舟渡国際法律事務所

【速報】銃の仮領置処分が撤回された

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【速報】銃の仮領置処分が撤回された

【速報】銃の仮領置処分が撤回された

2026/05/12

【速報】銃の仮領置処分が撤回された

―― 審査請求からわずか9日。冤罪型ストーカー警告事案における画期的判断と、なお残る憲法上の課題

 

2026年5月12日 舟渡国際法律事務所 代表弁護士 松村大介

 

■ 茨城県公安委員会が処分撤回を通知 ―― 異例の速さの判断

 本日(2026年5月12日)、茨城県公安委員会は、当事務所が代理人を務める依頼者に対し、銃砲刀剣類所持等取締法(以下「銃刀法」という)11条8項に基づく仮領置処分を撤回し、銃砲を返還する旨を通知した。

 審査請求書を提出したのは、わずか9日前の2026年5月3日である。一般に、行政不服審査における裁決は数か月から1年以上を要することも珍しくない。事案の重要性を踏まえた、極めて異例の早期判断であった。

 本件は単なる「個別の救済」にとどまらない。札幌地判令和3年12月17日が示した銃刀法の立法趣旨、すなわち「銃砲が国民の生命や身体に対して高度の危険性を有する一方で、社会生活上有用な道具としての機能も有する」という二面性を正面から踏まえた判断として、今後の同種事案の指針となる意義を持つと、私は受け止めている。

 以下、事案の概要、私が組み立てた主張の骨子、本判断の意義、そしてなお残されている重大な憲法上の課題について、順を追って書き残しておきたい。

 

■ 事案の概要

 依頼者は、約7年間にわたり銃砲所持許可を受け、適法に狩猟・射撃に従事してきた地方在住の方である。地元猟友会の安全狩猟射撃指導員として委嘱を受け、地域の狩猟安全教育を担う公的役割を果たしてこられた。前科前歴は一切ない。

 ある日、依頼者と元交際相手との間で関係解消をめぐるメールのやり取りがあった。依頼者は、相手方宅近くの河川敷に犬の散歩のために赴いた事実を、相手方とのメール上で伝えた。脅迫的言動は一切なく、直接の接触も全くなかった。

 しかし、この一連の事実をきっかけに、警察は依頼者に対し、ストーカー規制法上の口頭警告を発令した。そして、その翌日、警察は同口頭警告の存在を主たる根拠として、銃刀法11条8項に基づき、依頼者の散弾銃及び特定ライフルを仮領置した。事前の告知も、弁明の機会も、一切与えられなかった。

 

■ 当方が組み立てた二段構えの主張

 私はこの事案を、二つの法的手続を並行して進める形で組み立てた。

 

▼ 第一の柱:茨城県公安委員会に対する審査請求

 仮領置処分そのものに対する審査請求である。論点は多岐にわたるが、主軸に据えたのは次の三点であった。

 第一に、銃刀法5条1項18号にいう「他人の生命、身体若しくは財産若しくは公共の安全を害し[…]おそれがあると認めるに足りる相当な理由」を充足する具体的・実質的危険が、本件には客観的に存在しないこと。札幌地判令和3年12月17日が、行政処分庁の主張を「極めて抽象的ないし観念的な危険をいうものにすぎない」と退け、具体的・実質的危険性の裏付けを欠く処分を違法と判断した判示を、本件にも全面的に援用した。

 第二に、東京地判平成30年3月30日が示した「仮領置後の後発的事情を考慮した銃砲返還の判断」を是認する判断枠組みである。同判決は、原告が妻に対し「殺すぞ」「ぶっ殺したい奴がいる」といった明確に脅迫的な発言を繰り返した極めて重大な事案であった。それにもかかわらず、同判決は、仮領置後の関係改善等の後発的事情を考慮して銃砲を返還した判断を「適正な判断」として正面から是認した。これに対し本件は、脅迫的言動が皆無で、仮領置後も依頼者は相手方に対する一切の接触を行っていない。東京地判の枠組みからすれば、なおさら強力に銃砲返還が要請される事案である。

 第三に、銃所持許可は、長年の適法使用実績によって帰属する「既得の地位」であり、適正手続を経ずに口頭警告という非公式の事実認定のみを根拠として剥奪することは、適正手続の保障(憲法31条)、財産権(憲法29条)、平等原則(憲法14条)の各観点から許容されない、という憲法的視座からの論証である。

 

▼ 第二の柱:行政手続法36条の2に基づく行政指導中止申出

 警察自身がしばしば「口頭警告は行政指導である」と説明する以上、対象者は行政手続法36条の2に基づき、当該行政指導の中止その他必要な措置を求める法的権利を有する。私は、警察署長宛てに正式な中止申出書を提出し、本件口頭警告がストーカー規制法に規定する実体的要件を充足しないこと、告知・聴聞の機会を欠いた手続的瑕疵を伴うことを、書面で明確に主張した。

 なお、本件処理の過程で、警察側からは「口頭警告は警察法に基づく犯罪予防のための措置であり、行政指導には至らないものである」との見解が示された場面もあった。この見解は、後述するとおり、口頭警告制度それ自体が抱える憲法上の重大な問題を、はからずも露呈させるものでもあった。

 

■ 本判断の意義 ―― 立法趣旨に立ち返った判断

 茨城県公安委員会の今回の判断が画期的である理由は、次の三点にある。

 第一に、審査請求書提出からわずか9日という処理の速さである。これは、本件処分が法律上の要件を満たしていないことが、書面を一読して明らかであったことを示唆するものといえる。

 第二に、銃刀法の立法趣旨に立ち返った判断としての性格である。前述の札幌地判令和3年判決が示した「銃砲が国民の生命や身体に対して高度の危険性を有する一方で、社会生活上有用な道具としての機能も有することに鑑みて、同法に違反した場合にその許可を一律に取り消すのではなく、その取消しを個々の事案における具体的事情を踏まえた裁量判断と[する]」という立法趣旨は、銃砲の有用性を尊重した上で、具体的・客観的事情に基づく裁量判断を要請するものである。約7年間の適法使用実績を有し、地域の狩猟安全教育を担う公的役割の中にある依頼者から、抽象的・観念的危険を根拠に銃砲を取り上げ続けることは、まさにこの立法趣旨に正面から反するものであった。今回の撤回判断は、この立法趣旨を正面から踏まえたものとして、極めて重要である。

 第三に、冤罪型のストーカー警告事案における銃刀法上の救済可能性を、現に切り開いた事例として、今後の同種事案の指針となる意義を持つ点である。ストーカー警告と銃刀法上の処分とを連動させる現行の運用は、誤解型・濫用型の警告が出された場合に、対象者の生活基盤を一方的に破壊する深刻な構造的問題を内包している。今回の撤回判断は、そのような連動の下でも、適切な法的主張を構築することで救済が可能であることを示した。

 

■ なお残る重大な憲法上の課題 ―― 口頭警告制度それ自体の問題

 しかし、本件の解決をもって、構造的問題が解決したわけでは全くない。むしろ、本件は、ストーカー規制法上の「口頭警告」という制度それ自体に内在する、二つの重大な憲法上の課題を露呈させた。

 

▼ 課題①:「単なる口頭警告」でも、包括条項を経由して甚大な影響を及ぼす

 口頭警告は、しばしば「行政指導の前段階の事実上の措置にすぎない」と説明される。そのため、対象者は「単なる注意」と受け止め、深刻に争おうとせずに放置することが多い。

 しかし、本件が明らかにしたとおり、口頭警告は、銃刀法5条1項18号のような包括条項(バスケット条項)を経由して、適法所持下にある銃砲の仮領置・取消、銃所持許可の更新拒否、その他の資格制度上の処分などへと、領域を越えて波及していく。「行政指導にも至らない事実上の措置」と整理されているまさにその警告が、実体的には「他人の生命等への害悪のおそれを認めるに足りる相当な理由」を構成する重大事実として、侵益処分の根拠に転用されるのである。

 この構造は、対象者にとって極めて不意打ち的である。「単なる口頭警告」を放置した結果、長年積み上げてきた生活基盤が突然奪われる ―― これが、現実に起きていることである。

 

▼ 課題②:口頭警告それ自体には独立の不服申立手段が法定されておらず、憲法31条違反の疑いが強い

 より深刻なのは、二つ目の課題である。

 ストーカー規制法は、口頭警告について、独立した不服申立手段を一切法定していない。文書警告ですら処分性が判例上否定されてきた現状において、口頭警告は、なおさら司法的な争訟ルートが事実上閉ざされている。行政手続法36条の2の中止申出制度も、警察側が「行政指導にも至らない事実上の措置」と整理してしまえば、その適用範囲から外れるとされかねない。

 すなわち、対象者は、口頭警告が出された瞬間に、その内容を文書で確認することも、事実認定を争うことも、司法的に救済を求めることも、制度的に閉ざされている状態に置かれる。

 ところが、その「対象者が制度的に防御の足場を持たない口頭警告」が、銃砲所持許可の包括的欠格事由(銃刀法5条1項18号)を媒介として、財産権の侵害、職業的・趣味的活動の自由の制約、生活基盤そのものの破壊といった、甚大な不利益処分の根拠に転用されているのである。

 これは、適正手続の保障(憲法31条)の趣旨を正面から潜脱するものといわざるを得ない。憲法31条が要請する適正手続の核心は、不利益処分の根拠となる事実認定の客観的検証可能性と、対象者の反論機会の保障にある。口頭警告について、その内容の文書化も、独立の不服申立手続も、司法審査ルートも、いずれも制度的に保障されないまま、その口頭警告を根拠に侵益処分を発動することは、憲法31条違反の疑いが極めて強いと、私は考えている。

 今回の茨城県公安委員会の判断は、個別事案における実質的救済としては画期的である。しかし、口頭警告制度それ自体が抱える憲法上の構造的瑕疵には、今回の判断は触れていない。むしろ、本件のような救済が「個別判断による恩恵」として処理されている限り、同じ構造的問題は今後も繰り返されることになる。

 

■ 最後に ―― 一件の救済から制度を変えるために

 今回の依頼者の方からは、私たちチームに対し、心からのご感謝のお言葉をいただいた。約7年間積み上げてきた狩猟活動と、地域の安全狩猟射撃指導員としての役割を、守ることができた。これは、何よりも嬉しいことである。

 しかし同時に、これは始まりに過ぎないとも感じている。本件で問題となった構造、すなわち「対象者が制度的に争えない口頭警告が、包括条項を経由して甚大な侵益処分の根拠に転用される」という構造は、本件と同じ立場の方々が、現に全国で直面している問題である。多くの場合、対象者は「単なる口頭警告」と聞かされ、争うことすら諦めている。

 私が令和6年に大阪高裁で獲得した文書警告の処分性に関する画期的判決(大阪高判令和6年6月26日)も、最高裁の上告審で係属中である。文書警告の処分性が確立すれば、口頭警告の法的位置付けにも、必然的に検討の波が及ぶ。私は、本件の経験を踏まえ、口頭警告制度それ自体の憲法問題についても、今後、法廷と言論の両面から、継続的に問題提起を続けていく。

 もし読んでくださっている方の中で、ご自身、あるいはご家族・知人が、身に覚えのない口頭警告ないし文書警告を受けてしまった、それを根拠とする銃刀法上の処分や各種資格制度上の処分が出されてしまった、というご状況があれば、決して一人で抱え込まず、お早めにご相談いただきたい。

 「単なる口頭警告」ではない。「単なる事実上の措置」でもない。それは、ある日突然、あなたの生活基盤を奪う制度的な力を持つ。だからこそ、初動の法的対応が、その後の全てを決めるのである。

 

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松村 大介(まつむら だいすけ)

舟渡国際法律事務所 代表弁護士/第一東京弁護士会所属

慶應義塾大学法科大学院修了。令和6年、大阪高裁でストーカー警告の処分性を認める画期的判決を獲得。NHK「未解決事件」取材協力、岩波書店刊行物へのコメント提供など、メディア・学術両面からストーカー問題を発信。被害者・加害者双方の代理経験を持つ、ストーカー規制法分野の実務家。

〒171-0033 東京都豊島区高田3-4-10 布施ビル本館3階(高田馬場駅徒歩5分)

TEL:050-7587-4639 WeChat ID:matsumura1119

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