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示談交渉中にストーカー規制法違反で逮捕される? 弁護士が解説する「目的要件」の落とし穴

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示談交渉中にストーカー規制法違反で逮捕される? 弁護士が解説する「目的要件」の落とし穴

示談交渉中にストーカー規制法違反で逮捕される? 弁護士が解説する「目的要件」の落とし穴

2026/04/17

示談交渉中にストーカー規制法違反で逮捕される?

弁護士が解説する「目的要件」の落とし穴

目 次

 1 示談交渉とストーカー規制法が交差する場面

 2 ストーカー規制法が適用されるための「目的要件」とは

 3 示談交渉目的は「怨恨感情充足目的」に当たるか

 4 熊本地裁判決が示した重要な解釈基準

 5 実際に不起訴を獲得した事例

 6 示談交渉中の連絡で逮捕されないための注意点

 

 

 

1 示談交渉とストーカー規制法が交差する場面

 

 「相手に連絡を取り続けたら、ストーカー扱いされた」――このような相談が、民事上のトラブルを抱えた方から寄せられることがあります。

 

 不貞慰謝料請求や財産分与などの民事紛争では、当事者同士が直接連絡を取り合いながら示談交渉を進めることは珍しくありません。しかし、その連絡の頻度や内容によっては、相手方がストーカー被害として警察に届け出ることがあります。

 

 問題は、ストーカー規制法が構造上、示談交渉目的の連絡行為をも取り込みやすい設計になっているという点です。この記事では、その構造的な問題と、法的に有効な反論の根拠を解説します。

 

2 ストーカー規制法が適用されるための「目的要件」とは

 

 ストーカー規制法は、「つきまとい等」「ストーカー行為」「禁止命令違反」のいずれの行為類型についても、問題となる行為が次のいずれかの目的に基づくものであることを要件としています。

 

 恋愛感情等充足目的:好意・あこがれの感情を充足するための行為

 怨恨感情充足目的:上記の感情が満たされなかったことへの怨恨を充足するための行為

 

 注意が必要なのは「怨恨感情充足目的」です。警察庁の運用通達は、この「怨恨の感情」について、「好意の感情が満たされなかったことに対する怨恨の感情であることから、好意の感情を前提とし、それが満たされなかったことによる転化として生じるものでなければならない」と解釈しています。

 

 したがって、まったく恋愛感情を前提としない純粋な怨恨感情は、怨恨感情充足目的に該当しないことになります。

 

 しかしながら実務上は、この目的要件の認定が非常に緩やかであり、「好意の感情を伴う行為であれば足りる」というような広い解釈が採用されがちです。これが、示談交渉目的の連絡行為がストーカー規制法の問題として浮上する温床になっています。

 

3 示談交渉目的は「怨恨感情充足目的」に当たるか

 

 不貞慰謝料請求を巡る示談交渉の場面を例に考えます。元交際相手から不貞行為を理由に損害賠償を請求された場合、当事者は解決金の金額・接触禁止の範囲・証拠の取り扱いなど、様々な事項について交渉を重ねます。この過程で相手方に繰り返し連絡を取ることは、紛争解決のために当然かつ合理的な行動です。

 

 にもかかわらず、相手方の受け取り方次第では「嫌がらせ目的の連絡」として警察に申告される危険があります。

 

 この点、衆議院内閣委員会の附帯決議は、「怨恨の感情等によるストーカー事案のうち、恋愛感情等によらないものについてはストーカー規制法の規制対象ではない」と明示し、さらに「過度に広範な規制とならないよう、罪刑法定主義を十分に踏まえること」を求めています。

 

 示談交渉目的の連絡行為は、この附帯決議が「規制対象外」と明示した類型と本質的に同一です。民事上の権利義務の確定を目的とした交渉行為にストーカー規制法を適用することは、同法の立法趣旨に反します。

 

4 熊本地裁判決が示した重要な解釈基準

 

 この問題に直接的な示唆を与えるのが、熊本地判平成29年3月27日です。

 

 この判決は、不貞調査目的でGPS機器を取り付けた行為がストーカー規制法の目的要件を充たすかどうかが問われた事案で、次の三段階の論理を展開し、目的要件の該当性を否定しました。

 

 感情の伴存だけで目的を認定できない

 

 「恋愛怨恨感情を伴わない不貞調査は想定しがたいところ、不貞調査は、男女の親密な生活という私生活の中でも最も私的な部分について行われるものであるから……不貞調査に恋愛怨恨感情を伴うことをもって恋愛怨恨感情を充足する目的があると解するのは相当でない。」

 

 「社会的許容性」を基準とすることも不明確で相当でない

 

 「恋愛怨恨感情を伴う不貞調査のうち、不貞調査として社会的に許容されない行為には恋愛怨恨感情を充足する目的があると解するのも、基準が多義的で不明確であり、国民の権利を不当に侵害する結果につながるから、相当でない。」

 

 正当な別目的の範囲内の行為は目的要件を欠く

 

 「少なくとも、不貞調査として目的の範囲内の行為については、恋愛怨恨感情を伴っていても、恋愛怨恨感情を充足することを目的とする行為には当たらないと解するべきである。」

 

 この論理は示談交渉目的の連絡行為にそのまま応用できます。示談交渉という合理的・法的目的の範囲内での連絡であれば、たとえ背景に何らかの感情が存在していたとしても、ストーカー規制法の目的要件は充たさないと解すべきです。

 

5 実際に不起訴を獲得した事例

 

 当職が担当した事案では、不貞慰謝料請求を巡る示談交渉の過程での連絡行為がストーカー規制法違反として捜査対象となりました。

 

 当該事案の経緯を整理すると、連絡関係は被害者側の代理人弁護士が起点となって開始されており、依頼者は代理人弁護士からの連絡に応答する形で交渉を継続してきたものでした。依頼者の内心を丁寧に確認したところ、恋愛感情も怨恨感情もいずれも充足しようとする目的は存在しないことが明確でした。

 

 この事情を踏まえ、熊本地裁判決の論理を援用しながら検察官に反論した結果、ストーカー規制法違反として起訴されることなく事件が終結しました。

 

 捜査機関は「男女トラブル+連絡行為=ストーカー」という図式で安易に処理しようとしがちです。しかし、弁護人が依頼者の実際の行動目的を丁寧に整理し、法的に有効な根拠に基づいて反論すれば、不当な訴追を防ぐことは十分に可能です。

 

6 示談交渉中の連絡で逮捕されないための注意点

 

 連絡は代理人を通じて行う

 

 弁護士に示談交渉を委任し、当事者間の直接連絡を遮断することが最も確実な予防策です。弁護士を窓口として一元化することで、「繰り返しの連絡」という事実自体を回避できます。

 

 交渉目的を文書化しておく

 

 連絡の目的が民事上の権利義務の解決にあることを、メールや書面で明示しておくことが防御上有効です。目的の合理性が後に問われた場合の証拠となります。

 

 接触禁止を求められた場合は即座に対応する

 

 相手方またはその代理人から接触禁止を求められた場合、継続的な連絡はリスクが高まります。その時点で直ちに弁護士に相談することを強く推奨します。

 

 逮捕・捜査を受けた場合は早期に弁護人を選任する

 

 ストーカー規制法事件は、逮捕段階から弁護人が介入できるかどうかが結果を大きく左右します。目的要件の不存在という論点は、捜査初期の段階から検察官に対して積極的に主張することが重要です。

 

 

 

まとめ

 

 ストーカー規制法の目的要件は実務上広く解釈されており、示談交渉目的の連絡行為がその射程に引き込まれる危険が構造的に存在します。しかし、熊本地裁判決が示したとおり、正当な別目的の範囲内の行為については主観的要件を欠くという法理論は確立しており、不当な訴追に対して有効な反論が可能です。

 

 民事上のトラブルを抱えながら刑事手続に巻き込まれるケースは、当事者にとって二重の負担となります。ストーカー規制法に関するご相談は、原則として1時間3万円の有料相談となっておりますが、お早めにご相談ください。

 

 

 

 

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