外国人特有の刑事手続上の権利|領事関係条約36条と日本警察の告知義務・領事接見権
2026/05/25
外国人特有の刑事手続上の権利|領事関係条約36条と日本警察の告知義務・領事接見権
1. はじめに
外国人の方が日本国内で逮捕された場合、一般的な刑事訴訟法上の諸権利(黙秘権、弁護人選任権等)に加えて、「領事関係に関するウィーン条約」(1963年に締結され、日本は1983年に加入)第36条に基づき、自国の領事機関に通報・通信・接見を求める特有の権利を有しております。本条約は国際条約でございまして、日本は締約国として誠実に履行する義務を負っておりますが、実務上、本権利の存在やその行使方法は、外国人ご本人、ご家族、さらには弁護人にすら必ずしも十分に認識されていない現状がございます。
本稿は、中国籍の方々及びそのご家族に向けて、領事関係条約36条の内容、日本警察の告知義務、本権利の実務上の行使方法について構造的にご説明するものでございます。本記事は一般的な解説であり、個別事案については弁護士に直接ご相談ください。
2. 領事関係条約36条の骨格
領事関係条約36条1項は、三つの権利を定めております。
第一に、(a)号は、派遣国(ご本人の国籍国)の領事官は本人と自由に通信・接見することができ、また本人も自由に本国領事官と通信・接見することができる旨を定めております。
第二に、(b)号は、接受国(ご本人を逮捕した国=日本)の権限ある当局が、派遣国の国民が逮捕・収監・公判前拘禁・その他の方法による自由の剥奪を受けた場合、(i)本人の要請があるときは「遅滞なく」派遣国の領事機関に通報すること、(ii)本人が本国領事機関に宛てて発するいかなる通信もまた「遅滞なく」これを送付すること、(iii)上記(i)(ii)の権利を有することを「遅滞なく」本人に告知することを、それぞれ義務付けております。
第三に、(c)号は、派遣国の領事官は収監地に出向き本国国民を訪問し、これと通信し、その弁護のための取り計らいをすることができる権利を有し、収監されている国民にはこれを拒否する権利がある旨を定めております。
このうち(b)号の「遅滞ない告知義務」は、外国人ご本人が逮捕の場面で本権利を実際に行使できるか否かを左右する決定的な意義を有しております。すなわち、「告知を受けなければ権利の存在を知ることすらできない」事態は、実務上決して稀なものではございません。
3. 日本警察の告知義務と運用実態
警察機関は、外国人が逮捕された場合、条約に基づき、被疑者取調べの当初に遅滞なく、(i)本国領事機関に収容の事実を通報するよう要請する権利、(ii)本国領事官宛てに通信を発する権利、を告知することとされております。
実務上、警察機関は「外国人被疑者の取調べに際しての告知事項一覧表」等の定型化された文書を用いて告知を行い、被疑者に告知事項を了解した旨の署名確認を求めることが一般的でございます。もっとも、実務上は以下の問題点が散見されます。
第一に、告知文書の翻訳が十分でない点でございます。日本語のみによる告知、又は翻訳が不徹底であるために本人が真に理解しないまま手続が進行する事案が見受けられます。
第二に、告知の時期が遅延する点でございます。条約は「遅滞ない」告知を要求しておりますが、実務上、告知が翌日以降になされる事案も少なくございません。
第三に、告知の記録化が十分でない点でございます。告知の事実及び内容が、取調べ調書、留置記録等に十分に記録されない事案がございます。
弁護人選任時には、「まず告知の有無及び方法を確認すべき」でございます。告知が行われていない場合、弁護活動全体の見直しが必要となってまいります。
4. 領事接見権の実務上の行使方法
中国籍の方が日本で逮捕された場合、領事接見権は以下の方法で行使することができます。
第一に、ご本人による要請でございます。被疑者取調べの際に、警察に対し「在日本中国大使館・領事館に収容の事実を通報するよう要請する」旨を明確に表示し、要請の事実を取調べ調書に記録させることでございます。
第二に、ご家族による要請でございます。ご本人が要請を行使していない場合であっても、ご家族の方から、ご本人が収容されている警察署、検察庁に対し、中国領事館への通報を要請することができます。
第三に、弁護人による要請でございます。弁護人選任後は、弁護人が代理人として警察、検察庁に対し通報を要請することができます。
通報の具体的な内容は、ご本人の氏名、収容罪名、収容場所、収容年月日等でございます。在日本中国大使館領事部、各総領事館(北海道札幌、東京、横浜、名古屋、大阪、神戸、福岡、長崎等)は、通報を受けて領事官による接見を実施することができます。
領事接見の意義は多岐にわたります。(i)ご家族の安心化(中国本土のご家族が領事館を通じてご本人の収容事実を把握することができます)、(ii)実務的支援(領事館は本国語の通訳人の紹介、弁護人の紹介等の支援を行ってくださることがございます)、(iii)人権保障(領事官の接見そのものが、ご本人の人権処遇の監督機能を果たします)。
5. 告知義務違反の法的効果と弁護活動への活用
警察機関の告知義務違反がいかなる法的効果を有するかにつきましては、日本の最高裁判例上、明確な先例は確立されておりません。もっとも、国際司法裁判所(ICJ)は、La Grand事件(2001年)、Avena事件(2004年)におきまして、米国によるドイツ人・メキシコ人に対する告知義務違反を条約違反と認定し、米国に対し関連事案の有罪判決・量刑の「再審査」を命じております。
日本国内の弁護実務上、告知義務違反は以下の角度から活用することが考えられます。
第一に、自白調書の任意性に関する争点でございます。告知義務違反の状態下で作成された自白調書につきましては、「外国人特有の心理的圧迫の下で作成されたもの」、「実質的に任意性を欠くもの」として争点化することが考えられます。
第二に、量刑判断の考慮事情でございます。告知義務違反は国家機関による手続違反でございますので、有利な量刑事情として主張することができるところでございます。
第三に、国家賠償請求の根拠でございます。告知義務違反が国家賠償請求権を構成する根拠となりうる可能性も存在しております。
弁護人は、このような条約論・国際人権法上の論点について正確な知識と立証意欲を有することで、外国人のご依頼者様の権利を実効的に防御することができるところでございます。
6. 当事務所のご案内と解決事例
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)は、第一東京弁護士会所属、松村大介弁護士(登録番号59077、2019年登録)が代表を務める事務所でございます。当事務所は、中国籍のご依頼者様を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野としております。
当事務所の最大の特徴として、松村大介弁護士が接見の初動から公判の結審まで全工程を直接担当いたします(事務員・若手弁護士による代行を行いません)。また、当事務所には外国人事件に精通した中国語専属通訳が常駐しており、捜査機関が指定する通訳とは別に、ご依頼者様ご本人のために動く立場の通訳を、刑事手続全般にわたってご利用いただけます。
以下、当事務所の関連解決事例をご紹介いたします。
まず、当事務所は、国際刑事事件、裁判員裁判対象事件、世界的に報道された重大事件等への対応経験が豊富でございます(事例E-1)。重大事件におきましては、外国人としてのご依頼者様について、特に領事関係条約36条等の国際人権法上の権利の厳密な保障が求められるところでございます。当事務所は、このような事案に際し、国際人権法上の知識基盤と日本国内の弁護実務とを結合させた厳密な弁護戦略を構築してまいりました。
次に、特殊詐欺の受け子で複数回再逮捕された事案におきまして、徹底した取調べ対応・不当取調べへの抗議・主張立証を通じて、全件について不起訴処分を獲得した事例がございます(事例B-2)。取調べ対応の場面では、当事務所は初動から中国語専属通訳を同行させて接見・取調べ対応に当たり、ご本人の黙秘権の実質的行使、領事接見権の告知の確認、弁護人とご本人との意思疎通の品質確保等、手続の全工程にわたって厳密な支援を行ってまいりました。
さらに、観光目的で来日された相談者の方が、日本人女性との間に子を授かったものの在留資格を喪失し、不法滞在で逮捕・起訴された事案におきまして、憲法的観点から当局と交渉して婚姻・認知の手続を成功させ、入管当局の過去の許可事例を分析することで、1発で在留特別許可を獲得した事例がございます(事例D-1)。万一、刑事処分終了後に退去強制手続に移行する場合には、当事務所は提携の行政書士と連携し、在留資格関連の手続全体にわたるワンストップ対応をご提供することが可能でございます。
※ 以上の過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。
7. 結語
外国人の方が日本で逮捕された場合、一般的な刑事訴訟法上の諸権利に加えて、領事関係条約36条に基づく特有の領事接見権を有しております。本権利は国際条約により保障されており、日本は締約国として、告知義務・通報義務を誠実に履行する責任を負っております。
もっとも、実務上は本権利の告知と運用が必ずしも十分でない場合がございますので、ご本人、ご家族、弁護人の三者が協力し、能動的に行使する必要がございます。特に、ご家族による初動対応として、ご本人が収容された警察署に対して中国領事館への通報を要請する、という知識をお持ちいただくことは、ご本人への実質的な支援に直結いたします。
本記事は一般的な解説であり、個別事案については弁護士に直接ご相談ください。また、本記事に記載された過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。
ご本人様又はご家族様が外国人の方の逮捕に直面しておられる場合には、入管法及び外国人刑事弁護に精通した弁護士に、お早めにご相談いただくことをお勧めいたします。当事務所も、関連のご相談を承っております。
執筆者情報
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍のご依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
連絡先
舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
微信ID:matsumura1119
----------------------------------------------------------------------
舟渡国際法律事務所
住所 : 東京都豊島区高田3丁目4-10布施ビル本館3階
電話番号 :050-7587-4639
東京を中心に刑事事件の弁護
----------------------------------------------------------------------