中国籍の方が無届けの中継サーバー設置で電気通信事業法違反として逮捕された方のご家族へ ― SNS型投資・ロマンス詐欺の周辺犯罪としての弁護方針
2026/05/18
中国籍の方が無届けの中継サーバー設置で電気通信事業法違反として逮捕された方のご家族へ ― SNS型投資・ロマンス詐欺の周辺犯罪としての弁護方針
1 報道と本記事の趣旨
先頃の報道によれば、山口県警察組織犯罪対策課及び周南警察署が、五月中旬、いずれも中国籍の二十代から三十代の男女三名を、電気通信事業法違反の疑いで逮捕した模様でございます。容疑事実の概要は、三名が共謀のうえ、二〇二三年八月頃から二〇二四年十月までの間、総務大臣に届出をすることなく、共犯者方住宅内に中継サーバーを設置し、利用契約を締結していた国内通信回線及びインターネット接続サービスを介して、国内外の不特定多数に対し通信を接続させたというものでございます。同県内の五十代男性が、マッチングアプリで知り合った相手から虚偽の暗号資産投資を勧誘され約一二〇〇万円を騙し取られるSNS型ロマンス詐欺事件があり、その通信状況を捜査する過程で本件サーバーが浮上したとのことでございます。
本件は、SNS型投資・ロマンス詐欺の「上流の周辺犯罪」として、典型的な類型に位置づけられるものでございます。詐欺の本拠が海外にある場合、海外から直接日本国内の電話番号にアクセスすると各種フィルタリングで遮断されるため、日本国内に設置された中継サーバーを経由することで、発信元の電話番号やIPアドレスを国内発信であるかのように偽装する手口でございます。この「中継役」を担うのは、しばしば日本に在住する留学生・技能実習生・新たに来日された中国籍の方々でございまして、「機材を置く場所を貸しただけ」「中身が何かまでは知らなかった」という軽い気持ちで関与し、結果として刑事訴追に至るケースが多うございます。
本記事では、同種類型の事件を前提として、ご本人、及び中国本土・日本国内で連絡を待たれているご家族の方々に向け、弁護方針の骨格を整理してまいります。
2 適用法令の骨格と法定刑
(1)電気通信事業法上の届出義務
電気通信事業法(昭和五十九年法律第八十六号)は、電気通信事業(他人の通信を媒介する役務の提供)を営む者に対し、事前に総務大臣への届出又は登録を義務づけております。届出をせずに電気通信事業を営んだ場合、同法第百七十七条により、「一年以下の拘禁刑又は一〇〇万円以下の罰金」を科される可能性がございます。
ここでいう「電気通信事業」は、大手通信キャリアに限られるものではございません。規模が小さく利用者が特定の集団に限られる中継サーバーの運営行為であっても、客観的に「他人の通信を媒介する」程度に達していれば、原則として届出義務の射程に入ると解されております。本件における中継サーバーの設置・運営は、詐欺グループ等の不特定の者に通信を接続させていたという構造から見て、「他人の通信を媒介する」事業行為に該当すると評価される可能性が高うございます。
(2)犯罪収益移転防止法・組織犯罪処罰法との関係
中継サーバーが現実に詐欺・マネーロンダリング・違法賭博等の犯罪インフラとして機能した場合、電気通信事業法違反のみでは終わらず、詐欺罪の共犯、犯罪収益移転防止法違反、組織犯罪処罰法上の犯罪収益等隠匿罪・収受罪等が追加で立件されることが多うございます。本件は、SNS型ロマンス詐欺事案を端緒として三名のサーバーが浮上したものでございますが、今後の捜査の進展次第では、共犯・幇助犯の構成要件で追加立件される可能性も否定できないところでございます。
3 外国人事件特有の強制送還リスク
中国籍の被告人の場合、いかなる在留資格でご在留であっても、本件で起訴・有罪判決を受けた場合には、入管法第二十四条各号の退去強制事由に該当しうるため、慎重な対応が求められます。
特に注意を要するのは、同条第四号「リ」が定める退去強制事由(無期又は一年を超える拘禁刑に処せられた者)でございます。同号は、執行猶予が付された場合にも除外規定があるなど、号ごとに精緻な構造を有しております。本罪単独の法定刑は「一年以下の拘禁刑」でございますので、本罪のみで起訴された限りでは直ちに同号該当には至りません。しかしながら、詐欺罪・犯罪収益移転防止法違反・組織犯罪処罰法違反等と併合して起訴された場合、量刑は容易に一年を超え、結果として同号該当事由を惹起してしまうことが大いにあり得ます。
加えて、第四号「ロ」(資格外活動関連)や第四号「ヌ」(不法就労助長)等の射程についても精査が必要でございます。在留資格それ自体に問題がないご本人であっても、本罪と他罪との併合立件によって、「適法に在留中の刑事被告人」から「退去強制対象の外国人」へと、一夜にして地位が変化することがございます。仮に最終的に執行猶予判決を獲得できたとしても、必ずしも「日本に居続けられる」とは限らないという外国人事件最大の落とし穴を、弁護方針の設計の最初の段階から視野に入れる必要がございます。
入管実務は、退去強制事由の判断に際し、長年にわたり行為者の故意・過失を要件としてまいりませんでした。当事務所の松村大介弁護士が現在係争中の事例(不法就労助長の嫌疑で起訴され強制送還の危機にある女性救済の裁判、いわゆるD-2号事案)は、この長年の運用に対し、責任主義の射程を行政処分としての退去強制にまで及ぼすべきこと、これは日本国憲法第三十一条(適正手続)・第十三条(個人の尊重)・第十四条第一項(法の下の平等)から導かれる必然であることを正面から問う訴訟でございます。本件のような類型におきましても、刑事捜査の初期段階から「中継サーバーが詐欺等に利用されていることを知らなかった」「過失もなかった」旨の主張及び証拠を確保しておくことは、後に万一入管手続段階に進んだ場合でも、一貫して「故意・過失なき退去強制は許されない」という主張を展開できるか否かを決定的に左右いたします。
4 なぜ「不起訴処分」の獲得が決定的に重要か ― 執行猶予判決ではなお不十分
日本国内の刑事弁護人の中には、外国人事件の場合でも「執行猶予判決の獲得」を最終目標として位置づける方が少なくございません。しかしながら、本件のような類型で有罪判決を受け、他罪と併合された結果として相応の刑期が確定した場合、たとえその刑の全部に執行猶予が付されたとしても、入管法第二十四条各号の退去強制事由に該当するとされやすいのが現実でございます。執行猶予期間中に日本国内で「収監されずに生活できる」状態であっても、刑事判決の確定をもって入管局が退去強制手続を起動し、収容・裁決・送還の流れに乗せられてしまうおそれがございます。
したがいまして、外国人刑事弁護の第一目標は、「起訴前段階での不起訴処分の獲得」に置く必要がございます。具体的には、捜査段階において、(一)行為者の主観面(巧妙に利用されたこと、中継の実質的用途を認識していなかったこと等)を意見書として詳細に検察官に呈示すること、(二)被害者が存在する場合の早期示談交渉、(三)「電気通信事業」の射程が真にご本人の行為に及ぶか否かの法解釈面での争点化、(四)詐欺罪共犯論との結びつきが疑われる場合における共謀共同正犯の射程の厳密な防御 ―― 等を、戦略的・並行的に展開する必要がございます。「自白+反省+情状」の定型的対応のみでは、外国人当事者にとっては結果として強制送還への扉を自ら開けてしまうに等しいのでございます。
5 初動対応で押さえておきたい三つのポイント
(1)黙秘権の行使 ― 安易に取調べに応じないこと
本件のような中継サーバーの客観的存在が前提となる事件では、被告人の主観面(詐欺利用を知っていたか、届出義務違反の認識があったか、犯罪収益の分配にどこまで関与したか)が、後の最大の争点となります。捜査機関の誘導に乗って漠然と認める供述をしてしまうと、ご本人としては「機材設置の事実を認めただけ」と思っていても、後の段階で共謀・共犯認定の根拠として利用されることが極めて多うございます。最初の取調べを受ける前に、まずは黙秘権を行使し、弁護人と打合せのうえ事実関係を冷静に整理してから供述すること、これが鉄則でございます。
(2)早期の弁護人選任 ― 当番弁護士制度だけに依拠しないこと
逮捕後七十二時間以内には、勾留請求・勾留決定の可否が決まります。この時間枠が、その後の処分(起訴・不起訴、退去強制・在留継続)の行方を大きく左右いたします。当番弁護士制度は初回接見の段階で一般的助言を得られる有用な制度でございますが、各当番弁護士は原則として一回限りの接見に留まるため、案件を継続的に追跡することができません。入管法に精通した私選弁護人を早期に選任し、ご本人の在留資格類型、違反内容の具体的構造、関連余罪の有無、共犯関係の範囲等を多角的に踏まえた総合戦略を構築することが肝要でございます。
(3)経験ある通訳の確保 ― 警察指定通訳の構造的リスク
中国籍の被告人が日本国内で取調べを受ける際は、原則として捜査機関が指定する通訳人を介することとなります。しかしながら、警察・検察が指定する通訳人は、ご本人の立場に立つ通訳人ではございません。訳出の微妙なニュアンスの差異が、供述調書の中でご本人に不利な形で定型化されてしまい、後の段階での争いが極めて困難になる事例が知られております。当事務所には、外国人事件に精通した中国語の専属通訳人が常駐しており、捜査機関が指定する通訳とは独立の立場で、接見、取調べ立会い、弁護人との打合せの全工程をサポートいたします。供述調書の歪みを最大限防止することが可能でございます。
6 当事務所のご案内と解決事例
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目四番十号 布施ビル本館三階)は、第一東京弁護士会所属の松村大介弁護士(登録番号五九〇七七、二〇一九年登録)が、中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護及び入管手続を主たる注力分野として運営しております。国際刑事事件、裁判員裁判対象事件、世界的に報道された重大事件への対応経験を多数有しております。
当事務所の最大の特徴として、松村大介弁護士が接見の初動から公判の結審まで全工程を直接担当いたします(事務員・若手弁護士による代行を行いません)。また、当事務所には外国人事件に精通した中国語専属通訳が常駐しており、捜査機関が指定する通訳とは別に、依頼者ご本人のために動く立場の通訳を、刑事手続全般にわたってご利用いただけます。
本件類型に関連する解決事例の一部をご紹介申し上げます。
事例一 国際刑事警察機構(インターポール)経由での刑事告訴受理
海外SNSを利用してなされた名誉毀損・侮辱被害事件において、日本警察と国際刑事警察機構(インターポール)との連携捜査を活用し、依頼者の刑事告訴を受理させた解決事例がございます。本件のような国境を跨ぐ通信・電気通信中継を巡る犯罪は、当事務所が培ってきた国際的捜査連携の知見と高度に親和的でございます。海外発の通信経路を辿る捜査ルートにつき、他事務所と比較しても深い理解を有しているところでございます。
事例二 特殊詐欺受け子事案で複数回再逮捕も全件不起訴処分
特殊詐欺の受け子と位置づけられた依頼者につき、複数回の再逮捕を経た後も、丁寧な取調べ対応、不当取調べへの抗議、主観要件不存在の主張立証を通じ、全立件について不起訴処分を獲得した解決事例がございます。同事例の主要な弁護方針(捜査機関による共犯射程の拡張的構成に対し、行為者の主観面を切り口に反論する構造)は、本件類型の弁護構造とも基本的な発想を共有するものでございます。
事例三 難関の在留特別許可を一発で獲得
観光目的で来日された依頼者が、日本人女性との間に子を授かりながら、在留資格を喪失し、不法滞在で逮捕・起訴されるという困難な局面に立たれた事案で、当事務所は憲法第十四条第一項平等原則の視座から、入管庁公表許可事例の年度横断的分析を通じて当局と正面から交渉するとともに、刑事公判において在留特別許可獲得に資する証拠を収集し、一発で在留特別許可を獲得した解決事例がございます。万一退去強制手続に進んでしまった場合の対応実績についても、確かな実績を有しております。
加えて、当事務所では、提携の行政書士と連携し、刑事手続終了後の在留資格更新・変更・永住申請等もワンストップでお受けすることが可能でございます。
7 結語
本件のような「無届けの中継サーバー設置型」事案は、一見すると技術的・形式的な違反のように見えながら、その背後には、SNS型投資・ロマンス詐欺、犯罪収益マネーロンダリング等の高度に組織化された犯罪構造が控えていることが少なくございません。捜査初期において、ご本人が事実関係を整理しきれず孤立した状態で取調べを受けた場合、その時に作成された供述調書は、後の弁護活動における最大の障害となります。「不起訴処分の獲得」を終局目標と位置づけ、刑事手続と入管手続の二正面で同時に弁護活動を展開することができるか否かが、外国人当事者ご本人のその後の人生を大きく左右するところでございます。
本記事は一般的な解説であり、個別事案については弁護士に直接ご相談ください。
本記事に記載した過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。
【執筆者情報】
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:五九〇七七/二〇一九年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目四番十号 布施ビル本館三階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
舟渡国际法律事务所
网站:https://matsumura-lawoffice.jp/
微信ID:matsumura1119
----------------------------------------------------------------------
舟渡国際法律事務所
住所 : 東京都豊島区高田3丁目4-10布施ビル本館3階
電話番号 :050-7587-4639
東京を中心に刑事事件の弁護
----------------------------------------------------------------------