電車内での痴漢・不同意わいせつで外国人が逮捕されたら|示談と不起訴が在留を左右する理由
2026/08/14
本記事の要点
- 迷惑防止条例違反か、刑法176条の不同意わいせつ罪かで、法定刑も見通しも大きく変わります。
- わいせつの罪を定める刑法第二編第22章は、入管法24条4号の2が列挙する罪名に含まれていません。執行猶予付きの判決というだけで直ちに退去強制となるわけではありません。
- 他方、1年を超える実刑となれば入管法24条4号リに該当し、在留資格の種類を問わず退去強制の対象となります。
- 起訴・有罪の事実は、在留期間の更新(入管法21条)の審査で素行として考慮されます。守るべきは前科そのものです。
- 被害者の連絡先は、通常、弁護人に対してしか開示されません。弁護人選任の遅れが、そのまま示談機会の喪失につながります。
朝の通勤電車で腕をつかまれ、そのまま駅事務室へ連れて行かれる。ご本人にとっても、後から連絡を受けたご家族にとっても、何が起きているのかを把握することすら難しい数時間が始まります。外国人の方の場合、そこに「日本にいられなくなるのではないか」という、日本人の事件にはない不安が重なります。
本記事は、電車内の痴漢事案・不同意わいせつ事案で外国人の方が身柄を拘束された場合に、刑事手続の側と在留資格の側でそれぞれ何が起きるのかを、条文に即して整理したものです。ご本人向けというより、連絡を受けて動かれるご家族・ご友人に読んでいただくことを想定しています。
1 迷惑防止条例違反か、不同意わいせつ罪か
同じ「痴漢」と呼ばれる行為でも、適用される条文は一つではありません。衣服の上から触れたとされる態様であれば、各都道府県の迷惑防止条例違反として扱われることが多く、多くの条例では6か月以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金(常習の場合は加重)と定められています。条例の内容は都道府県ごとに異なりますので、事件の発生地の条例を確認する必要があります。
他方、衣服の中に手を入れたとされる態様等では、刑法176条の不同意わいせつ罪が適用されます。同罪の法定刑は6月以上10年以下の拘禁刑であり、罰金刑の定めがありません。起訴されて有罪となれば、執行猶予が付く場合であっても、拘禁刑の言渡しを受けることになります。入口の罪名が変われば、その後の見通しは根本から変わります。
2 最初の72時間に何が起きるか
逮捕されると、警察は48時間以内に事件を検察官に送致し、検察官は24時間以内に勾留を請求するかどうかを判断します。この最初の72時間は、原則として弁護人以外の面会ができない時間帯です。ご家族が警察署に駆けつけても、その場でご本人に会うことはできません。
勾留が決まれば原則10日、延長でさらに最大10日の身柄拘束が続きます。痴漢事案では、被害者との接触のおそれが指摘されやすく、勾留が認められる傾向があります。逆に言えば、この段階で弁護人が接触禁止の具体的な担保を示し、身元引受の体制を整えられるかどうかが、身柄の帰趨を分けます。
3 在留資格への影響 ― 条文の構造を正確に読む
外国人の方の事件では、刑事処分の内容がそのまま在留に跳ね返ります。ただし、その跳ね返り方は罪名によって異なります。ここを混同した説明が世上少なくありません。
入管法24条4号の2は、別表第一の在留資格(技術・人文知識・国際業務、留学、技能実習、特定技能等)で在留する方について、刑法第二編の一定の章の罪により拘禁刑に処せられた場合を退去強制事由と定めています。列挙されているのは、住居を侵す罪、通貨・文書・有価証券・印章の偽造に関する各章、賭博、殺人、傷害、逮捕監禁、略取誘拐、窃盗強盗、詐欺恐喝、盗品等に関する罪であり、わいせつ・不同意性交等の罪を定める第22章は含まれていません。したがって、不同意わいせつ罪で執行猶予付きの判決を受けたというだけで、直ちに4号の2に該当するわけではありません。
もっとも、これは安全を意味しません。入管法24条4号リは、無期又は1年を超える拘禁刑に処せられた者を退去強制事由と定め、刑の全部の執行猶予を受けた者を除くとしています。裏返せば、1年を超える実刑となった場合には、在留資格の種類を問わず退去強制の対象となります。不同意わいせつ罪の法定刑の上限は10年ですから、態様や前科の有無によっては、この線を超える現実的な可能性があります。
さらに、退去強制に至らない場合であっても、在留期間の更新は別問題です。入管法21条に基づく更新は法務大臣の裁量に委ねられており、審査の実務では素行が考慮されます。起訴された事実、有罪判決を受けた事実は、更新時に不利益に働きます。「執行猶予が付いたから日本に残れる」という説明は、この二段構えの構造を見落としたものです。
4 不起訴処分の獲得が最大の防御線である理由
以上の構造から導かれる結論は明快です。外国人の方の痴漢・不同意わいせつ事案では、弁護活動の目標を執行猶予の獲得に置くべきではありません。起訴される前の段階で不起訴処分を獲得することが、在留を守る上で最も確実な方法です。不起訴となれば前科は残らず、更新審査においても説明の余地が大きく残ります。
そして、この類型で不起訴を左右する最大の要素が示談です。被害者の連絡先は、捜査機関が弁護人に対してのみ、被害者の同意を得て開示する運用が一般的であり、ご本人やご家族が直接連絡を取ることはできません。むしろ直接接触を試みれば、罪証隠滅のおそれを裏づける事情として身柄拘束を長引かせます。示談交渉の窓口を開けるかどうかは、弁護人を選任した時点で決まります。
示談が成立し、被害者の宥恕(許すという意思)が得られれば、起訴猶予による不起訴処分の可能性は相当に高まります。逆に、勾留期間の20日間を漫然と過ごせば、示談の機会そのものが失われます。時間が資源であるという意味が、この類型では最も鮮明に表れます。
5 初動で押さえておきたい3点
- 黙秘権を理解した上で対応する。この類型では「早く帰りたい」という気持ちから、曖昧なまま認める内容の調書が作られてしまう例が後を絶ちません。認めるにせよ争うにせよ、方針を決める前に弁護人と話すことが先です。
- 弁護人を早く選任する。当番弁護士制度は初回接見の入口としては有用ですが、示談交渉を継続して担当してもらうには、私選弁護人の選任か国選弁護人の選任を待つ必要があります。示談の窓口が開くまでの日数が、そのまま結果に響きます。
- 通訳の質を確認する。捜査機関が手配する通訳人は、法律用語の専門家であるとは限りません。「触った」と「当たった」の訳し分けのような、この類型で決定的な差を生む語のニュアンスが、供述調書に固定されてしまうことがあります。
6 当事務所のご案内
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区)は、中国籍の依頼者を中心とする外国人の刑事弁護と入管手続を主たる注力分野としております。松村大介弁護士(第一東京弁護士会・登録番号59077・2019年登録)が、初動の接見から公判の結審まで全工程を直接担当いたします。事務員や若手弁護士による代行は行っておりません。
性的被害に関わる事案の示談交渉については、被害者側の代理人としての経験も蓄積しております。深夜の盗撮被害事件において、被害者代理人として刑事告訴と示談交渉を担当し、300万円の慰謝料の支払を内容とする示談を成立させた事例がございます。被害者側がどのような点を重視し、どのような条件であれば宥恕に至るのかを、双方の立場から具体的に把握していることは、加害者側の示談交渉においても実務的な強みとなります。
また、万一、刑事手続の後に退去強制手続へ進んだ場合にも対応が可能です。観光目的で来日された方が在留資格を失い、不法滞在で逮捕・起訴された事案において、婚姻・認知の手続が未了であったため当局から一旦不受理とされたところ、憲法的観点から当局と交渉して手続を成立させ、国籍国発行の公的書類がほとんど存在しないという困難な状況下でも、入管当局の過去の許可事例を分析して在留特別許可を獲得した事例がございます。
当事務所には、外国人事件に精通した中国語の専属通訳が常駐しております。捜査機関が指定する通訳人とは異なり、依頼者ご本人のために動く立場の通訳を、接見・打合せ・公判の各段階でご利用いただけます。刑事手続終了後の在留資格の更新・変更等については、提携の行政書士と連携してワンストップで対応いたします。
7 おわりに
痴漢事案は、証拠構造が単純に見えて、実際には供述と客観状況の細部で結論が分かれる類型です。そして外国人の方の場合、その結論が生活の基盤そのものを左右します。日本に築いてこられた仕事・家族・生活を守るために動ける時間は、逮捕から起訴までのごく短い期間に集中しています。まずは、その期間内に何ができるかを弁護人と整理されることをお勧めいたします。
本記事は一般的な解説であり、個別事案については弁護士に直接ご相談ください。
過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。
本記事は2026年8月時点の情報です。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
微信ID:matsumura1119
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舟渡国際法律事務所
住所 : 東京都豊島区高田3丁目4-10布施ビル本館3階
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