会社の資金を流用したと疑われたら|在日中国系企業の経理担当者と業務上横領事件、在留への影響
2026/08/14
本記事の要点
- 業務上横領罪(刑法253条)は10年以下の拘禁刑、背任罪(刑法247条)は5年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金です。
- 横領の罪を定める刑法第二編第38章は、入管法24条4号の2が列挙する罪名に含まれていません。ここは詐欺罪や窃盗罪との決定的な違いです。
- したがって、この類型で在留を分けるのは、主として入管法24条4号リの「1年を超える実刑か否か」という線引きです。
- 社内調査の段階で作成された報告書・確認書・誓約書は、後の刑事手続で有力な証拠として扱われます。刑事事件は社内調査の時点で始まっています。
- 被害弁償と告訴の取下げが不起訴処分に直結する類型であり、資金の手当てをいつ始めるかが結果を左右します。
在日中国系企業の経理・財務を任されていた方が、ある日、社内調査の対象になる。取引先への支払の名目で処理された資金の行方について説明を求められ、やがて刑事告訴に至る。この種のご相談は、決して珍しいものではありません。
この類型が難しいのは、刑事事件が始まる前に、既に社内で「事実認定」が行われてしまっている点にあります。そして外国人の方の場合、その先に在留資格の問題が控えています。本記事では、業務上横領・背任の嫌疑をかけられた場合に、どの段階で何を守るべきかを整理いたします。
1 業務上横領罪と背任罪の違い
業務上横領罪(刑法253条)は、業務上自己が占有する他人の物を横領した場合に成立し、法定刑は10年以下の拘禁刑です。罰金刑の定めがありません。他方、背任罪(刑法247条)は、他人のためにその事務を処理する者が、自己や第三者の利益を図る目的等で任務に背く行為をし、本人に財産上の損害を加えた場合に成立し、法定刑は5年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金です。
経理担当者が会社資金を私的に費消したとされる事案では、資金に対する占有の有無、名義と実質の関係、決裁権限の所在といった点で、どちらの構成が適切かが争われます。占有が認められなければ横領は成立しません。この入口の議論は、量刑にも、後述する在留への影響にも直結します。
2 社内調査の段階で刑事事件は始まっている
この類型に固有の落とし穴は、刑事手続に入る前の社内調査にあります。会社側の弁護士や監査担当者によるヒアリングで作成された報告書、その場で署名を求められた確認書や弁済誓約書は、後に刑事告訴がなされた際、捜査機関に提出され、有力な証拠として扱われます。
とりわけ、日本語での聞き取りに十分な通訳が付されないまま行われたヒアリングでは、事実関係の理解にずれが生じたまま署名に至る例があります。「金額の総額を認めた」という記録が一人歩きし、後に個別の支出の性質を争おうとしても、既に説明の負担が重くなっているという状況が生まれます。
社内調査の通知を受けた段階で弁護士に相談する。この一手が、この類型では最も費用対効果の高い選択です。
3 在留への影響 ― 横領は「列挙されていない」
入管法24条4号の2は、別表第一の在留資格で在留する方について、刑法第二編の一定の章の罪により拘禁刑に処せられた場合を退去強制事由と定めています。この列挙には、窃盗及び強盗の罪(第36章)、詐欺及び恐喝の罪(第37章)が含まれています。ところが、横領の罪を定める第38章は含まれていません。
この差は実務上きわめて大きな意味を持ちます。同じく会社財産に関する犯罪であっても、詐欺として構成されれば、別表第一の在留資格をお持ちの方は、執行猶予付きの拘禁刑であっても4号の2の退去強制事由に該当し得ます。他方、業務上横領として構成されれば、4号の2の列挙からは外れます。
もっとも、これで安心ということではありません。入管法24条4号リは、無期又は1年を超える拘禁刑に処せられた者を退去強制事由とし、刑の全部の執行猶予を受けた者を除くと定めています。業務上横領の法定刑は10年以下ですから、被害額が大きく、被害弁償がなされていない事案では、1年を超える実刑は十分に現実的です。この類型で在留を分ける線は、主としてここにあります。
加えて、刑事事件を理由に退職・解雇となった場合には、在留資格に応じた活動を継続して3か月以上行っていないことを理由とする在留資格の取消し(入管法22条の4)という別の入口が開きます。刑事と入管は、時間軸をずらして二度襲ってくると理解しておく必要があります。
4 被害弁償と不起訴 ― 資金の手当てをいつ始めるか
財産犯において、被害弁償と告訴の取下げが不起訴処分に与える影響は大きく、この類型では特に顕著です。会社側の関心は、多くの場合、処罰そのものよりも回収にあります。分割弁済であっても、実現可能な返済計画と担保的な裏づけを示せれば、告訴の取下げに至る余地があります。
ここで外国人の方に固有の障害となるのが、資金の調達です。中国本土のご家族から送金を受ける場合、外貨管理の規制により、まとまった額の送金には手続と時間を要します。勾留期間の20日間で完結する話ではありません。したがって、社内調査の段階、遅くとも告訴の直後から、送金経路の確認と資料の準備を並行して進める必要があります。
弁護活動の目標は、あくまで不起訴処分の獲得に置きます。執行猶予付き判決を得ても、前科は残り、在留期間の更新審査における素行の評価に影響します。「有罪だが刑務所に行かずに済んだ」ことと「日本に住み続けられる」ことは、別の話です。
5 初動で押さえておきたい3点
- 社内ヒアリングに応じる前に弁護士に相談する。署名を求められた書面は、その場で署名せず、内容を持ち帰って検討することが原則です。
- 取調べでは黙秘権が保障されています。経理処理の経緯は複雑であり、記憶に基づく即答が誤った供述として固定されるおそれがあります。
- 通訳を確保する。会計・税務の用語は日常の中国語会話とは異なる語彙であり、通訳の専門性が事実認定の正確さを直接左右します。
6 当事務所のご案内
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区)は、中国籍の依頼者を中心とする外国人の刑事弁護と入管手続に注力しております。松村大介弁護士(第一東京弁護士会・登録番号59077・2019年登録)が、接見の初動から公判の結審まで全工程を直接担当いたします。
財産犯・企業関係の紛争についても実績がございます。卸業を営む依頼者が取り込み詐欺の被害に遭った事案では、刑事告訴を端緒として相手方を特定し、被害額を大きく上回る7,500万円の解決金を獲得いたしました。また、虚偽の株主総会決議による代表取締役の解任が問題となった事案では、当該決議は不存在であると主張し、東京地方裁判所・東京高等裁判所のいずれにおいても勝訴しております。会社と個人の利害が交錯する事案において、刑事と民事の双方から筋道を立てる経験を蓄積してまいりました。
在留への波及についても一貫して対応いたします。不法就労助長罪に問われ強制退去の危機に瀕した女性の事案では、退去強制事由には故意・過失を要しないとする従来の実務に対し、責任主義の射程を問う訴訟を提起して上訴審まで争い、その後、入管から在留特別許可が認められました。この論点は現在も松村大介弁護士が係争中の争点であり、行政処分にどこまで責任主義が及ぶかという問題として、引き続き主張を続けております。
当事務所には外国人事件に精通した中国語の専属通訳が常駐し、接見・打合せ・公判の各段階でご利用いただけます。刑事手続終了後の在留資格の更新・変更等は、提携の行政書士と連携して対応いたします。
7 おわりに
業務上横領の嫌疑は、金額の一点だけで語られがちですが、実際には、占有の所在、決裁の実態、費消の目的といった事実の積み重ねで結論が変わります。そして、その事実を最も正確に説明できるのは、ほかならぬご本人です。説明の機会を有利な形で確保するために、早い段階で弁護人を立てていただくことをお勧めいたします。
本記事は一般的な解説であり、個別事案については弁護士に直接ご相談ください。
過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。
本記事は2026年8月時点の情報です。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
微信ID:matsumura1119
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住所 : 東京都豊島区高田3丁目4-10布施ビル本館3階
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