交通事故の相手方が外国人の場合の賠償と保険|無保険・帰国・逸失利益の実務
2026/08/28
事故の相手が外国籍で、日本語がほとんど通じない。任意保険に入っているのかどうかも分からない。相手が近いうちに帰国してしまいそうで、このまま連絡が取れなくなるのではないかと不安がある。事故の当事者の一方または双方が外国籍である場合、こうした心配が現実の問題になります。
本記事では、当事者に外国籍の方が関わる交通事故で、賠償の枠組みがどう動くのか、相手方が無保険だった場合や帰国してしまう場合に何ができるのか、そして外国籍の被害者の損害額がどのように算定されるのかを説明します。
交通事故の相手方が外国人だと、賠償の枠組みは変わりますか
基本の枠組みは変わりません。日本国内で起きた交通事故の損害賠償は、当事者の国籍にかかわらず日本の法律によって処理されるのが原則です。強制加入である自賠責保険が人身損害について一定額まで支払い、それを超える部分と物の損害は、加害者側の任意保険または加害者本人が負担します。変わるのは制度そのものではなく、言語、資料の入手、そして相手方が日本にとどまるかどうかという実務上の条件です。この三点への備えが結論を左右します。
相手方が任意保険に入っていない場合、どうすればよいですか
まず、相手方が自賠責保険に入っているかを確認します。自賠責は車両ごとの強制保険で、人身損害については被害者が保険会社に直接請求することができます。自賠責の限度を超える部分や車の修理費については、加害者本人に請求することになりますが、資力がなければ回収は容易ではありません。この場合に頼りになるのが、ご自身が加入している保険です。人身傷害補償、無保険車傷害、車両保険といった特約は、相手方の資力にかかわらず使えることがありますので、保険証券を確認してください。
相手方が自賠責にも入っていない、あるいは当て逃げの場合はどうなりますか
自賠責保険が付いていない車による事故や、加害者が判明しないひき逃げの被害については、国が被害者の損害を一定の範囲で填補する政府保障事業という制度があります。自賠責保険と同水準の限度額で、人身の損害について支払いを受けられる仕組みです。損害保険会社の窓口を通じて請求します。健康保険や労災保険が使える場合はそちらが優先される点、支払いまで時間がかかる点に注意が必要です。
相手方が帰国してしまいそうな場合、先に何をすべきですか
やるべきことは明確です。相手が日本を離れる前に、動かせる情報と証拠を確保してください。
- 必ず警察に届け出て、人身事故として処理してもらい、交通事故証明書が取得できる状態にする。
- 相手方の氏名、在留カードの記載事項、国内の住所、勤務先、車両のナンバー、自賠責の証明書番号を控える。
- 本国の住所や連絡先、家族の連絡先も可能な範囲で確認する。
- 相手方が保険に入っていれば、保険会社と事故受付番号を把握する。
相手方が帰国しても、保険会社が対応する事案であれば手続は進みます。問題になるのは無保険の場合で、この場合は帰国前に賠償額と支払方法を書面で確定させられるかどうかが分かれ目になります。
外国人が被害者の場合、休業損害や逸失利益はどう計算されますか
休業損害は、実際に得ていた収入を基礎に算定するのが原則で、この点は国籍による違いはありません。将来にわたる収入減少である逸失利益については、最高裁平成9年1月28日判決が、日本に居住して就労する外国人について、日本で就労が予測される期間は日本の収入水準を基礎とし、その後は出国先である本国の収入水準を基礎として算定するという考え方を示しています。したがって、在留資格の種類と残存期間、更新の見込み、家族の状況など、日本での就労がどれだけ継続すると見込まれるかを裏づける資料が、賠償額に直接影響します。
治療費や通訳費用は賠償の対象になりますか
治療費、通院交通費、休業損害、慰謝料が対象になるのは日本人の場合と同じです。加えて、診察や示談交渉に通訳が必要であった場合の通訳費用、本国から家族が看護のために来日した際の費用なども、必要かつ相当な範囲で認められる余地があります。いずれも、必要であったことと実際に支出したことを示す資料が求められますので、領収書と、なぜ必要だったのかを説明できる記録を残してください。
示談書は何語で作りますか、内容で注意する点はありますか
日本語で作成し、当事者が理解できる言語の訳文を添えるのが安全です。当事者が内容を理解していなかったという主張が後から出ると、合意そのものが争いになりかねません。内容面では、支払金額と支払期日、分割払いの場合の遅滞したときの取扱い、今後互いに請求しないという清算条項の範囲を明確にすることが重要です。特に、後遺障害が残る可能性がある段階で、将来の分まで含めて清算してしまうと、後から追加請求ができなくなります。症状固定前の安易な合意は避けてください。
損害賠償を請求できる期間に制限はありますか
あります。人身の損害については、損害と加害者を知った時から5年が経過すると請求できなくなるのが原則です。相手方が帰国して連絡が取れない状態が続くと、この期間はあっという間に過ぎます。連絡が途絶えた段階で放置せず、支払督促や訴訟といった手続によって時効の進行を止められないかを検討することが必要です。
当事務所のご案内
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)は、中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護と入管手続を主たる注力分野としています。担当する松村大介弁護士(第一東京弁護士会所属・登録番号59077・2019年登録)が、警察署での最初の接見から検察官との交渉、公判、その後の入管手続に至るまで全工程を直接担当します。事務員や若手弁護士が代わりに対応することはありません。
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初回のご相談は無料です。費用は事案に応じてお見積りします。まずは現在の状況を整理するところから、一緒に始めさせてください。
おわりに
当事者に外国籍の方が関わる交通事故で決定的なのは、制度の違いではなく時間です。相手方が日本にいるうちに、保険の有無、連絡先、賠償の合意を書面で固められるかどうかで、その後に取り得る手段が大きく変わります。無保険であっても、自賠責、政府保障事業、ご自身の保険の特約など、使える制度は複数あります。まずは事故の状況と保険関係を整理し、どの制度から動かすべきかを見極めることが第一歩です。
なお、本記事は一般的な解説であり、個別の事案については弁護士に直接ご相談ください。また、ここで紹介した過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではありません。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。
覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
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