諦めないで——「不法就労助長」で違反認定されたあなたへ 退去強制処分と「故意・過失」をめぐる、一つの希望のかたち
2026/04/27
諦めないで——「不法就労助長」で違反認定されたあなたへ
退去強制処分と「故意・過失」をめぐる、一つの希望のかたち
はじめに——いま、これを読んでいるあなたへ
入国管理局から「違反認定」と書かれた紙を渡された日のことを、覚えていますか。
「あなたは不法就労助長行為を行いました」「退去強制の対象です」——突然そう告げられたとき、頭の中が真っ白になり、足元が崩れ落ちるような感覚に襲われた方も少なくないでしょう。長年積み上げてきた日本での生活、家族、仕事、友人。そのすべてが、一枚の書面で否定されたように感じられたかもしれません。
「自分は不法就労なんてさせるつもりはなかった」
「相手が在留資格を超えて働いていたなんて知らなかった」
「ちゃんと書類も確認したのに、どうして自分が罪に問われるのか」
そんな思いを抱えたまま、収容され、あるいは在宅のまま、不安な日々を過ごしている方に、まずお伝えしたいことがあります。
諦めないでください。
伝統的な考え方では、退去強制処分のような行政処分には、行為者の故意や過失は要らないとされてきました。「あなたが知っていたか・知らなかったかは関係ない、客観的に該当行為があれば足りる」と。しかし、それは決して絶対のルールではありません。日本の法には、人を罰し、その人生を大きく動かすときに必ず尊重されなければならない大原則があります。
すなわち、適正手続、責任主義、そして比例原則です。これらの原則は、入管手続にも当然及ぶのです。
そのことを正面から問うた事案が、いわゆる「不法就労助長違反認定事件」です。本稿では、まずあなたが置かれている状況を法律家の言葉で整理し、後半でこの事件を題材に、どのような法的主張が可能なのかを丁寧に解説していきます。
第1章 あなたが置かれている状況
「違反認定」とは何か
退去強制手続は、おおむね次の流れで進みます。入国警備官による違反調査、違反事件の収受、収容(または在宅)、入国審査官による違反審査と違反認定、口頭審理、法務大臣の裁決、そして退去強制令書の発付——というように、何段階もの手続が連なっています。
「違反認定」とは、このうち入国審査官が「あなたは退去強制事由に該当する」と認定した段階の処分です。違反認定が出ると、口頭審理を求めるか、退去を受け入れるかの選択を迫られます。
ここで決定的に重要なのは、違反認定があった直後の3日(72時間)以内に「口頭審理を求める旨の申出」をしなければ、違反認定が確定してしまうという点です。「もう間に合わないかもしれない」と思っても、まずは口頭審理の申出をしてください。戦う土俵を確保することが、すべての出発点です。
「不法就労助長」とは
入管法24条3号の4イは、「不法就労助長行為」をした者を退去強制対象としています。「不法就労助長行為」の中身は、入管法73条の2第1項各号に書かれており、たとえば次のような行為が該当します。
- 事業活動として、外国人に不法就労活動をさせること(同項1号)
- 外国人に不法就労活動をさせるために、自己の支配下に置くこと(同項2号)
- 業として、外国人に不法就労活動をさせる行為のあっせんをすること(同項3号)
ポイントは、これらが「処罰の対象」であると同時に、外国人本人にとっては「退去強制の理由」にもなる、という二重の重みを持つ点です。
第2章 「故意・過失は要らない」と言われたら
伝統的な建前
行政処分(行政上の不利益処分)は、犯罪に対する刑罰とは違い、原則として行為者の故意・過失は不要だ——これが、長らく語られてきた建前です。「客観的に違反行為に該当すれば、それだけで処分できる」というロジックです。
入管職員のなかには、「あなたが知らなかったとしても関係ない」「事実として不法就労に関与した以上、退去してもらうしかない」と説明する方もいるかもしれません。しかし、それを鵜呑みにする必要はまったくありません。
しかし——適正手続・責任主義・比例原則
退去強制処分は、人をその国から物理的に追い出す、きわめて重大な処分です。家族との別離、仕事や財産の喪失、母国での再出発の困難——その不利益は、しばしば刑罰よりも重いと言ってよいほどです。このような重大な処分に、行為者の主観的事情がいっさい反映されないのは、健全な法治国家のあり方として正しいと言えるでしょうか。
憲法31条は、「何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない」と定めています。最高裁は、この適正手続の保障は刑事手続だけでなく行政手続にも及び得ることを認めています(成田新法事件・最大判平成4年7月1日)。
また、近代法の根幹をなす責任主義——故意・過失なくして責任を問うてはならない、という原則も、刑法だけのものではありません。とりわけ、人の人生を左右する処分においては、行為者がその結果を予見し、あるいは予見できたかが、処分の正当性を裏側から支える要素となります。
そして、行政法の基本原則である比例原則。どれほど目的が正当でも、その目的に対して過大な不利益を当事者に課してはならない、という原則です。書類確認に多少の落ち度はあったが、騙されて結果的に不法就労者を雇ってしまっただけの事業主に、家族との別離を強いる退去強制処分は、本当に「目的との均衡が取れている」と言えるでしょうか。
これらの原則から導かれるのは、たとえ伝統的な建前として「故意・過失不要」と言われていたとしても、実際の運用や司法判断においては、行為者の主観的事情が当然に考慮されるべきだ、ということです。
第3章 不法就労助長違反認定事件——一つの突破口
事案の概要
ここで紹介するのは、ある外国人事業主が、自らの店で稼働していた外国人について「在留資格に基づく就労範囲を超えて働いていた」ことを理由に、不法就労助長行為として違反認定を受けた事案のイメージです。
事業主の側には、次のような事情がありました。
- 雇用時に在留カードと在留資格を確認していたこと
- 就労範囲についても、本人および第三者から「問題ない」との説明を受けていたこと
- 巧妙な説明により、就労範囲外の活動であると気付くのが容易ではなかったこと
- 就労時間や業務内容について、自分なりの管理体制を敷いていたこと
それでもなお、入管は「客観的に不法就労をさせた事実がある以上、違反認定を免れない」として、事業主自身を退去強制手続にかけました。
当事者側の主張
当事者側は、概ね次の三本の柱で主張を組み立てました。
第一に、入管法73条の2第2項は、不法就労助長罪について「過失がないときは、この限りでない」と明記している。すなわち、刑罰の場面では、過失なき助長は処罰されない。それにもかかわらず、退去強制という、しばしば刑罰を凌ぐ重大な不利益処分について、過失すら要らないと解するのは、法体系内部の均衡を著しく欠く、ということ。
第二に、責任主義および比例原則の観点から、退去強制事由の解釈にあたっても、行為者の故意・過失が当然に考慮されなければならない。過失すら認められない者にまで退去強制を及ぼすのは、憲法31条の適正手続保障の趣旨に反する、ということ。
第三に、本件において、事業主は社会通念上要求される確認義務を果たしており、過失は認められない。仮に何らかの注意義務違反があったとしても、それは退去強制という重大な処分を正当化するに足りる程度のものではない、ということ。
判断枠組みのポイント
このような主張に対し、当該事案の判断は、次のような枠組みで応答する方向性を示しました。
まず、退去強制処分が行政処分であるとはいえ、その効果の重大性に鑑みれば、処分要件である「不法就労助長行為」の解釈にあたっては、刑罰規定である73条の2と整合的に理解すべきである、という発想です。
そのうえで、73条の2第2項により過失なき行為が処罰されないのと同様、24条3号の4イにいう「不法就労助長行為」も、少なくとも過失を要件として含むと解するのが相当である、という解釈が示されました。
そのうえで、本件における事業主の確認状況、相手方の説明状況、偽装の巧妙さ、就労管理体制といった事情を、丁寧に検討して、過失の有無が判断されることになります。
このような枠組みは、伝統的な「行政処分には故意・過失不要」という建前を、入管実務において相対化する大きな意義を持っています。
この事件が教えてくれること
不法就労助長違反認定事件は、私たちに、次の三つのメッセージを残してくれました。
第一に、入管が「あなたの故意・過失は問題にしない」と言っても、それは絶対ではない。むしろ、重大な処分であればあるほど、行為者の主観的事情は無視できない要素として浮かび上がってきます。
第二に、刑罰規定と退去強制事由の関係を丁寧に解きほぐすことで、新しい主張の余地が生まれる。条文の文言だけを読んで諦めるのではなく、その規定が法体系全体の中でどのような位置にあるのかを問い直すことが大切です。
第三に、事実関係の細部に勝負の鍵がある。在留カードの確認状況、相手方の説明、騙された経緯、就労管理体制——これらの一つひとつが、過失の有無を判断する素材になります。記憶が新しいうちに、出来事を時系列で書き出し、関係する書類を集めておくことを、強くお勧めします。
第4章 いま、あなたができること
まず深呼吸を
何よりもまず、深呼吸してください。あなたの人生は、まだ終わっていません。違反認定を受けた段階では、まだ取り得る手続が、いくつも残されています。
- 口頭審理の申出(違反認定の通知から3日以内)
- 口頭審理での事実主張・立証
- 法務大臣(入管庁長官)への異議の申出
- 裁決および退去強制令書発付処分の取消訴訟
- 仮放免の申請
それぞれの段階で、適正手続・責任主義・比例原則を踏まえた主張を尽くす機会があります。
信頼できる専門家に相談する
退去強制手続は、複雑で、時間との戦いです。一人で背負い込まず、入管事件に詳しい弁護士または行政書士に、できるだけ早期に相談してください。あなたの事案の中の「過失がない、または軽微な過失にとどまる」事情を、一緒に掘り起こしてくれる専門家が、必ずいます。
事実を、あなた自身の言葉で記録する
雇用や交流の経緯、相手方の説明内容、確認した書類、当時の心境——できるだけ詳細に、時系列で書き出してください。これは、後の手続での主張・立証の核となります。LINE、メール、防犯カメラの記録、シフト表、給与明細など、客観的な証拠の保全も忘れずに。
おわりに——日本に残るために、戦うこと
違反認定の紙は、ゴールではなく、スタートラインです。
伝統的な「行政処分に故意・過失は不要」という言説に、丸ごと飲み込まれてはいけません。日本の法体系には、適正手続、責任主義、比例原則という、あなたの主観的事情をしっかり受け止めるべき器が、ちゃんと用意されています。
不法就労助長違反認定事件は、その器が確かに機能しうることを示してくれた、貴重な手がかりの一つです。
あなたが日本で築いてきた時間、絆、未来——その重みを、安易に手放さないでください。法律は、本来、人を救うためにあります。そして、その法律を使いこなすために、専門家がいます。
諦めずに、戦ってください。
あなたの戦いを、私たちも全力で支えます。
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