医師でない占い師が医療的な鑑定を行うことの医師法適合性について
2026/06/17
要 旨
本件の検討課題は、医師免許を有しない占い師が、依頼者に対し病気や体調に関する「鑑定」(いわゆる医療的鑑定)を行うことが、医師法17条の禁ずる無資格医業に当たるか否かである。
占い師の鑑定が医師法17条違反となるか否かは、当該行為が「医業」、すなわち「医行為」を業として行うものに当たるかによって決せられる。最高裁令和2年9月16日決定(タトゥー事件)は、「医行為」を、(1)医療及び保健指導に属する行為であること(医療関連性)と、(2)医師が行うのでなければ保健衛生上危害を生ずるおそれがあること(保健衛生上の危険性)の二要件を満たす行為と解し、その該当性は、行為の方法・作用のみならず、目的、行為者と相手方との関係、具体的状況、実情や社会における受け止め方等をも考慮して、社会通念に照らして判断するとした。
本件の評価において最も示唆に富む先例が、大判昭和6年11月30日(掌薫療法事件)である。同事件は、自己の掌を患者に差し出して病気の有無を察知し、患者から自覚症状を聴いてこれを確かめ、掌を当てて治療する行為について、実質的危険性がないことを理由に医行為該当性を否定した。掌で病気の有無を「察知」して告げるという施術は、占い師が霊視等により病状を鑑定する行為に外形が極めて近く、危険性を欠く限り医行為に当たらないことを示す。同様に紅療法事件(大判昭和8年7月8日)も、診察を伴いつつ患部に紅を塗布する行為につき危険性がないとして医行為性を否定した。これに対し、蛭療法事件(大判昭和9年4月5日)や鍼灸の子宮内診(大判昭和15年3月19日)は、生理上の危険があるとして医行為性を肯定している。両者を分けるのは保健衛生上の危険性の有無である。
他方、断食道場事件(最決昭和48年9月27日)は、医療以外の施術のためにされた症状・病歴の聴取を「問診」として医行為に当たるとした。その調査官解説は、問診自体に直接的な危険性はなくとも、不適切な問診により治療の誤りが招来される危険を捉えて保健衛生上の危険性を認めたものと説く。近時の札幌地判平成16年10月29日は、眼球虹彩診断(虹彩による疾病診断という疑似科学的手法)とホメオパシー薬の投薬について医行為性を肯定した。占い師の医療的鑑定は、これら危険性肯定例と否定例(掌薫療法)の間で、医療関連性と危険性の有無により評価される。
以上のとおり、占い師が運勢・吉凶や精神的助言を述べ、実質的危険を伴わない範囲にとどまる限り、医療関連性ないし危険性を欠き医行為に当たらない余地が大きい。これに対し、症状を聴取し(問診)、個別具体的な病状判断を告知し、又は治療に介入して保健衛生上の危険を生じさせる場合は、反復継続の意思があれば医師法17条違反が成立し得る。加えて、占い師の医療的言動は、詐欺罪、消費者契約法上の取消し(霊感商法に関する規律)、特定商取引法・景品表示法・医薬品医療機器等法(薬機法)上の広告規制等の問題も生じさせ得る。
第1 検討課題
本報告書は、医師免許を有しない占い師(霊能者・スピリチュアルカウンセラー等を含む。以下「占い師」という。)が、依頼者の身体・健康に関する事項について「鑑定」を行うことが、医師法17条の無資格医業の禁止に違反するかを、裁判例・調査官解説・文献に即して網羅的に整理するものである。
ここで「医療的鑑定」とは、占いの過程で、依頼者の病名・体調・病気の原因・治癒の見込み・とるべき養生や処置等に言及する一連の言動を広く指すものとして用いる。これには、単に健康運を述べるにとどまるものから、具体的な病名を告知し、医療機関の受診や治療の中止を勧めるものまで、幅広い態様が含まれる。態様によって法的評価が大きく異なるため、以下では類型を分けて検討する。
第2 医師法の規律の枠組み
1 医業の医師独占(医師法17条・31条)
医師法17条は、「医師でなければ、医業をなしてはならない。」と定め、医業を医師に独占させ、一般人に対してこれを禁止する(医業独占)。同法31条1項1号は、これに違反した者を3年以下の拘禁刑若しくは100万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する旨を定める(令和4年改正刑法の施行〔令和7年6月1日〕により、従来の「懲役」は「拘禁刑」に改められた。)。
「医業」とは、「医行為を業とすること」をいう。「医業」の積極的定義については、「人の疾病を診察、治療または予防の目的をもって施術をなし、もしくは治療薬を指示投与することを目的とする業務」等の諸説があるが、医学の進歩に伴い内実が変化するため定義の明文化は困難とされ、「医行為を業とすること」と形式的に定義すること自体には異論がないとされている。「業として」とは、反復継続の意思をもって行うことをいい、現実の反復継続や報酬の有無は必ずしも要件ではない。したがって、占い師の医療的言動が医師法17条に触れるか否かは、その言動が「医行為」に該当するかという点に帰着する。
2 行政解釈による「医行為」の定義
厚生労働省は、「医業」とは、当該行為を行うに当たり、医師の医学的判断及び技術をもってするのでなければ人体に危害を及ぼし、又は危害を及ぼすおそれのある行為(医行為)を、反復継続する意思をもって行うことであると解してきた(平成17年7月26日医政発第0726005号、令和4年12月1日医政発1201第4号〔その2〕)。学説上も、医行為には広狭二義があり、広義の医行為は医療目的の下に行われその目的に沿うと認められる行為を、狭義の医行為(医業の内容となる医行為)は、そのうち保健衛生上の危険性を有するものをいうと整理されてきた。もっとも、個々の行為の医行為該当性は、行為の態様に応じ個別具体的に判断する必要がある。
第3 「医行為」の意義と判断枠組み
1 最高裁令和2年9月16日第二小法廷決定(タトゥー事件)
医行為の意義について最高裁が初めて正面から判断枠組みを示したのが、最決令和2年9月16日刑集74巻6号581頁(医師でない彫り師によるタトゥー施術が医師法17条違反に問われた事案。以下「タトゥー事件決定」という。)である。
同決定は、医師法17条にいう「医業」の内容となる医行為とは、「医療及び保健指導に属する行為のうち、医師が行うのでなければ保健衛生上危害を生ずるおそれのある行為をいう」と判示した。すなわち、医行為に該当するには、(1)医療及び保健指導に属する行為であること(医療関連性)と、(2)医師が行うのでなければ保健衛生上危害を生ずるおそれがあること(保健衛生上の危険性)の二要件が必要であることを明示した。第一審(大阪地判平成29年9月27日判時2384号129頁)は危険性のみを要素として医行為性を肯定したが、控訴審(大阪高判平成30年11月14日判時2399号88頁)は医療関連性を要するとして無罪とし、最高裁もこれを是認した。危険性に加えて医療関連性を独立の要件として要求した点に、本決定の最も重要な意義がある。
2 該当性の判断方法(総合考慮・社会通念)
タトゥー事件決定は、ある行為が医行為に当たるか否かについて、「当該行為の方法や作用のみならず、その目的、行為者と相手方との関係、当該行為が行われる際の具体的な状況、実情や社会における受け止め方等をも考慮した上で、社会通念に照らして判断するのが相当である」とした。そのうえで、タトゥー施術行為は、装飾的・象徴的ないし美術的な要素を有する社会的な風俗として受け止められてきたもので医療及び保健指導に属する行為とは考えられてこなかったこと、医学とは異質の美術等に関する知識・技能を要すること、歴史的に医師免許を有しない彫り師が行ってきた実情があり医師が独占して行う事態は想定し難いこと等を指摘し、医療関連性を欠くとして医行為性を否定した。
本決定の調査官解説(最高裁判所判例解説刑事篇令和2年度・池田知史。ジュリスト1561号97頁にも所収)は、医師法17条が「医師に医行為を独占させる」という方法で保健衛生上の危険を防止する規定である以上、医行為とは性質上、医師がその知識と技能をもって行うことが想定される行為、すなわち医師の職分である医療及び保健指導に属する行為(医療関連性のある行為)と解するのが相当であり、医療関連性のない行為まで医行為に含めるのは妥当でないと説く。草野耕一裁判官の補足意見は、危険性のみで医業性を肯定すれば我が国でタトゥー施術を業とする者が存在し得なくなる不合理を指摘するとともに、施術の内容・方法によっては傷害罪が成立し得るとして、本決定により施術が一律に不可罰となるものではない旨を付言する。
3 「診察(診断)」「問診」と医行為
占い師の医療的鑑定を評価する上で決定的に重要なのが、「診察(診断)」が典型的な医行為とされる点である。大審院以来、医行為は診療行為(診察・治療・投薬等)のうち一定の危険性を有するものと解されてきた。最決昭和48年9月27日刑集27巻8号1403頁(断食道場事件)は、断食道場の入寮者に対し入寮目的・入寮当時の症状・病歴等を尋ねる行為を「問診」に当たるとして医行為性を認めた。その原審(東京高判昭和47年12月6日)は、この聴取を「相手の求めに応じてそれらの者の疾病の治療、予防を目的として、本来医学の専門的知識に基づいて認定するのでなければ生理上危険を生ずるおそれのある断食日数等の判断に資するための診察方法」であり問診に当たると判示しており、医療機関でない場面の症状聴取であっても医行為となり得ることを示している。
行政解釈も、厚生労働省「オンライン診療の適切な実施に関する指針」が、患者の様々な情報を確立された医学的法則に当てはめ、疾患の名称・原因・現在の病状・今後の病状の予測・治療方針等について主体的に判断し伝達する行為を「診断」とし、医行為に当たるとする。他方、患者の病状について判断せず一般的な医学情報を伝えるにとどまる行為は医行為に当たらない。グレーゾーン解消制度の照会事例でも、患者の個別状況にかかわらず公表情報を提供する場合は医行為に当たらないが、患者の具体的症状に応じて服薬量変更等の情報を提供する場合は医学的判断を伴うとして医行為に該当し得るとされている。本決定の調査官解説(池田知史)も、病歴等を尋ねる行為は、医師が診察として行う場合と、保険会社が保険契約締結の資料とするために行う場合とで、医療に属する行為か否かや保健衛生上危害を生ずるおそれの有無が異なり得ると指摘しており、同じ「病歴聴取」でも目的・行為者と相手方との関係により医療関連性・危険性の評価が変わることを示している。医行為該当性の分水嶺は、相手方の個別具体的な情報に依拠してその者の病状について主体的に判断を下すか否かにある。
4 保護法益と「消極的弊害」論
無免許医業罪の保護法益は、公衆衛生・国民の健康という社会的法益である。学説上、その「危害」には、(ⅰ)個々の行為の人体に対する危険という積極的・直接的な弊害のみならず、(ⅱ)行為それ自体は危険でないが、正常な医療が定着せず、本来受けることが可能な有益な治療を受ける機会が失われるという消極的・間接的な弊害も含まれると説く見解が有力である(大谷實、佐伯仁志ほか)。すなわち、偽医者により誤った治療を受ける危険だけでなく、偽医者にそれ自体は無害な施術を受けることで適切な医療の機会を奪われることも弊害に含まれるとする。
もっとも、この消極的弊害をも考慮する通説的理解に対しては、医学的知識が普及した現在においてそこまで処罰する必要はなく、医業というプロフェッション自体を保護するに等しいとの批判もある(町野朔ほか)。判例をみると、昭和30年判例・昭和48年判例・平成9年判例はいずれも積極的弊害を保健衛生上の危険性として捉えており、平成9年判例の調査官解説も、昭和30年判例は危害を行為対象者の人体への危害に限定する立場(限定説)に立つと理解できると説く。
この論点は占い師の医療的鑑定の評価に直結する。占い師が誤った病状判断を告げて医療機関の受診を遅らせ、あるいは治療を中止させる場合、依頼者が適切な医療を受ける機会を奪う点に着目すれば、消極的弊害として保健衛生上の危険性を基礎づける議論があり得る。もっとも、判例の主流が限定説に立つことからすれば、消極的弊害のみを根拠に危険性を肯定することには慎重な検討を要する。実務的には、問診類似の聴取に伴う判断の誤りという積極的弊害(断食道場事件の捉え方)を中心に据えつつ、消極的弊害を補強的に位置づけるのが穏当である。
第4 占い師の医療的鑑定への当てはめ
1 検討の視点
占い師の医療的鑑定の医行為該当性は、(1)医療関連性と(2)危険性の二要件に、(3)「業として」(反復継続の意思)の要件を加えて判断される。占いの場面では、社会における受け止め方を含む総合考慮の中で、当該言動が「医療及び保健指導に属する行為」と評価されるか(医療関連性)と、保健衛生上の危険性を生じさせるかが中心的な争点となる。以下、態様を三類型に分けて検討する。
2 類型別の検討
(1)純粋な占い・精神的助言にとどまる類型
タロット・易・四柱推命・手相・霊視等により、健康運や運勢の吉凶を述べ、あるいは「無理をしないように」といった一般的・精神的な助言を述べるにとどまる場合である。この類型は、社会通念上「占い」として受け止められる行為であり、医学的法則に当てはめて個別の病状を判断するものではない。タトゥー事件決定のいう医療関連性とは認め難く、医行為に当たらないと解するのが相当である。占いは古来宗教的・習俗的営みとして行われてきたもので、医師が独占して行う事態は想定し難いという点も、タトゥー施術と共通する。
(2)病状の「察知」・告知にとどまる類型(掌薫療法事件型)
霊視・手かざし等により「あなたは胃が悪い」などと病気の有無や所在を述べるが、医学的検査や侵襲的処置を伴わず、依頼者も占いとして受け止めている場合である。この類型に最も近接する先例が掌薫療法事件(大判昭和6年11月30日刑集10巻666頁)である。同事件は、自己の掌を患者の前面に差し出して病気の有無を察知し、更に患者から自覚症状を聴いてこれを確かめ、掌を当てて治療する行為について、実質的危険性がないことを根拠に医行為該当性を否定した。
掌で病気を「察知」して告げるという施術は、占い師が霊視等により病状を鑑定する行為と外形・実質ともに極めて近い。掌薫療法事件は、外形的には診察・治療に類する営みであっても、それが保健衛生上の実質的危険を欠く限り、無資格医業罪の医行為には当たらないことを示す。占い師の病状鑑定が、医学的検査・問診・侵襲的処置を伴わず、医学的判断に基づく診断としての実体を欠き、社会通念上も占いとして受け止められる範囲にとどまる限り、同事件と同様に、医療関連性ないし保健衛生上の危険性を欠くとして医行為該当性が否定される余地が大きい。
(3)問診・診断・治療に踏み込む類型(断食道場事件型・虹彩診断型)
これに対し、依頼者から自覚症状や経過を聴取し(問診類似行為)、これに基づいて個別具体的に病名・原因・今後の病状・治療方針を判断して告知し、あるいは独自の処置を施し、医療機関での治療・服薬を中止させる場合は、評価が逆転する。
断食道場事件(最決昭和48年9月27日)は、医療機関でない施設における症状・病歴の聴取を「問診」として医行為性を認めた。その調査官解説(最高裁判所判例解説刑事篇昭和48年度・向井哲次郎240頁)は、問診自体に直接的な危険性はないが、不適切な問診により治療の誤りが招来される危険があるとして保健衛生上の危険性を肯定したものと説く。占い師が依頼者の症状を聴取して病状を判断する行為は、この「問診」の実質を備え得る。
さらに、札幌地判平成16年10月29日判タ1199号296頁は、眼球虹彩診断(虹彩の状態から疾病を診断するという疑似科学的手法)及びホメオパシー薬の投薬について医行為性を肯定した。占いに近接する疑似科学的な診断手法であっても、それが個別の病状を診断するものとして行われ、投薬等の危険を伴う場合には医行為に当たることを示す先例であり、掌薫療法事件と対照をなす。
以上を踏まえると、占いという外形をとっていても、問診の実質を備え、相手方の個別具体的な情報に依拠した主体的な病状判断(診断)に踏み込み、かつ医学的根拠を欠く判断により必要な受診・治療の機会を遅らせ、又は侵襲的処置により保健衛生上の危険を生じさせるに至れば、目的(健康上の不安への対処)・相手方との関係(健康相談として相対している実態)等の総合考慮の下で医療関連性が認められ、反復継続の意思をもって行う限り、医師法17条違反が成立し得る。
3 小括
占い師の医療的鑑定が医師法17条違反となるか否かは、掌薫療法事件型(病状の察知・告知にとどまり危険性を欠く)か、断食道場事件型・虹彩診断型(問診・診断・治療に踏み込み危険性を生じさせる)かによって分かれる。占いという外形は免責を保障するものではなく、鑑定の実質が「問診」「診断」「治療」に当たり、保健衛生上の危険を生じさせるかが決め手となる。最終的には、問診の有無・程度、病状判断の具体性、検査・侵襲的処置の有無、受診中止勧奨の有無、報酬体系、宣伝・標榜の態様等の個別事情に依存する。
第5 関連裁判例及び沿革
1 大審院判例(危険性を基準とする医行為の限界)
大審院は、旧医師法の施行当初から医行為を診療行為(診察・治療・投薬等)と解しつつ、無資格医業禁止の趣旨を一般の危険の防止に求め、危険性の有無を医行為該当性の基準としてきた。大判昭和2年12月18日刑集(刑録)は、医師の手足として行動するにとどまり患者に対し危険を生ずるおそれのない行為は無免許医業の罪に当たらないとした。
この危険性基準により、外形上は民間療法・施術でありながら医行為性が否定された一群の先例がある。すなわち、掌薫療法事件(大判昭和6年11月30日刑集10巻666頁。掌を患者に差し出して病気の有無を察知し、自覚症状を聴いて確かめ、掌を当てて治療する行為。実質的危険性がないとして否定)、紅療法事件(大判昭和8年7月8日刑集12巻1190頁。診察を伴いつつ関節炎患部に紅を塗布する行為。危険性がないとして否定)がそれである。これに対し、蛭療法事件(大判昭和9年4月5日刑集13巻377頁。吸角に蛭を入れ患部に当てて血液を吸出する行為)、鍼灸の子宮内診(大判昭和15年3月19日刑集19巻134頁。膣内に子宮鏡を挿入して内診する行為)は、生理上の危険があるとして医行為性を肯定した。占い師の病状鑑定の評価においては、これら否定例(掌薫療法・紅療法)と肯定例(蛭療法・子宮内診)を分かつ「保健衛生上の危険性」の有無が決定的となる。
2 最高裁判例(診察・問診・読影・検眼)
最三小判昭和30年5月24日刑集9巻7号1093頁は、聴診・触診・指圧等の方法による治療行為につき、医学上の知識と技能を有しない者がみだりに行えば生理上の危険があるとして医行為性を肯定し、保健衛生上の危険性が医行為の要素であることを判例上明らかにした。最一小決昭和48年9月27日刑集27巻8号1403頁(断食道場事件)は、入寮目的・症状・病歴の聴取を「問診」として医行為に当たるとした。最一小決平成3年2月15日刑集45巻2号32頁は、柔道整復師による放射線照射は診療放射線技師法違反にとどまる(同法は医師法の特別規定)としつつ、エックス線写真の読影により骨折の有無等疾患の状態を診断することは医師法17条違反に当たるとした。最一小決平成9年9月30日刑集51巻8号671頁は、コンタクトレンズ処方のための検眼及びテスト用レンズの着脱を医行為に当たるとした。いずれも診察・問診・読影・検眼による「診断」が医行為の典型であることを示している。
3 占い・疑似科学的診断に関する近時の裁判例
占いに近接する疑似科学的な診断・施術については、札幌地判平成16年10月29日判タ1199号296頁が、眼球虹彩診断及びホメオパシー薬の投薬について医行為性を肯定している。虹彩により疾病を診断するという手法は科学的根拠を欠くものの、個別の病状を診断するものとして行われ投薬を伴う点で、保健衛生上の危険性と医療関連性が肯定されたものと解される。掌薫療法事件(危険性なしとして否定)と対照すると、占い・疑似科学的手法による「診断」も、その実質が個別の病状判断に踏み込み危険を伴えば医行為に当たり得ることが分かる。
4 医業類似行為と憲法22条(昭和35年判決)
最大判昭和35年1月27日刑集14巻1号33頁(HS式無熱高周波療法事件)は、あん摩・はり・きゅう・柔道整復以外のいわゆる医業類似行為を業として行うことの禁止につき、職業選択の自由(憲法22条)との関係から、人の健康に害を及ぼすおそれのある業務に限って禁止の対象となると限定解釈した。占いや民間療法のように危険性が具体的に認められない行為は、無資格処罰の対象から外れ得ることを示す先例である。
5 アートメイクに関する裁判例・行政解釈
針等で皮膚に色素を注入するアートメイクについては、医行為に当たるとする行政解釈(平成元年・平成12年・平成13年の各通知)及び同旨の裁判例(東京地判平成2年3月9日判時1370号159頁)があり、令和5年7月3日医政医発0703005号も同様の取扱いを示している。タトゥー事件決定が医療関連性を理由にタトゥー施術を医行為から除外したことと対比すると、同じ「皮膚への色素注入」でも、目的・受け止め方等の総合考慮により結論が分かれることが分かる。占いの事案でも、同様に総合考慮が決定的となる。
第6 結論
占い師の医療的鑑定が医師法17条の無資格医業に当たるかは、当該言動が「医行為」に該当するか、すなわち(1)医療関連性と(2)保健衛生上の危険性の二要件を満たすかにより、社会通念に照らして総合的に判断される。
純粋に運勢・吉凶や精神的助言を述べ、あるいは病気の有無を「察知」して告げるにとどまり、掌薫療法事件のように実質的危険性を欠く範囲の言動は、医療関連性ないし危険性を欠き、医行為に当たらないと解する余地が大きい。これに対し、依頼者の症状を聴取し(問診)、その個別具体的な情報に基づいて病名・原因・今後の病状・治療方針等を判断して告知する診断類似行為や、現に受けている医療を中止させて独自の処置を施す行為は、断食道場事件・虹彩診断事件が示すとおり、医療関連性と危険性の双方が肯定され、反復継続の意思があれば医師法17条違反が成立し得る。
占いという外形は、それ自体で免責を保障するものではない。鑑定の実質が「問診」「診断」「治療」に踏み込み、保健衛生上の危険を生じさせるほど違反の危険が高まり、併せて詐欺罪、消費者契約法上の取消し、薬機法・景品表示法等の広告規制の問題も生じる。具体的事案の評価に当たっては、問診・病状判断の具体性、検査・侵襲的処置の有無、受診中止勧奨の有無、金銭授受の構造、宣伝・標榜の態様等の個別事情を精査し、関連法令を一体的に検討することが相当である。
以 上
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