中国籍の方が通販サイトでのクレジットカード不正利用・転売事案で逮捕されたら|起訴前の不起訴獲得と在留資格を守るために
2026/05/16
中国籍の方が通販サイトでのクレジットカード不正利用・転売事案で逮捕されたら|起訴前の不起訴獲得と在留資格を守るために
1. はじめに
2026年5月15日、愛知県警は、中国籍の男女5名と日本国籍の1名を含む合計6名を、他人のクレジットカード情報を悪用して通販サイトで高級腕時計を購入し、転売により利益を得ていた事案で逮捕・送検した旨を発表しました。逮捕された周姓被疑者ら6名は、2023年以降同様の手口を繰り返し、累計売上が3億7,200万円規模に達するとみられております。愛知県警による大規模な組織犯罪対策事件でございます。
本記事では、こうした類型の事案を素材として、中国籍の当事者の方が「盗取したクレジットカード情報を用いて通販サイトで商品を購入し、転売する」類型の事案に関与した疑いで逮捕された場合の刑事手続の流れ、退去強制リスク、そして刑事弁護方針について整理いたします。日本にお住まいの中国籍の方々・そのご家族・ご友人で、同種の嫌疑に直面されている方々のご参考となれば幸いに存じます。
2. 罪名構造と法定刑
本類型の事案は、典型的に複数罪名の競合を伴います。
第一は「電子計算機使用詐欺罪」(刑法246条の2)でございます。法定刑は10年以下の拘禁刑。本罪は平成2年改正により新設された罪名で、コンピュータシステムに対し虚偽の情報を入力又は不正な指令を与えて財産的利益を得る行為を処罰するものでございます。通販サイトに他人のクレジットカード情報を入力して購入を完了させる行為は、本罪の典型的態様と整理されます。
第二は「窃盗罪」(刑法235条)でございます。法定刑は10年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金。他人のクレジットカード情報により購入された商品が指定先に配送された後にこれを領得する行為は、窃盗罪を構成いたします。
第三は「組織犯罪処罰法違反」(組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律)でございます。摘発結果から、指示役・注文役・受取役・転売役・資金洗浄役といった役割分担を伴う組織的構造が認められれば、組織犯罪処罰法6条の2「組織的詐欺」(5年以上の拘禁刑)が併合的に適用される可能性が高く、法定刑は単独罪名よりも著しく重くなります。
第四に、「盗品等買受け・有償処分あっせん等罪」(刑法256条、10年以下の拘禁刑及び50万円以下の罰金)の併合適用も想定されます。
なお、令和4年改正刑法(令和7年6月1日施行)により、従来の「懲役」「禁錮」は廃止され、両者を一本化した「拘禁刑」が新設されました。本記事においても、現行法の解説として一貫して「拘禁刑」と表記してまいります。
3. 刑事手続の流れ
本類型の事案は、警察による長期間の内偵を経て一斉摘発が行われることが多く、通常逮捕の形態がほぼ全てでございます。逮捕後48時間以内に検察官に送致され、検察官は24時間以内に勾留請求の判断を行います。勾留期間は10日間、必要に応じて更に10日間延長され、合計最長20日間となります。
共犯関係が複雑な事案では、被害件ごとに「逮捕→勾留→起訴→再逮捕」のサイクルが繰り返されるため、依頼者の実質的身柄拘束期間が数か月に及ぶこともございます。
また、組織犯罪処罰法と刑法246条の2が競合する事案では、検察官の起訴姿勢により、被害件ごとに個別起訴がなされ、数十回から数百回に及ぶ公判期日が予定される事例もございます。
4. 外国人事件特有のリスク──退去強制
中国籍の依頼者が本類型事案において直面する最大のリスクは、退去強制処分でございます。
入管法24条4号リは、「無期又は1年を超える拘禁刑に処せられた者」を退去強制事由として定めております。同号は全部執行猶予判決の場合に除外規定を有しますが、実刑1年以上の場合は例外なく退去強制事由に該当いたします。
電子計算機使用詐欺罪及び組織犯罪処罰法の「組織的詐欺」の法定刑上限は、それぞれ10年と無期の拘禁刑でございます。被害規模が数千万円を超える事案では、実刑判決の可能性が顕著に高まります。実刑1年以上が言い渡されれば、退去強制事由該当は疑いなく確定いたします。
仮に執行猶予判決を獲得できたとしても、次回の在留資格更新や永住申請の段階で「素行不良」と評価され、不許可となるリスクが併存いたします。「経営・管理」の在留資格をお持ちの被告人については、刑事手続の結果がそのまま在留資格更新審査に影響することも多うございます。
特に留意すべきは、被害件数が多数に及ぶ事案では、単一被害件の損害額は必ずしも大きくない場合があるところ(本起報道の7万5,000円腕時計)、累積総額が3億円規模に達したときには、量刑判断が単一被害件ベースから「組織性」「反復性」という質的評価に転換し、実刑判決の可能性が大幅に上昇する点でございます。
5. 不起訴処分の重要性と「共謀・故意」の争点化
以上の構造からすれば、外国人刑事弁護の最優先目標は、「起訴前段階で不起訴処分を獲得すること」に置かれるべきでございます。全件不起訴が困難な場合であっても、被害件ごとの主張の積み重ねによって一部件数の不起訴化を実現し、累計被害額を実刑判決ラインの下に抑えることが、当面の現実的目標となります。
本類型事案において、不起訴を求めて主張すべき争点としては、下記が考えられます。
(1)信用カード情報の盗取由来の認識──被疑者が組織の募集に応じて参加し、特定の役割(商品受取又は転売)のみを担っていた場合、信用カード情報の違法な由来について明確な認識を欠いていた可能性がございます。これは「故意」争点の中核でございます。
(2)組織全貌の認識──組織犯罪処罰法適用の要諦は「組織」の認識でございます。被疑者が単一役割のみを担当し、組織全貌について知らされていなかった場合、「組織的詐欺」から単一の「詐欺罪」又は「盗品等罪」への格下げを主張する余地がございます。
(3)報酬の多寡──関与の程度が低く、報酬が小さい被疑者と、主導的構成員との間には実質的差異が存在し、差別化された量刑を主張すべきでございます。
(4)被害弁償への協力──被害弁償の実施を通じて、一部の被害件について不起訴を獲得することが現実的な目標となります。
各争点について、具体的証拠を併せ、勾留段階で弁護人が検察官宛意見書を提出し、検察官面談を通じて交渉することで、最大の効果が期待できます。
6. 責任主義の射程──当事務所の独自論点
松村大介弁護士が提示する独自の論点として、日本の入管行政が長年「退去強制事由には故意・過失を要件としない」との立場を維持してきた点に対する責任主義(「責任なくして刑罰なし」)の射程の問題がございます。
刑事段階で故意の不存在を理由に無罪・不起訴となった場合でも、入管手続では「客観的事実」のみに基づき退去強制事由該当性が認定されうる、という構造に対し、行政処分にも責任主義の射程が及ぶべきではないか、という憲法論・行政法論上の根本問題でございます。
当事務所は現在、この論点を正面から争う訴訟(事例D-2)を係争中であり、その中で、行政処分が故意・過失を要件としない運用は憲法31条(適正手続)・憲法13条(個人の尊重)・憲法14条1項(平等原則)に違反する旨を主張しております。
通販クレジットカード不正利用事案におきましては、被疑者の「クレジットカードが盗取されたものとは認識しておらず、雇われてから知った」との主観面の主張が、刑事段階で十分に保全されていなければ、入管段階で改めて主張することは極めて困難でございます。当事務所は、刑事段階の早期から主観面を十分に主張し、証拠として保全することにより、後の入管段階での第二・第三の防御線の準備を整えることを推奨いたします。
7. 初動対応の3つのポイント
第一に、黙秘権の行使でございます。本類型事案では、警察が事前内偵により相当の証拠を既に把握していることが一般的でございます。しかし、被疑者の「組織全貌の認識」「クレジットカード情報の由来の理解」といった主観的要件についての初期供述は、後の公判における中核的証拠として定型化されます。通訳の補助が不十分な状態で供述調書に署名押印することは、極めて危険でございます。
第二に、早期の弁護人選任でございます。本類型事案は通常逮捕の形態が多く、警察が相当の証拠を既に握っていることを意味するため、弁護人は勾留段階で迅速に対応する必要がございます。
第三に、当事務所専属通訳の活用でございます。本類型事案では、電子証拠・通販記録・銀行送金記録等の複雑な証拠が多数登場し、これらの正確な翻訳が極めて重要でございます。当事務所には、外国人刑事弁護に精通した中国語専属通訳が常時在籍しており、刑事手続の全段階を通じてご本人のために動く立場の通訳をご利用いただけます。
8. 当事務所の解決実績──具体例
松村大介弁護士は、下記の事案類型において、解決実績を積み上げてまいりました。
特殊詐欺受け子事案における複数回再逮捕も全件不起訴の獲得。被疑者が特殊詐欺の受け子で複数回再逮捕された事案について、徹底した取調べ対応、不当取調べへの抗議、主張立証の体系化を通じて、全件について不起訴処分を獲得した事例でございます。本実績は、当事務所の複数件併発事案における体系的弁護能力を示すものであり、通販クレジットカード不正利用の複数件併発事案においても共通の応用価値を有します。
インターネット上の侮辱被害事案におけるインターポール経由の刑事告訴受理。海外SNSで行われた侮辱被害について、日本の警察と国際刑事警察機構(インターポール)の連携により刑事告訴を受理させた事例でございます。本実績は、当事務所の越境的組織犯罪事案における調整能力を示すものであり、越境的クレジットカード不正利用組織事案においても応用価値がございます。
インターネット誹謗中傷被害事案における5,000万円解決金の獲得。被害者代理人として、インターネット上の誹謗中傷被害事案で5,000万円の解決金を獲得した事例でございます。本実績は、当事務所のインターネット犯罪事案における損害評価・交渉能力を示すものでございます。
難関とされる在留特別許可の「一発」獲得・不法就労助長罪認定事案における前例のない在留特別許可の獲得(係争中)。前者は、当事務所の在留資格救済における深い経験を、後者は退去強制段階における当事務所の独自の論証能力を、それぞれ示すものでございます。
当事務所の最大の特徴として、松村大介弁護士が接見の初動から公判の結審まで全工程を直接担当いたします(事務員・若手弁護士による代行を行いません)。また、当事務所には外国人事件に精通した中国語専属通訳が常駐しており、捜査機関が指定する通訳とは別に、依頼者ご本人のために動く立場の通訳を、刑事手続全般にわたってご利用いただけます。提携の行政書士による在留資格更新・変更等のワンストップ対応も可能でございます。
9. 結語
通販サイトにおけるクレジットカード不正利用事案で中国籍の方々が直面する最大のリスクは、単一被害件の刑罰そのものではなく、被害件数の累積結果として生じる量刑実刑化・組織犯罪処罰法の併合適用・退去強制必至という連鎖でございます。複数件併発の事案においては、被害件ごとの主張の積み重ねにより一部件を不起訴化し、累計被害額を制御しつつ執行猶予判決の可能性を維持することのみが、現実的な防御線でございます。逮捕後72時間の黄金期を逃さず、早期に経験豊富な弁護人を選任され、刑事段階での主張・証拠の体系的保全と、万一の入管段階に備えた準備を進めることが、最も確実な道筋でございます。
本記事は一般的な解説でございますので、個別事案については弁護士に直接ご相談くださいませ。本記事に記載した過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続・行政訴訟を主たる注力分野とする。覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の「一発」獲得、不法就労助長罪認定事案における前例のない在留特別許可獲得(係争中)等の解決実績を有する。
舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
微信ID:matsumura1119
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