舟渡国際法律事務所

不法就労助長と退去強制 刑事事件で不起訴になっても、退去強制が待っている

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不法就労助長と退去強制 刑事事件で不起訴になっても、退去強制が待っている

不法就労助長と退去強制 刑事事件で不起訴になっても、退去強制が待っている

2026/06/22

不法就労助長と退去強制 刑事事件で不起訴になっても、退去強制が待っている

「自分は社長でもないのに、なぜ自分だけが退去強制になるのか」。不法就労助長の疑いをかけられた外国人の方から、当事務所はこうしたお声を何度も伺ってきました。在留資格をきちんと持ち、まじめに働いてきた方が、ある日突然、入管から取調べを受け、退去強制の手続に乗せられてしまう。この記事は、不法就労助長に巻き込まれてしまった外国人ご本人とそのご家族に向けて、何が問題になっているのか、そしてどこで、どう闘うべきなのかを、弁護士の視点から整理するものです。

はじめに 「不法就労助長」とは何か

不法就労助長とは、ごく簡単にいえば、働く資格のない外国人を働かせたり、その手助けをしたりすることをいいます。出入国管理及び難民認定法(以下「入管法」といいます)は、これを二つの場面で問題にします。一つは刑事罰(入管法73条の2)、もう一つは退去強制(入管法24条3号の4イ)です。

ここで多くの方が見落とすのは、この二つが「別々の手続」だという点です。刑事事件で不起訴になっても、退去強制の手続はそれとは別に進みます。むしろ、本当の正念場は退去強制の場面にあるといってよいのです。なぜそうなるのか、順を追って説明します。

第1 刑事事件と退去強制は「別の手続」である

1 二つの条文

入管法73条の2は、事業活動に関して外国人に不法就労活動をさせた者などを、3年以下の拘禁刑若しくは300万円以下の罰金に処し、又はこれを併科すると定めています(令和4年改正刑法の施行により、従来の「懲役」は「拘禁刑」に一本化されました)。これが刑事罰の規定です。

これに対して、入管法24条3号の4イは、「事業活動に関し、外国人に不法就労活動をさせること」を行い、唆し、又はこれを助けた者を、退去強制の対象とすると定めています。こちらは刑罰ではなく、日本から出ていってもらうための行政上の手続です。

2 不起訴でも退去強制が残る理由

刑事事件は、検察官が起訴するかどうかを判断します。証拠が足りないなどの理由で起訴されなければ「不起訴」となり、前科はつきません。ところが、退去強制は入管(出入国在留管理庁)が独自に判断する手続です。検察官が不起訴にしても、入管が「24条3号の4イに当たる」と認定すれば、退去強制の手続は止まりません。

実際、刑事では不起訴となった方が、その後の退去強制手続では収容令書を出され、退去強制の対象とされてしまう事例があります。「刑事で不起訴になったのだから、もう大丈夫」と安心してしまうと、足元をすくわれます。刑事と入管は、最初から最後まで両にらみで臨む必要があるのです。

第2 最大の難所 退去強制事由をめぐる「客観説」と「主観説」

不法就労助長の退去強制で、いちばんの争点になるのが、「本人が、相手に働く資格がないことを知っていたか(あるいは不注意で見落としたか)」を問題にするのか、それとも、そうした事情は一切問わず、客観的に働かせた事実さえあれば足りるとするのか、という対立です。これを便宜上、主観説と客観説と呼ぶことにします。

1 刑事罰には「過失処罰」の規定がある

入管法73条の2第2項は、刑事罰について、相手が資格外活動であることなどを「知らないことを理由として処罰を免れることができない。ただし、過失のないときは、この限りでない」と定めています。つまり、刑事罰の世界では、わざと(故意)でなくても、不注意(過失)があれば処罰されますが、過失すらない(無過失の)場合には処罰されない、という仕組みになっています。

2 ところが退去強制の条文には同じ規定がない

問題は、退去強制を定める24条3号の4イには、この「ただし、過失のないときは、この限りでない」に当たる規定が置かれていないことです。そこで入管と裁判所は、これを逆手にとって、次のように解釈しています。

3 裁判所・入管の立場(客観説)

裁判所の一部や入管は、おおむね次のように述べます。すなわち、24条3号の4イにいう「不法就労活動をさせること」とは、外国人に不法就労活動をさせるという客観的事実と、その客観的事実に対応する認識があれば足り、相手の活動が資格外活動であることの認識までは必要ない。そして、刑事罰の条文と違って過失に関するただし書がない以上、退去強制では、資格外活動であることを知らなかったことについての過失すら必要ない、というのです。

この立場の根底には、「退去強制は刑罰ではなく行政処分であるから、本人の故意・過失は原則として要件にならない」という発想があります。これが客観説です。客観説に立つと、極端にいえば、まじめに在留カードを確認したのに巧妙な「なりすまし(替え玉)」を見抜けなかっただけの人まで、退去強制の対象になりかねません。

4 これに対する反論(主観説 制裁的行政処分には故意・過失が必要)

当事務所は、この客観説は誤りであると考えています。神戸大学名誉教授・阿部泰隆弁護士の意見書をはじめとする学説の支えも得て、主に次のように主張します。

第一に、退去強制は「行政処分だから故意・過失はいらない」と一括りにできるものではありません。行政処分には、違法状態を将来に向けて是正するためのもの(たとえば違法建築物の除却命令、車検資格の停止など)と、過去の違反を理由に相手を不利益に扱う「制裁的な処分」とがあります。前者なら本人の落ち度を問わなくてよい場面もありますが、後者、すなわち制裁的な性質をもつ処分については、その悪質さの程度を判定する必要があるため、本人の故意・過失が当然に問題になります。

第二に、退去強制は、本人の生活基盤をすべて奪い、国外へ追放する、きわめて重大な不利益処分です。路上喫煙の過料がわずか数千円であってもなお、無過失の人には科せないとした裁判例があるほどです(横浜地裁・東京高裁の各判決)。それと比べれば、退去強制という比較にならないほど重い処分について、無過失の人まで対象にしてよいはずがありません。責任主義(落ち度のない人を罰しないという法の基本原則。憲法31条の趣旨)の観点からも、退去強制という制裁的処分には、少なくとも過失が必要だと考えるべきです。

第三に、立法の経緯をたどっても、無過失の人まで追放することは想定されていませんでした。24条3号の4イが追加された平成21年改正は、不法就労外国人を組織的に送り込む悪質なブローカーや、それを承知で雇う事業主に的確に対処することを狙ったものです。国会の議論を調べても、無過失の人の退去強制を正当化するような議論は見当たりません。

第3 どんなケースで「不法就労助長」とされているのか(裁判例の分析)

では、実際に不法就労助長が問題になるのは、どのような場面なのでしょうか。当事務所では、判例データベースを用いて、24条3号の4イの該当性が争われた裁判例55件を抽出し、分析しました。そこから見えてきたことは、次のとおりです。

1 責任を問われたのは、常に経営者・雇用主

第一に、不法就労助長を「した」とされた人は、いずれも会社の経営者や雇用主、店の責任者でした。採用や使役について実際に決定権をもつ立場の人です。採用権限のない末端の従業員や、補助的に書類を取り次いだだけの社員が、不法就労助長の責任を負わされた裁判例は見当たりません。

2 大半が「スナック・飲食店」型、続いて「現場系」

第二に、裁判例として表に出てくる事案は、その大半がスナック・クラブ・飲食店などで、資格のない外国人をホステスや従業員として働かせていた、いわゆる「スナック・飲食店」型でした。これに次いで、工場・製造・人材派遣など、いわゆる「現場系」の事案が見られます。要するに、不法就労助長は、夜の店と現場仕事の周辺で、雇う側が確認を怠った場面に集中して発生しているのです。

ここで重要なのは、これらの典型例の多くでは、雇う側が在留カードによる就労資格の確認をそもそも行っていない、という共通点があることです。「短期滞在」や「留学」の在留資格しかない人を、資格外活動の許可があるかどうかも確かめずに働かせれば、故意・過失があるといわれてもやむを得ません。

3 真正な在留カードで確認した「無過失」の処分例は見当たらない

第三に、本物の在留カードの原本まで確認したうえで、それでも巧妙な替え玉を見抜けなかった、という無過失に近い事案で退去強制された例は、分析した裁判例の中に見当たりませんでした。これは、入管の運用も、裁判所の審理も、実際には「落ち度のある雇う側」を念頭に置いて動いてきたことを示しています。きちんと確認したのに見抜けなかっただけの人を狙い撃ちにすることは、これまでの実務とも整合しませんし、同じような立場の人との間で不公平(平等原則違反)でもあります。

第4 在留特別許可で「許可される人」「されない人」(公表事例の傾向)

退去強制の対象とされても、なお日本にとどまる道として、在留特別許可があります。出入国在留管理庁は、毎年、許可された事例と許可されなかった事例を公表しています。不法就労助長が関係する事例を整理すると、許可と不許可を分ける傾向が見えてきます。

1 罰金にとどまり、かつ家族の事情がある場合の許可例はある

公表事例を見る限り、不法就労助長で許可された例は、いずれも刑が罰金にとどまり、かつ、本人に日本人配偶者や日本で暮らす子がいるなど、家族関係を理由とする事情が認められたものです。たとえば、本人が日本人の配偶者であり、不法就労助長で罰金(略式)となったものの、在留特別許可(日本人の配偶者等)が認められた例が複数あります。

2 単身者の許可例は公表されていない

逆にいえば、守るべき家族関係がなく、本人が単身であるという事案で、不法就労助長を理由に在留特別許可が認められた例は、公表事例の中には見当たりません。同じ罰金の事案でも、婚姻や同居の実態がない、配偶者と別居しているといった事情があると、不許可となっている例が目立ちます。つまり、「罰金+安定した家族関係」がそろってはじめて許可の現実味が出てくる、というのが公表事例から読み取れる傾向です。

3 拘禁刑(実刑・執行猶予を問わず)はほぼ不許可

さらに、不法就労助長が売春周旋などと結びつき、拘禁刑(執行猶予が付いた場合を含みます)に至った事案では、家族関係があっても不許可となる例がほとんどです。刑が重くなるほど、在留特別許可のハードルは一気に上がります。だからこそ、後で述べるように、刑事の段階でいかに軽い結末(できれば不起訴)に持ち込むかが、その後の在留にも直結するのです。

第5 では、どう闘うか 三つの段階

1 まず刑事事件で「嫌疑不十分・嫌疑なし」の不起訴を目指す

第一段階は刑事事件です。ここで目指すべきは、単なる不起訴ではなく、「嫌疑不十分」または「嫌疑なし」による不起訴です。同じ不起訴でも、中身は大きく異なります。

「起訴猶予」は、嫌疑(疑い)はあるけれども、諸般の事情から今回は起訴しない、という処分です。これに対して「嫌疑不十分」「嫌疑なし」は、そもそも犯罪の成立を認めるだけの証拠がない、という処分です。後の退去強制手続では、入管は刑事記録も参考にします。「起訴猶予(嫌疑はあった)」よりも、「嫌疑不十分・嫌疑なし(そもそも助長の事実が認められない)」を獲得しておくほうが、退去強制の場面でも格段に有利に働きます。刑事弁護の出発点から、退去強制を見据えて、不起訴の「中身」にこだわることが大切です。

2 退去強制手続でも、制裁的行政処分論と過失の理論で該当性を争う

第二段階は退去強制手続です。仮に刑事が不起訴であっても、入管が24条3号の4イへの該当を主張してくる場合には、ここで正面から争います。具体的には、前記第2で述べた主観説の立場から、退去強制は制裁的な行政処分であって、本人に故意又は少なくとも過失がなければ該当しないことを主張します。本物の在留カードを確認し、当時の社会状況のもとでできる確認を尽くしていたのであれば、過失はありません。加えて、そもそも本人が採用・使役の決定権をもたない立場であれば、「させた」という行為の主体にも当たらないことを、事実に即して主張していきます。

3 仮に形式的な該当性が認められても、比例原則違反を主張する

第三段階は、最後の歯止めです。仮に、形式的には24条3号の4イに当たると判断されたとしても、実際に退去強制を行うかどうかには、入管の裁量が働きます。落ち度がごくわずかであるのに、生活のすべてを奪う退去強制を行うことは、違反の程度と処分の重さとの均衡を欠き、比例原則に違反します。日本でまじめに働き、社会に貢献してきた事情、家族の状況、再発防止のための体制などを丁寧に積み上げ、退去強制という重い結論が不相当であることを訴えていきます。

第6 最初の段階で、してはいけないこと・すべきこと

不法就労助長の疑いをかけられたとき、初動を誤ると、後の手続が一気に不利になります。次の点を心に留めてください。

第一に、取調べでは黙秘権があります。言葉の不慣れや遠慮から、事実と違うことや、自分に不利になる言い回しを安易に認めてしまうと、それが後の退去強制手続でも証拠として使われます。よく分からないまま署名・押印しないことが重要です。

第二に、できるだけ早く弁護人を選任してください。刑事の入口の段階から弁護人が関与することで、不起訴(できれば嫌疑不十分・嫌疑なし)の獲得や、その後の入管対応の準備が大きく変わります。

第三に、経験のある通訳を介して、正確に意思を伝えることが欠かせません。微妙なニュアンスの取り違えが、供述の意味を変えてしまうことがあるからです。

当事務所の体制

舟渡国際法律事務所は、外国人の刑事弁護と、退去強制・在留特別許可をはじめとする入管手続の双方に取り組んでまいりました。中国人通訳を備え、言葉の壁にも配慮しながら対応しています。万一、退去強制の手続に進んでしまった場合にも、在留特別許可を求める活動を行ってきた経験があります。在留資格・ビザに関する手続については、提携の行政書士と連携してサポートすることが可能です。不法就労助長は、刑事と入管が表裏一体の問題です。早い段階でご相談いただくことが、結果を左右します。

結論

最後に、本稿の結論として、当職の私見を述べます。不法就労助長による退去強制は、「刑事で不起訴になれば終わり」ではありません。むしろ、刑事と退去強制という二つの手続を、最初から一体のものとして見据えることが必要です。

そして、退去強制事由の該当性を、客観的な事実だけで機械的に決めてよいとは考えません。退去強制は、人の生活のすべてを奪う制裁的な処分である以上、本人に故意又は少なくとも過失がなければ、これに当たらないと解すべきです。本物の在留カードを確認し、できる限りの確認を尽くしたうえで巧妙な替え玉を見抜けなかっただけの人を、悪質なブローカーと同じ土俵で追放することは、法の正義にも、これまでの実務にも反します。

まずは刑事事件で嫌疑不十分・嫌疑なしの不起訴を目指すこと。退去強制手続に移っても、制裁的行政処分論と過失の理論で該当性を争うこと。仮に形式的な該当性が認められても、比例原則違反を主張すること。この三段構えで、依頼者の権利を最後まで守り抜くべきだと、当職は考えます。

舟渡国際法律事務所 https://matsumura-lawoffice.jp/

(本稿は一般的な法律情報の提供を目的とするもので、個別の事案の結論を保証するものではありません。具体的なご相談は弁護士にお問い合わせください。)

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