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銃刀法にいう「おそれ」の解釈についての実務的検討

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銃刀法にいう「おそれ」の解釈についての実務的検討

銃刀法にいう「おそれ」の解釈についての実務的検討

2026/05/14

銃刀法にいう「おそれ」の解釈についての実務的検討

――裁判例・憲法的視座・実例から問い直す

舟渡国際法律事務所 弁護士 松村大介

令和8年5月14日

第1 はじめに――一片の警告が銃所持を奪う構造

銃砲刀剣類所持等取締法(以下「銃刀法」という。)5条1項18号は、銃砲の所持許可を「他人の生命若しくは身体を害し、又は他人の財産に害を加えるおそれがある者」に対しては与えない旨を定める、いわゆる包括条項(バスケット条項)である。同条号は、同項1号から17号までの個別欠格事由のいずれにも該当しない者であっても、「将来、他害行為に及ぶおそれ」があると認められれば許可を取消し得るとする規定であり、実務上きわめて広汎な裁量を都道府県公安委員会に委ねている。

もっとも、ここでいう「おそれ」とは何か。条文の文言は短く、立法経緯においても具体的判断基準は示されていない。しかも、現実の運用においては、当事者が知らぬ間に発出された警察官の口頭警告ひとつ、ストーカー規制法上の文書警告ひとつが、直ちに「他害のおそれ」の根拠として転用され、その結果、長年合法に所持してきた猟銃・空気銃が一夜にして取り上げられるという事態が現に発生している。

当職が代理した令和8年茨城県公安委員会の仮領置処分取消事案(令和8年5月11日)も、まさにそうした「警告連動型」の銃取上げ事案であった。依頼者は身に覚えのないストーカー警告を受け、その翌日に警察官から「拳銃みたいなものを所持していますね」「念のため一旦預からせてください」と告げられ、正当防衛具・狩猟用具・登山趣味のサバイバルナイフ等の合計8点を仮領置されるに至ったのである。

本稿は、この実例を素材として、銃刀法18号「おそれ」の解釈を、関連裁判例、憲法的視座、ストーカー規制法との交錯という三つの観点から実務的に再検討するものである。

第2 条文の構造と立法趣旨

1 条文構造

銃刀法5条1項は、銃砲所持の許可を与えない者として、年齢要件(1号)、住所要件(2号)、心身障害要件(3~5号)、麻薬等中毒(6号)、自殺・自傷のおそれ(7号)、一定の犯罪歴(8~10号、12~14号)、暴力的団体への所属(15・16号)、同居人による不適切な使用のおそれ(17号)を列挙したうえで、18号において「前各号に掲げる者のほか、他人の生命若しくは身体を害し、又は他人の財産に害を加えるおそれがある者」を欠格事由として規定している。

すなわち、1号から17号までが客観的・類型的事情に基づく欠格事由であるのに対し、18号は、これに該当しない者であっても「将来の他害のおそれ」という主観的・予測的判断によって所持を否定し得るとする補充規定である。

2 立法趣旨

銃刀法は、銃砲の社会的危険性に着目し、一般的禁止を原則としつつ、許可制によって例外的に所持を認める構造を採用する(最判昭和46年4月22日刑集25巻3号49頁参照)。もっとも、許可された者にとって銃砲はもはや合法所持の対象であり、正当な趣味・職業(狩猟、有害鳥獣駆除、射撃競技、警備業務等)の重要な手段でもある。

札幌地判令和3年12月17日(判例タイムズ1497号166頁)は、銃刀法10条の12第1項1号に基づく許可取消しの可否が争われた事案において、「銃砲の用途は、人命や財産を侵害する手段としてのみあるのではなく、狩猟・有害鳥獣駆除・射撃競技等の正当な目的を有するものである」とし、取消事由としての危険性は「具体的・現実的なもの」でなければならず、「抽象的・観念的な危険」では足りないとの判断を示した。

同判決は10条の12第1項1号に関するものであるが、その立法趣旨論は、許可取消し・仮領置・没収といった所持剥奪型の処分一般に妥当する。5条1項18号の「おそれ」要件も、この立法趣旨に照らせば、単なる抽象的可能性をもって認め得るものではなく、一般人を基準として、当該事情のもとで具体的・現実的な他害行為が予見されるか否かをもって判断すべきである。

第3 関連裁判例の整理――三類型に分けて

1 原則類型|抽象的危険の排斥(札幌地判令和3年12月17日)

前掲札幌地判は、所持許可を受けた者の家族関係のトラブル等を理由として公安委員会が許可取消しを行った事案について、「銃砲を用いて他人の生命・身体を害するおそれ」とは、銃の取扱いにおける具体的危険行為、過去の暴力前歴と銃所持との結びつき、当該人物の精神状態・薬物使用状況等、客観的事実に裏付けられた予見可能性をいうものであって、主観的不安・抽象的可能性のみで足りるものではない、と判示した。

同判決は、警察の「念のため」の運用に対する強い歯止めとして機能しており、5条1項18号の解釈にあたっても基準判例となるべきものである。

2 後発的危険消滅型(東京地判平成30年3月30日)

東京地判平成30年3月30日(判例時報2384号29頁)は、当初、銃所持者と被害者女性との間に交際関係に伴うトラブルが認められ、一旦は仮領置・許可取消しが正当化されたものの、事後的に関係が解消し、ストーカー警告も撤回された結果、「銃砲を用いて他害に及ぶおそれ」がもはや存在しないと評価された事案である。

すなわち、危険性の判断が当初は適法であったとしても、時間の経過と事情の変化により後発的に危険が消滅した場合には、銃の返還義務が公安委員会に課されることを示した先例として位置づけられる。

3 原始的判断誤認型(令和8年5月11日茨城県公安委員会取消処分)

当職が代理した令和8年5月11日付け茨城県公安委員会の仮領置処分取消事案は、上記平成30年東京地判が「後発的に危険が消滅した類型」であったのと対照的に、「当初から危険性の判断自体が誤っていた類型」である。

本件では、令和7年11月のストーカー口頭警告そのものが、もともと事実に基づかない誤った警告であったうえ、依頼者には反論の機会も与えられていなかった。公安委員会は、提出した審査請求書および行政指導中止申出書を踏まえて全件再検討を行い、仮領置処分を取り消すに至った。

この二つの類型を並置することにより、「おそれ」要件は、当初判断時点においても、その後の時点においても、具体的・現実的危険の存否によってその都度厳格に検証されなければならないことが明らかとなる。

4 反対類型|実害発生事案との対比(札幌高判令和6年10月18日)

札幌高判令和6年10月18日は、猟銃の使用に伴って跳弾が他人の財産に被害を生じさせた事案について、銃砲所持の許可取消しを是認したものである。同判決は、現実の他害結果が発生し、かつ取扱者の不注意との因果関係も明らかな事案において、取消しの適法性を肯定したものであって、「おそれ」要件の解釈にあたっては、具体的危険行為の客観的存在を厳格な要件とした判決として読まれるべきである。

すなわち、この判決は許可取消しを認めたものでありながら、同時に、そうした実害類型に至らない事案にまで取消し・仮領置を拡張することの問題性を示唆するものである。

5 手続権類型|文書警告の処分性(大阪高判令和6年6月26日)

大阪高判令和6年6月26日は、当職が代理人として獲得した裁判例である。従来、警察によるストーカー規制法上の文書警告は「行政指導」にとどまり、抗告訴訟の対象となる処分には該当しないとされてきたが、同判決は、文書警告が銃刀法上の絶対的人的欠格事由となることを捉え、その法的効果を肯定した。

この判決は、銃刀法の領域における「おそれ」の判断構造が、ストーカー規制法上の警告連鎖と密接に結びついている現実を司法が初めて正面から認めたものであり、本稿の問題関心とも直結する。

第4 憲法的視座から「おそれ」要件を再構成する

1 憲法31条(適正手続)

所持許可の取消し・仮領置は、相手方の財産権を実質的に剥奪する行為であり、行政処分のなかでも特に侵害性が強い。にもかかわらず、実務上は事前の弁明の機会も与えられないまま現場で「念のため」預けさせる運用が広く行われている。

最大判平成4年7月1日民集46巻5号437頁(成田新法事件)が示すとおり、憲法31条は刑事手続のみならず行政手続にも及び、不利益処分の重大性に応じて適正な手続が要請される。仮領置処分のように所持の物理的剥奪を伴う処分について、弁明の機会を与えずに即時執行することは、憲法31条の趣旨に反するというべきである。

2 憲法29条(財産権)

銃砲は許可を受けた者にとって正当な財産であり、これを取り上げる処分は財産権の制限にあたる。財産権の制限は、公共の福祉の見地から正当化される場合に限り許され、かつ制限の手段は目的との関係で比例的でなければならない(憲法29条、比例原則)。

具体的危険が存在しない抽象的「おそれ」のみで銃砲を取り上げる運用は、比例原則に照らして過剰規制であり、財産権侵害の評価を免れない。

3 憲法14条(平等原則)

「おそれ」要件の運用は、同種事案について同種の判断がなされる限りで合理性が担保される。札幌地判令和3年が示したような厳格な基準が定着している地域・時期がある一方で、当職が経験した茨城県の事案のように、ほぼ抽象的可能性のみで仮領置がなされる地域・時期もある。このような取扱いの不均衡は、行政の自己拘束法理および憲法14条1項の平等原則に照らして看過し得ない。

4 憲法22条(職業選択の自由)

銃砲所持の取消しは、狩猟業・有害鳥獣駆除従事者・射撃競技者・警備業者等にとっては、事実上の職業遂行不能を意味する。これは憲法22条の保障する職業選択・職業遂行の自由に対する重大な制約であり、同条との関係でも厳格な必要性審査が要請される。

5 憲法13条(自己決定権・人格権)

さらに、本件のように、事実無根のストーカー警告に基づいて長年の趣味(狩猟・サバイバル登山等)の用具まで一括して取り上げられる場合、依頼者の生活設計・人格的活動そのものが否定されることになる。憲法13条が保障する自己決定権・人格権の観点からも、「おそれ」要件は厳格に解されるべきである。

第5 ストーカー規制法との交錯――警告連鎖の構造

1 ストーカー規制法上の三段階

ストーカー規制法は、つきまとい等の行為に対する規制として、口頭警告(同法4条1項)→文書警告(同条2項)→禁止命令(同法5条)という三段階の措置を予定する。いずれも警察本部長・警察署長の判断によって行われるが、実務上、口頭警告は弁明の機会を経ずに事実上発出されることが多く、被警告者が知らぬ間に「警告対象者」として記録されてしまう事例が報告されている。

2 銃刀法18号への転用

警察実務において、ストーカー警告の対象者となった事実は、そのまま銃刀法5条1項18号の「他害のおそれ」の根拠資料として活用される運用がある。すなわち、ストーカー警告1件が、そのまま銃所持の根拠を剥奪する材料として転用される構造が存在する。

しかし、ストーカー警告は、その対象者の交際関係上のトラブルに着目した行政的指導であって、銃の取扱いに関する具体的危険行為を直接示すものではない。これを直ちに「銃で他人を害するおそれ」の根拠とする運用は、事案の性質を超えた連想に過ぎず、札幌地判令和3年が排斥した「抽象的・観念的危険」の典型である。

3 大阪高判令和6年6月26日の意義

前述のとおり、大阪高判令和6年6月26日は、文書警告の法的効果を初めて肯定し、ストーカー規制法と銃刀法18号との連鎖構造を司法が認識する出発点となった。今後の実務においては、同判決を踏まえ、ストーカー警告そのものを争うことと、これに連動する銃刀法上の仮領置・取消処分を争うことを、一体的に検討する必要がある。

第6 実例――令和8年茨城県公安委員会取消処分事案

当職が代理したA氏は、令和7年11月、河川敷を散歩中に警察官の職務質問を受け、これに対する受け答えだけを理由に「ストーカー行為のおそれあり」として口頭警告を受けた。その翌日、警察官がA氏の自宅を訪問し、「念のため、銃砲類は一旦お預かりさせていただきます」として、A氏が長年所持してきた猟銃・空気銃・サバイバルナイフ等合計8点を仮領置するに至った。

A氏には他害行為の前歴も具体的徴候もなく、銃の保管状況も完全に適正であった。にもかかわらず仮領置処分が行われたのは、まさに「ストーカー警告対象者=銃刀法18号のおそれあり」という安易な転用が起動したからにほかならない。

当職は、令和8年初頭に審査請求書(茨城県公安委員会宛て)および行政指導中止申出書(取手警察署長宛て)を提出し、ストーカー警告の事実誤認、反論機会の不存在、比例原則違反、憲法31条・29条・14条違反、札幌地判令和3年の射程の本件への該当を体系的に主張した。

令和8年5月11日、茨城県公安委員会は仮領置処分を取り消す処分を行った。理由として明示されたわけではないが、当初のストーカー警告そのものに事実的根拠が薄かったこと、銃所持に関する具体的危険性が認められなかったことの双方が背景にあるものと推察される。

この事案は、「ストーカー警告→銃刀法18号転用」という連鎖を、審査請求段階で逆方向に解きほぐすことが可能であることを示した実例として、今後の同種事案の救済可能性を切り拓くものである。

第7 あるべき解釈――「具体的危険」基準

以上を踏まえれば、銃刀法5条1項18号「おそれ」要件は、次のように解されるべきである。

第1に、抽象的・観念的危険では足りず、一般人を基準として、当該事情のもとで具体的・現実的な他害行為が予見されることを要する(札幌地判令和3年)。

第2に、判断資料は、当該人物自身の銃の取扱いに関する事実、過去の暴力前歴と銃所持との結びつき、精神状態・薬物使用状況等、銃所持の危険性そのものに直接結びつく客観的事情に限定される。

第3に、ストーカー警告の存在のみをもって直ちに「おそれ」を肯定することは許されない。当該警告の事実的根拠、関係性の解消の有無、銃の取扱いとの結びつきの有無を個別に検証する必要がある。

第4に、判断時点は、当初の処分時のみならず、事後的な事情変動も評価対象とされなければならない(東京地判平成30年)。

第5に、当初判断自体が誤っていた場合には、本件取消処分のように、事後の再審査によって速やかに是正されるべきである(令和8年茨城県公安委員会取消処分)。

第8 立法論的提言

現行銃刀法は、5条1項18号の「おそれ」要件を抽象的に規定するにとどまり、判断基準を行政解釈に委ねている。また、仮領置処分(同法11条8項)は、事前手続を要さず即時執行を認める構造を取っており、弁明の機会保障が制度上担保されていない。

立法論としては、次の改正が望まれる。

第1に、5条1項18号の「おそれ」要件に、「具体的かつ現実的な他害の予見可能性」という限定文言を加えること。

第2に、仮領置処分について、緊急の場合を除いては事前の弁明の機会を保障する手続規定を設けること。

第3に、ストーカー規制法上の警告を銃刀法18号の根拠資料として用いる際には、当該警告の事実的根拠の独立検証を義務づけること。

第4に、審査請求段階における口頭意見陳述の機会を実質化すること。

第9 結語

銃刀法5条1項18号「おそれ」の解釈は、一見すれば技術的・専門的な行政法解釈にとどまるかに見える。しかし、その実態は、一片の警告が、一人の市民の財産と生活設計を一夜にして奪い得るかという、憲法31条・29条・14条・22条・13条の総体に関わる重大な論点である。

令和8年茨城県公安委員会の取消処分は、ストーカー警告と銃刀法18号との安易な連結を、行政自身が再評価のうえで否定した事例として、札幌地判令和3年、東京地判平成30年、大阪高判令和6年と並ぶ実務上の到達点と評価し得る。

当職は、今後も、「具体的危険」基準を起点として、銃刀法18号の解釈をより憲法整合的なものへと押し上げる弁護活動を継続していく所存である。

以 上

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