的書類がほとんど存在しない困難な状況下でも有利な証拠を集め、入管当局の過去の許可事例を分析することで、1回の手続で在留特別許可を得ました。
- 強制退去の危機にあった女性を救済した事例。冤罪により不法就労助長罪に問われ、強制退去の危機に瀕した女性の事案です。「退去強制事由には故意・過失を要しない」とされてきた従来の実務に対し、責任主義の射程を問う訴訟を提起して上訴審まで争いました。その後、入管から在留特別許可が認められました。
初回のご相談は無料です。費用は事案に応じてお見積りします。まずは現在の状況を整理するところから、一緒に始めさせてください。
おわりに
交通事故の現場での対応は、救護と報告という義務を果たすことが出発点であり、そのうえで、記憶にあることを正確に、記憶にないことは無理に述べないという姿勢が重要になります。日本語に不安があるときは通訳を求めてよく、その一言をためらわないことが、後の不利益を防ぎます。事故から時間が経つほど、証拠も記憶も失われていきます。
なお、本記事は一般的な解説であり、個別の事案については弁護士に直接ご相談ください。また、ここで紹介した過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではありません。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。
覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
お問い合わせ
舟渡国際法律事務所
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