在留カード偽造で逮捕されたら|組織犯罪の周辺関与者の主観要件と外国人特有の退去強制リスク
2026/05/25
在留カード偽造で逮捕されたら|組織犯罪の周辺関与者の主観要件と外国人特有の退去強制リスク
1. はじめに
近時、日本各地で警察機関による在留カード偽造組織の摘発が相次いで報道されております。警視庁が2026年1月に公表した事案では、偽造在留カードの販売・購入に関連する被疑者として20名超が検挙され、押収された個人情報は13,000人分を超えるとされております。愛知県警が同年2月に公表した事案では、被疑者の携帯電話内から約200人分の偽造データが発見されたと報道されております。これらの事案に共通する特徴として、複数名の中国籍の被疑者が関与しているほか、検挙された方々の役割が偽造役のみならず、購入者・紹介者・運送役・出資者等、多種多様にわたる点が挙げられます。
本稿は、同種類型の事案において、組織の周辺に位置し、「自らの行為が犯罪に該当する」との明確な認識を必ずしも有しないまま事案に巻き込まれてしまわれた中国籍の方々及びそのご家族の参考に供するため執筆するものでございます。本記事は一般的な解説であり、個別事案については弁護士に直接ご相談ください。
2. 在留カード偽造関連罪名の構造
在留カードの偽造及びこれに関連する行為につきましては、日本の刑法及び入管法上、具体的な行為態様に応じて以下の罪名が成立し得るところでございます。
第一に、入管法73条の2の2(在留カード偽造罪)は、在留カードを偽造・変造し、又はこれを成立させた者を、1年以上10年以下の拘禁刑に処する旨を定めております。法定刑の下限が1年とされている入管法上の重罪でございます。
第二に、入管法73条の2の3(偽造在留カード所持・提供・収受罪)は、偽造在留カードを所持・提供・収受した者を、5年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金に処する旨を定めております。すなわち、「自ら偽造の手を下していなくとも、これを所持し、売買し、他人に与えただけで」処罰される犯罪類型でございます。
第三に、行使(官員又は第三者に対し偽造在留カードを呈示する行為)が成立する場合は、刑法159条(私文書偽造罪)・刑法161条(偽造私文書行使罪)等が併合的に成立し得るところでございます。
第四に、複数の被疑者間における「組織性」を伴う偽造カード販売事業として認定される場合は、さらに組織的犯罪処罰法3条(組織的犯罪集団関与の犯罪加重)の成立も視野に入ってまいります。
これらの罪名は、いずれも一般的な私文書偽造罪に比して法定刑が顕著に重く、立法者として在留カード偽造システムを厳罰により抑止する明確な意思が表れているものと評価できるところでございます。
3. 退去強制リスク──4号リ・4号ロ・5条上陸拒否事由による三重の不利益構造
外国人事件におきましては、刑事処罰のほかに入管法上の退去強制リスクが併存しており、その構造は一般的な想定よりもはるかに複雑なものとなっております。
第一に、入管法24条4号リは、「無期又は1年を超える拘禁刑に処せられた者」を退去強制事由として規定しております。在留カード偽造罪(73条の2の2)の法定刑の下限は1年の拘禁刑でございますので、実刑判決を受けた場合は、原則として同号に該当することとなります。執行猶予判決を獲得した場合であっても、刑期と除外規定との適用関係を精細に検討する必要がございます。
第二に、入管法24条4号ロは、「刑罰法令に違反して拘禁刑に処せられた者」を退去強制事由として規定しております(資格外活動関連の広義類型)。刑期が1年に達しない場合であっても、同号への該当の可能性は残されたままでございます。
第三に、退去強制処分を受けた方は、入管法5条1項9号及び同条1項4号により、退去強制の日から原則として5年(再入国の場合は10年)の間、日本への入国が拒否されることとなります。加えて、犯罪事実は出入国記録に残存いたしますので、将来観光や就労目的で来日を希望される場合であっても、上陸拒否事由(5条1項4号)により入国できなくなる可能性がございます。
すなわち、「執行猶予判決を獲得しても強制送還されうる」、かつ「強制送還の期間が経過しても再入国が困難となる」という構造でございます。在留カード偽造関連事案における外国人特有の不利益は、極めて深刻なものと申し上げざるを得ません。
4. 不起訴処分の決定的意義──主観要件の徹底争い
前節で述べました退去強制の深刻なリスクに鑑み、当事務所の弁護方針の核心は、起訴前段階における不起訴処分(特に「嫌疑不十分」・「嫌疑なし」)の獲得を最優先目標とする点にございます。「起訴されても執行猶予判決を狙えばよい」とのご姿勢は、外国人事件におきましては致命的な誤解となりうるところでございます。執行猶予判決により服役は回避できましても、入管法上の退去強制処分を覆すことは容易ではございません。
在留カード偽造関連事案におきましては、主観要件の争いに特別な重要性がございます。すなわち、「自らが所持・収受したカードが偽造品である」との認識(故意)の充足性、組織犯罪集団への関与の主体性認識の充足性等が、不起訴処分の獲得に向けた鍵となる争点となってまいります。
実務上、偽造在留カードを購入された方の中には、取調べにおきまして「本物のカードであると思っていた」「偽造であることを知らなかった」「仲介者から紹介された合法的な手続であると説明された」等のご供述をなさる方が少なくございません。このような主張は主観要件の不存在を述べるものでございますので、早期段階に適切な方法で表明されれば、不起訴処分の獲得を大きく推し進めうるところでございます。
なお、松村大介弁護士が現在係争中の事例D-2(不法就労助長事案)におきましては、「退去強制事由の判断にあたっても故意・過失の要件を要求すべきである」との論点を正面から争っております。すなわち、刑事段階で主観要件を徹底的に争うことは、入管段階での主張のための基礎をも残すこととなる、というのが「責任主義の射程を行政処分に及ぼす」松村流弁護方針の核心でございます。本論点は現在係争中の先進的な議論でございますので、結論を断定的に予測することは控えるべきものでございます。
5. 初動対応の三要点
在留カード偽造関連事案で逮捕された場合、初動対応として以下の三点を押さえておいていただきたく存じます。
第一に、黙秘権の十分な行使でございます。日本の刑事訴訟法198条2項は被疑者の黙秘権を明文で保障しております。組織犯罪の周辺関与者の方は特にご注意いただきたいのですが、弁護人不在の取調べにおける「自分は知らなかったが、知っていれば加わらなかった」といった微妙なご供述は、後日の公判におきまして不利な主観要件の認識として解釈されることがしばしばございます。弁護人到着前の取調べでは、原則として黙秘権をご行使いただくことが望ましいところでございます。
第二に、早期の弁護人選任でございます。日本には当番弁護士制度(初回接見が無料)が設けられており、被収容施設からの申請、ご家族からの申請のいずれによってもご利用いただけます。直接、信頼できる弁護士事務所を私選してご依頼いただくことも可能でございます。在留カード偽造事案におきましては、入管法及び外国人刑事弁護に精通した弁護士を選任されることが特に重要でございます。
第三に、経験ある通訳の確保でございます。捜査機関が指定する通訳は必ずしも法律用語の専門家ではなく、取調べ通訳の訳出の仕方が供述調書の表現として残ることにより、後日の公判におきまして致命的な不利益として作用する可能性がございます。当事務所では、初動から、当事務所に常駐する外国人事件に精通した中国語専属通訳を、接見・取調べ立会い・検察官面談に同行させ、全工程にわたってご依頼者様ご本人のために動く立場の通訳をご利用いただけます。
6. 当事務所のご案内と解決事例
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)は、第一東京弁護士会所属、松村大介弁護士(登録番号59077、2019年登録)が代表を務める事務所でございます。当事務所は、中国籍のご依頼者様を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とし、刑事段階から退去強制段階に至る一貫した戦略立案に強みを有しております。
当事務所の最大の特徴として、松村大介弁護士が接見の初動から公判の結審まで全工程を直接担当いたします(事務員・若手弁護士による代行を行いません)。また、当事務所には外国人事件に精通した中国語専属通訳が常駐しており、捜査機関が指定する通訳とは別に、ご依頼者様ご本人のために動く立場の通訳を、刑事手続全般にわたってご利用いただけます。
以下、当事務所の関連解決事例をご紹介いたします。
まず、覚醒剤取締法違反(営利目的所持)で起訴されたご依頼者様について、徹底した証拠分析と被告人質問・反対尋問により、無罪判決を獲得した事例がございます(事例A-1)。在留カード偽造事案における主観要件の争いと、営利目的薬物事案における「営利目的の不存在」の争いとは、いずれも「客観状況から主観の認識を推認する」捜査手法への対応という点で共通性が極めて高いところでございます。当事務所は、このような客観証拠を基礎とする主観要件の立証に対する綿密な反証経験を豊富に有しております。
次に、特殊詐欺の出し子に関与したとされた20代女性につき、ご依頼者様の主観的事情(指示役からの欺罔・脅迫的状況、犯意の不存在等)を総合的に主張し、不起訴処分を獲得した事例がございます(事例B-1)。この事案の要点は、客観的な行為の外形からは「明らかな犯罪行為」と見えるものについて、ご依頼者様の主観面の事実経緯を細やかに呈示することで、検察官に主観要件の不充足を認定させた点にございます。組織犯罪の周辺関与者類型の事案におきましては、このような主観面の事実呈示の方法こそが弁護の核心となるところでございます。
さらに、冤罪により不法就労助長罪に問われ、強制退去の危機に瀕する女性を救済する裁判で、「退去強制事由には故意・過失が不要」とする従来の実務を覆すべく、責任主義・過失責任主義の射程を問う訴訟を係争中の事例がございます(事例D-2)。本係争は、責任主義の射程を行政処分にまで及ぼす画期的な論争でございまして、当事務所はその弁護方針の成果を在留カード偽造事案の弁護にも反映させております。万一、刑事処分終了後に退去強制手続に移行する場合には、当事務所は提携の行政書士と連携し、在留資格関連の手続全体にわたるワンストップ対応をご提供することが可能でございます。
※ 以上の過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。
7. 結語
在留カード偽造関連事案の背景には、複数の被疑者間における組織的な構造が存在することが多いものでございます。もっとも、組織内での関与の程度、偽造の事実に対する認識の程度は、お一人お一人によって異なってまいります。「巻き込まれてしまった」「だまされてしまった」とのご主張は、早期段階に適切な方法で表明されることで、不起訴処分の獲得を大きく前進させうるところでございます。
本記事は一般的な解説であり、個別事案については弁護士に直接ご相談ください。また、本記事に記載された過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。
ご本人様又はご家族様が、在留カード偽造関連事案で被疑事実に直面しておられる場合には、入管法及び外国人刑事弁護に精通した弁護士に、お早めにご相談いただくことをお勧めいたします。当事務所も、関連のご相談を承っております。
執筆者情報
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍のご依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
連絡先
舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
微信ID:matsumura1119
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