ひき逃げ(救護義務違反)の刑事処分と退去強制のリスク|外国人が知るべき対応
2026/08/28
接触したかもしれないと思いながらその場を離れてしまった、こわくなって走り去ってしまった、相手が立ち上がったので大丈夫だと思って帰ってしまった。ひき逃げの事案の多くは、悪意ではなく、動転と判断の誤りから生じています。しかし日本の法律は、事故後にその場でとるべき行動を明確に定めており、これを怠ると事故そのものよりも重く処罰されます。
ここでは、ひき逃げがどのような義務違反として扱われるのか、刑がどれほど重いのか、そして外国籍の方にとって最も切実な、退去強制のリスクがどの程度あるのかを説明します。
ひき逃げとは何ですか、どのような義務に違反するのですか
ひき逃げは、交通事故を起こした運転者が、その場で果たすべき義務を怠って立ち去ることを指します。道路交通法は、事故があったときは直ちに運転を停止し、けが人を救護し、道路上の危険を防止する措置をとり、警察官に事故の内容を報告することを運転者に義務づけています。
このうち、けが人を救護しなかった点が救護義務違反、警察に届け出なかった点が報告義務違反として、それぞれ別に評価されます。救急車を呼べば足りるわけではなく、救急隊が到着するまでその場にとどまることが求められます。
ひき逃げの刑はどのくらい重いのですか
運転者が自ら起こした人身事故で救護義務に違反した場合、10年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金が定められています。事故そのものの罪である過失運転致死傷が7年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金であることと比べると、逃げたことのほうが重く扱われていることが分かります。
実際の裁判では、過失運転致傷と救護義務違反、さらに報告義務違反が併せて審理されます。被害が重い場合や、飲酒・無免許が重なる場合には、初めての事件であっても実刑となる可能性が現実的に出てきます。
人にぶつかったことに気づかなかった場合も罪になりますか
救護義務違反が成立するには、人身事故があったことの認識が必要です。まったく気づかなかったのであれば、この点を争う余地があります。もっとも、実務では次のような客観的事情から認識が推認されます。
- 衝突の音や衝撃の程度、車両の損傷の位置と大きさ
- 事故直後にブレーキを踏んだか、速度を落としたか
- ミラーで後方を確認した動作の有無
- その後の運転経路(通常の帰宅経路を外れていないか)
- ドライブレコーダーや周辺の防犯カメラの映像
気づかなかったという説明は、これらの客観的資料と整合して初めて意味を持ちます。逆に、映像が残っている場合には、それが有利に働くこともあります。早い段階で証拠の所在を確認することが重要です。
物にぶつかって立ち去った場合はどうなりますか
けが人がいない物損のみの事故であっても、危険を防止する措置をとり、警察に報告する義務があります。これを怠ってその場を離れた、いわゆる当て逃げについては、1年以下の拘禁刑又は10万円以下の罰金が定められています。
駐車場で他人の車に接触した場合も同様です。連絡先を書いた紙を挟んでおけば足りるというものではなく、警察への報告が必要になります。後日、防犯カメラから特定されて捜査が始まる例が多くあります。
逃げてしまった後で出頭することに意味はありますか
大いにあります。逃走してから時間が経つほど、逃げ切ろうとしたという評価が強まり、身柄拘束の可能性も高まります。捜査が開始される前に自ら申告した場合には、自首として刑が減軽され得るほか、量刑上も有利に考慮されます。
また、被害者の治療や賠償の観点からも、早期の出頭には意味があります。任意保険を使うためには、事故の届出がされていることが前提となるため、届出をしないまま時間が経つと、被害者への賠償が滞り、その点も不利に評価されます。
ひき逃げで退去強制になるリスクはどの程度ありますか
交通事件のなかでは、退去強制のリスクが高い類型です。入管法24条4号リは、1年を超える実刑に処せられた場合を退去強制事由としており、同号但書により刑の全部の執行を猶予された場合は除かれます。つまり、判決で実刑となり、その刑期が1年を超えるかどうかが分かれ目になります。
ひき逃げは、過失運転致死傷と併せて審理されるため、被害が重い場合には1年を超える実刑が言い渡されることが現実にあります。逆に言えば、刑の全部の執行が猶予されれば、この規定による退去強制の対象からは外れます。したがって、刑事弁護の目標をどこに置くかが、そのまま在留の帰趨を左右します。
なお、退去強制手続に進んでしまった場合でも、在留特別許可(入管法50条)を求める道があります。ただし、同条1項の但書により、無期または1年を超える実刑に処せられた場合には、許可のために加重された要件を満たす必要があります。日本での在留期間、家族の状況、更生の見込みなどを、証拠をそろえて主張することになります。
免許はどうなりますか
人身事故での救護義務違反は、行政処分としても重く扱われ、免許は取り消され、長期間にわたり再取得できなくなります。刑事処分とは別の手続として進みますので、不起訴になった場合でも行政処分が行われることがあります。
取消しに先立って意見の聴取の機会がありますので、通知が届いたら必ず対応してください。仕事で運転が必要な事情なども、この場で述べることになります。
ひき逃げで捜査を受けている場合、まず何をすべきですか
被害者の状態を確認し、賠償の道筋をつけることが最優先です。保険会社への連絡、治療費の負担、謝罪の申入れを、弁護人を通じて速やかに行います。示談の成否は、実刑か執行猶予かという判断に直結し、それがそのまま退去強制のリスクに跳ね返ります。
同時に、事故態様と認識に関する自分の記憶を、早い段階で正確に整理しておくことが大切です。取調べは日本語で進み、通訳を介しても細かなニュアンスは伝わりにくいものです。逃げたつもりはなかったという趣旨を、どの事実によって裏づけるのかを、弁護人と詰めておく必要があります。
当事務所のご案内
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)は、中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護と入管手続を主たる注力分野としています。担当する松村大介弁護士(第一東京弁護士会所属・登録番号59077・2019年登録)が、警察署での最初の接見から検察官との交渉、公判、その後の入管手続に至るまで全工程を直接担当します。事務員や若手弁護士が代わりに対応することはありません。
外国人事件に精通した中国語専属通訳が常駐しており、捜査機関が手配する通訳とは別に、依頼者ご本人のために動く立場の通訳を利用していただけます。取調べで何を話したのか、入管で何を聞かれているのかを正確に把握できる体制です。刑事手続が終わった後の在留資格の更新・変更等については、提携する行政書士とワンストップで対応します。
- 難関とされた在留特別許可を1回の手続で獲得した事例。観光目的で来日した相談者が日本人女性との間に子を授かったものの、在留資格を失い不法滞在で逮捕・起訴された事案です。婚姻と認知の手続が未了で当局から一旦不受理とされたところ、松村弁護士が憲法的な観点から当局と交渉して婚姻・認知を成立させ、入管法違反の刑事裁判を意識した被告人質問・証人尋問を行いました。国籍国発行の公的書類がほとんど存在しない困難な状況下でも有利な証拠を集め、入管当局の過去の許可事例を分析することで、1回の手続で在留特別許可を得ました。
- 強制退去の危機にあった女性を救済した事例。冤罪により不法就労助長罪に問われ、強制退去の危機に瀕した女性の事案です。「退去強制事由には故意・過失を要しない」とされてきた従来の実務に対し、責任主義の射程を問う訴訟を提起して上訴審まで争いました。その後、入管から在留特別許可が認められました。
初回のご相談は無料です。費用は事案に応じてお見積りします。まずは現在の状況を整理するところから、一緒に始めさせてください。
おわりに
ひき逃げは、交通事件のなかでも刑が重く、外国籍の方にとっては実刑の有無がそのまま在留の帰趨につながる類型です。判決で刑の全部の執行が猶予されるかどうかが大きな分岐点となり、そのためには被害者への賠償と示談、そして事故態様に関する正確な主張が欠かせません。すでに捜査が始まっている方、まだ出頭していない方は、時間が経つほど選択肢が狭まりますので、できるだけ早くご相談ください。
なお、本記事は一般的な解説であり、個別の事案については弁護士に直接ご相談ください。また、ここで紹介した過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではありません。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。
覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
お問い合わせ
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ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
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