「帰化を申請しているから刑事事件があっても大丈夫」という誤解|国籍法の素行要件と在留資格への波及
2026/08/22
日本での在留が長くなり、帰化の申請をお考えの方、あるいは既に申請中の方から、こんなお言葉を伺うことがあります。「もう申請しているのだから、多少の事件があっても、そのうち日本国籍になるだろう」。残念ながら、これは順序が逆です。帰化の許可は、素行が善良であることを要件としており、刑事事件はその判断に正面から影響します。しかも、帰化が不許可となった場合、その方はもとの在留資格のまま日本に残ることになりますが、その在留資格もまた、同じ刑事事件によって揺らいでいます。
本記事の要点
- 国籍法5条1項3号は、帰化の要件として素行が善良であることを求めています。
- 刑事事件は、有罪判決に至らなくとも、捜査を受けた事実として審査の対象になります。
- 帰化の申請中に事件が生じた場合、法務局への申告が求められ、申告しないことがさらに不利に働きます。
- 帰化が不許可となれば、もとの在留資格に戻り、在留期間の更新の場面で同じ事件が再び評価されます。
- 刑事事件と帰化・在留の手続は、切り離さずに設計する必要があります。
帰化の「素行が善良であること」とは
国籍法5条1項は、帰化の一般的な要件を列挙しています。引き続き5年以上日本に住所を有すること(1号)、18歳以上で本国法によって行為能力を有すること(2号)、素行が善良であること(3号)、自己又は生計を一にする配偶者その他の親族の資産又は技能によって生計を営むことができること(4号)などです。
このうち3号の素行要件は、条文上、内容が具体的に定義されていません。実務では、納税の状況、交通違反歴、前科前歴の有無、社会保険料の納付状況などが総合的に見られています。ここでいう前歴には、起訴に至らなかった事件も含まれ得ます。不起訴処分は有罪ではありませんが、捜査を受けた事実そのものは記録として残ります。
なお、交通違反についても、軽微なものが一定期間内に反復していれば、素行の評価に影響し得ます。「刑事事件ではないから関係ない」という切り分けは、この場面では通用しません。
申請中に事件が起きたらどうするか
帰化の審査は長期に及びます。その途中で事件が生じた場合、法務局に対して申告することが求められます。ここで申告を避け、後に発覚した場合、事件そのものよりも「申告しなかったこと」が重く受け止められます。虚偽の申告があったと評価されれば、たとえ帰化が許可された後であっても、その許可の効力が問題とされる余地が生じます。
弁護人としては、事件の見通しが立った段階で、法務局への説明の内容と時期を検討します。捜査が継続中であることを理由に、いったん審査が停止されることもあります。急いで結論を出そうとするより、刑事の結論を待つほうが有利な場面もあり、この判断には刑事と国籍・在留の双方の見通しが要ります。
不許可となったときに待っているもの
ここが、この誤解の最も重い部分です。帰化が不許可となっても、日本を出なければならないわけではありません。もとの在留資格のまま在留することになります。しかし、その在留資格は無傷ではありません。
在留期間の更新は入管法21条3項の裁量判断であり、更新のガイドラインは素行が善良であることを求めます。帰化を不許可とした判断の根拠となった事情は、そのまま更新審査の材料でもあります。加えて、有罪判決が1年を超える拘禁刑の実刑であれば入管法24条4号リ、薬物関係の法令違反であれば刑の重さを問わず同号チが、それぞれ退去強制事由として問題になります。
永住者の方についても、事情は同じです。永住許可は在留期間の更新を要しませんが、退去強制事由に該当すれば手続の対象となり、また令和5年改正入管法により在留資格の取消しの場面も整備が進んでいます。「永住だから安全」「帰化申請中だから安全」という理解は、いずれも根拠を欠きます。
では、どう設計するか
第一に、刑事段階で不起訴処分を目指すことです。不起訴処分であれば、有罪判決に基づく退去強制事由の問題は生じません。素行要件の審査においても、有罪判決がある場合とない場合とでは、説明の難易度がまったく異なります。
第二に、記録を整えることです。被害弁償の領収書、宥恕の書面、贖罪寄付の受領証明、勤務先の在職証明、納税証明、社会保険の納付記録。これらは刑事の量刑資料であると同時に、帰化・在留の審査資料でもあります。刑事弁護の段階で意識して集めておけば、後の手続で作り直す必要がありません。
第三に、手続の順序を設計することです。帰化の申請を取り下げて在留の更新に集中するのか、審査の停止を受け入れて刑事の結論を待つのか。これは事案ごとの判断であり、一律の正解はありません。
当事務所の対応と解決事例
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区)は、刑事弁護と入管手続を一体のものとして設計してまいりました。
観光目的で来日した相談者が日本人女性との間に子を授かりながら在留資格を失い、不法滞在で逮捕・起訴された事案では、婚姻・認知の手続を成立させたうえで、入管当局の過去の許可事例を分析し、在留特別許可を獲得いたしました(事例D-1)。手続の順序を設計することが結果を左右した事例です。
また、卸業を営む依頼者の取り込み詐欺被害事件では、刑事告訴を端緒として7,500万円の解決金を獲得しております(事例C-1)。被害者側の立場での経験は、加害者側の事案における被害弁償の設計にも生きております。
過去の逮捕報道・前科報道について削除に成功した事例(事例F-4)もございます。社会復帰の場面で残る記録の扱いについても、ご相談を承っております。
当事務所の最大の特徴として、松村大介弁護士が接見の初動から公判の結審まで全工程を直接担当いたします(事務員・若手弁護士による代行を行いません)。また、当事務所には外国人事件に精通した中国語専属通訳が常駐しており、捜査機関が指定する通訳とは別に、依頼者ご本人のために動く立場の通訳を、刑事手続全般にわたってご利用いただけます。刑事手続終了後の在留資格の更新・変更については、提携の行政書士とワンストップで対応いたします。
おわりに
帰化の申請は、日本で長く生きていくという決意の表れです。その途中で刑事事件に遭遇したとき、申請を出したこと自体が盾になるわけではありません。しかし、これまで積み重ねてこられた生活の実績は、確かに主張すべき材料です。それを、どの手続で、どの順番で示すか。そこに弁護人の設計が要ります。
本記事は一般的な解説であり、個別事案については弁護士に直接ご相談ください。また、過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。
本記事は2026年8月時点の情報です。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
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