中国籍の方が大学入試の替え玉受験で逮捕されたら|有印私文書偽造・建造物侵入と在留資格
2026/05/23
中国籍の方が大学入試の替え玉受験で逮捕されたら|有印私文書偽造・建造物侵入と在留資格
1. はじめに
2026年5月21日、警視庁世田谷署が、建造物侵入と有印私文書偽造の疑いで、中国籍の塾講師の男性(39歳)を再逮捕したと報じられています。報道によりますと、容疑者は日本大学の一般入試において、10代の男性受験生になりすまして答案用紙に他人の名前を記入し、本人として試験を受けようとしたところ、本来の受験生がご本人として会場に現れ、その場で発覚したとのことです。容疑者は、SNS「微信(ウィーチャット)」で何者かから「試験を受けたら報酬を払う」と持ちかけられて関与したと供述しており、警視庁は組織性も視野に捜査を進めているとされています。
当事務所では、似たような状況に置かれてしまったご家族・ご友人の方々からのご相談を、これまで多数承ってまいりました。本記事では、この種の「替え玉受験」事案に適用されうる罪名の構造、外国人当事者が直面する在留資格上のリスク、そして初動段階で守るべきポイントを、ご家族の視点に立って整理いたします。なお、以下の記述は同種類型の事案を念頭に置いた一般的な解説であり、特定の個人を論評するものではございません。
2. 適用されうる罪名と法定刑の整理
替え玉受験事案では、通常、複数の罪名が同時に検討されます。
第一に、有印私文書偽造罪(刑法159条1項)および同行使罪(刑法161条1項)です。他人の氏名を勝手に答案用紙に記入することは、行使の目的をもって他人名義の私文書を作成する行為に該当し、これを大学に提出することは「行使」にあたります。法定刑は、いずれも3月以上5年以下の拘禁刑とされています。
第二に、建造物侵入罪(刑法130条前段)です。「他人になりすまして受験する」という違法な目的をもって大学校舎・試験会場に立ち入る行為は、管理権者の意思に反する侵入と評価され、本罪を構成します。法定刑は3年以下の拘禁刑または10万円以下の罰金です。
第三に、偽計業務妨害罪(刑法233条)です。虚偽の手段によって大学の入学者選考業務を妨害する行為が、本罪にあたると考えられています。法定刑は3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金です。
第四に、組織的犯罪集団の活動の一環と認定された場合、組織的犯罪処罰法3条による刑の加重事由が併合適用される可能性があります。報道で言及されている「微信グループからの委託」「小型カメラ・集音機器の所持」「外部に試験内容を伝える意図」といった事情は、組織性要件を基礎づける重要な証拠となります。
〔「拘禁刑」についての補足〕令和4年改正刑法(令和7年6月1日施行)により、従来の自由刑(拘禁刑施行前の2類型)は一本化され、「拘禁刑(こうきんけい)」として整理されました。本記事では現行法の用語として「拘禁刑」を用います。
3. 外国人事件特有のリスク──入管法上の退去強制事由
外国人の方が替え玉受験事案で有罪となった場合、入管法24条各号の退去強制事由が複合的に問題となります。
第一に、入管法24条4号リの「無期又は1年を超える拘禁刑」に処せられた者という事由です。有印私文書偽造罪の法定刑上限は5年以下の拘禁刑ですが、実刑判決で1年を超えた場合、原則として本号に該当することになります。本号は、全部執行猶予が付された場合の除外規定を含んでおりますので、退去強制事由に該当するか否かは、執行猶予の有無・複合罪名の合算等を一つずつ精査する必要があります。
第二に、入管法24条4号ロの「刑罰法令違反により拘禁刑に処せられた者」という事由です。執行猶予判決の場合であっても、事案によっては本事由の成立余地が議論されます。
第三に、組織的犯罪集団構成員に関する退去強制事由(入管法24条4号ヲ・ワ等)も、捜査段階で組織性が固められれば、適用の現実味が増します。
第四に、退去強制まで至らずとも、「在留資格更新拒否」(入管法21条)や「在留資格取消し」(入管法22条の4第1項4号等――「偽りその他不正の手段により、当該在留資格を取得したと認められる者」等)のリスクが残ります。「留学」の在留資格をもつ中国籍の方が本罪名で有罪となれば、次回更新時に入管が「素行不良」を理由として更新を拒否する事例も、決して珍しくはございません。
結論として、「執行猶予判決が付けば日本に居られる」という大まかな説明は、替え玉受験事案における外国人当事者にはおよそ十分とは申せません。各号の構造は大きく異なっており、入管法に通じた弁護人による号ごとの精査が不可欠です。
4. 不起訴処分の決定的な重要性
前節でご説明した入管法上の多重リスクから明らかなとおり、本類型の事案は、いったん公判請求されますと、たとえ公判で執行猶予判決を得たとしても、退去強制や在留資格喪失の危険を抜本的に回避することは困難です。
そこで当事務所の弁護方針としては、起訴前段階での不起訴処分獲得を最優先目標とし、「執行猶予判決の獲得」を最終目標として設定することは決していたしません。具体的には、取調べ段階において次の各点を徹底的に争います。
第一に、主観要件の徹底的な吟味です。容疑者が「答案に記入する氏名が他人のものである」「これが他人の答案として大学に処理される」と認識していたかどうか(故意の有無)が、有印私文書偽造罪成立の核心となります。「友人の代わりにちょっと受けてほしいと頼まれただけ」という認識しか持ち合わせていなかった周辺関与者と、組織犯罪の全貌を理解した中心人物とは、当然明確に区別されるべきです。
第二に、共謀範囲の限定です。報道で言及されている「微信での依頼主」の具体的素性、報酬の額、組織的犯罪集団との関連性等について、客観証拠から「組織性の認識」を立証することが困難であれば、共謀の主観面については合理的な疑いを残すことが可能です。
第三に、被害弁償・謝罪等の情状要素の積み上げです。影響を受けた大学側、本来の受験生の方(受験機会が損なわれた可能性のある方)等に対する、迅速な謝罪と被害弁償は、不起訴処分を求める上で重要な情状証拠となります。
外国人当事者のご家族の皆様には、起訴前の20日間における弁護人の活動が、検察官に「不起訴処分が相当」と判断させられるかどうかが、在留資格を守れるかどうかを直接左右するという構造をぜひご理解いただきたく存じます。
5. 初動対応で押さえておきたい3つのポイント
第一に、黙秘権の行使です。日本国憲法38条1項は自己負罪拒否特権を保障しており、弁護人と面会する前の段階で、捜査官の質問に対しては黙秘権を行使する選択肢が当然にございます。替え玉受験事案では、「微信グループの依頼主は誰か」「主導したのは誰か」といった組織性に関する取調べの応答が、共謀範囲・情状の軽重を直接決定づけるため、初期段階での不用意な供述が後の公判で致命傷となることが少なくありません。
第二に、早期の弁護人選任です。日本には当番弁護士制度があり、逮捕後に一度だけ無料で弁護士を呼ぶことができます。もっとも、当番弁護士は初回の接見のみを担当する制度ですので、継続的な弁護活動のためには、別途私選弁護人を選任する必要がございます。替え玉受験事案は入管法の解釈論が極めて複雑ですので、外国人刑事事件に通じた私選弁護人の早期選任をご検討ください。
第三に、経験のある通訳の確保です。捜査機関が手配する通訳人は、必ずしも法律用語の専門家ではございませんし、方言色の強い中国語(北京語・上海語・広東語・福建語・閩南語等)への対応が十分でない場合もあります。供述調書のわずかなニュアンスのずれが、後の公判で致命傷となることもございます。当事務所では、外国人事件に通じた中国語専属通訳が常駐しており、接見・取調べ立会いの全工程に同行可能です。
6. 当事務所のご案内と解決事例
舟渡国際法律事務所は、東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階に所在し、松村大介弁護士(第一東京弁護士会・登録番号59077・2019年登録)が中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護を主たる注力分野としております。下記の3件は、本類型の事案の解決アプローチに通じる共通価値を有する実績です。
解決事例1:特殊詐欺の出し子(取り子)行為に関与したとされた20代女性につき、依頼者の主観的事情(指示役からの欺罔的・脅迫的な状況、犯意の不存在等)の総合的主張により、不起訴処分を獲得いたしました。組織犯罪における周辺関与者の「主観要件不充足」論証の手法は、替え玉受験事案の周辺参与者(試験会場での答案記入のみを担当し、組織全体の構造への認識が限定的な方)への弁護方針にそのまま応用可能でございます。
解決事例2:冤罪により不法就労助長罪に問われ強制退去の危機に瀕した女性を救済する案件において、当事務所は「退去強制事由にも故意・過失要件を要する」という根本的論点について、現在訴訟係争中でございます。本訴訟は、責任主義の射程を行政処分にどこまで及ぼすかという憲法論・行政法論の根本問題を正面から問うものです。替え玉受験事案で万一刑事事件において有罪と認定された場合であっても、入管手続段階で「故意・過失なき周辺関与者には退去強制事由は成立しない」と主張する基礎が、本訴訟の議論と共通しております。
解決事例3:当事務所の松村大介弁護士は、国際刑事事件、裁判員裁判対象事件、世界的に報道された重大事件への対応経験が豊富でございます。中国籍の方の重大事件にも数多く対応してまいりました。組織性が背景にある複雑事案で蓄積した事案分析力・公判戦略構築力は、替え玉受験事案における組織性捜査局面でも、有力な備えとなります。
当事務所の最大の特徴として、松村大介弁護士が接見の初動から公判の結審まで全工程を直接担当いたします(事務員・若手弁護士による代行を行いません)。また、当事務所には外国人事件に精通した中国語専属通訳が常駐しており、捜査機関が指定する通訳とは別に、依頼者ご本人のために動く立場の通訳を、刑事手続全般にわたってご利用いただけます。
提携の行政書士による在留資格サポートとして、刑事手続終了後の在留資格更新・変更・在留特別許可申請等の手続にも、ワンストップで対応可能でございます。
7. 結語
替え玉受験は、一見「軽い試験不正」のように見える方もいらっしゃるかもしれませんが、その法的評価は決して軽くございません。複数罪名の併合適用、組織的犯罪集団としての嫌疑、そして外国人特有の退去強制事由――いずれも、ご依頼者が長年積み重ねてこられた在日生活の基盤を、一瞬で奪いかねないリスクをはらんでおります。「友人の代わりに試験を受けるだけ」という軽い気持ちで関与してしまった周辺の方が、組織性捜査の網に巻き込まれて重大な危険に直面する実例も少なくありません。
起訴前段階での不起訴処分獲得こそが、在留資格を守り抜くための決定的な手段でございます。どうか、日本の入管法に精通した弁護人を早期に選任し、刑事・入管の二重防御線を一緒に構築するお気持ちで、ご相談くださいますようお願い申し上げます。
本記事は一般的な解説であり、個別事案については弁護士に直接ご相談ください。
過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。
覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
微信ID:matsumura1119
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舟渡国際法律事務所
住所 : 東京都豊島区高田3丁目4-10布施ビル本館3階
電話番号 :050-7587-4639
東京を中心に刑事事件の弁護
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