監理措置決定申請から弁護士を締め出す運用は違憲である――「弁護士代理の原則」と憲法上の弁護人依頼権の視点から――
2026/07/15
監理措置決定申請から弁護士を締め出す運用は違憲である
――「弁護士代理の原則」と憲法上の弁護人依頼権の視点から――
弁護士 松村 大介
1 はじめに――問題の所在
令和5年(2023年)の出入国管理及び難民認定法(以下「入管法」)改正により、令和6年6月10日から「監理措置」という新たな制度が施行された。これは、退去強制手続の対象となった外国人を、収容せず、社会の中で生活させながら手続を進めるための制度であり、長らく国内外から批判を浴びてきた「全件収容主義」に対する制度的代替として位置づけられている。身体の自由の制約を緩和しうる制度であること自体は、方向性として評価できる。
しかし、その運用には看過しがたい問題がある。すなわち、監理措置決定の申請は、原則として外国人本人しか行うことができず、弁護士が本人の代理人として申請することが認められていないという点である。日本語も法制度も十分に理解できず、しかも収容施設に身柄を拘束されている者に対し、「自分で申請せよ」と迫るに等しいこの運用は、権利保障の観点から根本的な疑義をはらむ。
本稿は、監理措置の制度と要件、申請に必要な書類を確認したうえで、民事訴訟法が採用する「弁護士代理の原則」と、その基礎にある憲法上の諸権利――とりわけ憲法34条前段の弁護人依頼権、32条の裁判を受ける権利、31条の適正手続――に照らし、代理人弁護士による監理措置決定申請を封じる現行の運用が憲法に反することを論じるものである。
2 監理措置の制度
監理措置とは、入管庁の説明によれば、「監理人による監理の下、逃亡等を防止しつつ、相当期間にわたり、社会内での生活を許容しながら、収容しないで退去強制手続を進める措置」をいう。従来、退去強制手続においては、対象者は原則として収容されること(全件収容主義)が前提とされ、例外的に「仮放免」によって身柄拘束が一時的に解かれるにとどまっていた。仮放免は本来「収容の一時的解除」であり、事情が消滅すれば再収容が予定される、あくまで恩恵的・暫定的な措置にすぎない。
これに対し監理措置は、収容とは別の選択肢として、社会内処遇を正面から制度化したものである。法律上は、次の二つの段階に分けて規定されている。
① 退去強制令書発付前の監理措置――入管法44条の2以下(監理人の選定につき44条の3、被監理者の届出義務につき44条の6、決定の取消しにつき44条の4等)。
② 退去強制令書発付後の監理措置――入管法52条の2以下(監理人の選定につき52条の3、届出義務につき52条の5、取消しにつき52条の4等)。
いずれの段階でも、制度の要となるのが「監理人」の存在である。監理人は、被監理者の生活状況を把握して指導・監督し、相談に応じて援助し、主任審査官の報告要求に応じ、一定の事由が生じたときは届け出る責務を負う。親族・知人・元雇用主・支援者のほか、弁護士や行政書士も監理人になりうるとされている。
ここで直ちに一つの矛盾が浮かび上がる。弁護士は、被監理者を監督する立場の「監理人」にはなれるのに、被監理者の権利を代弁する立場の「申請代理人」にはなれない、というのである。この非対称性こそ、本稿が問題とする核心である。
3 監理措置の要件
(1)監理人を選定できること
監理措置は監理人の存在を前提とする制度であるため、その責務を理解し、承諾している者であって、任務遂行の能力に照らして適当と認められる監理人を確保できることが不可欠の前提となる(44条の3第1項等)。監理人が得られなければ、そもそも監理措置は成立しない。
(2)主任審査官による相当性の判断
そのうえで、主任審査官が、収容しないで退去強制手続を行うことを相当と認めることが必要である。その判断に当たっては、次の諸要素が総合的に考慮される。
・退去強制令書発付前の段階では、逃亡・証拠隠滅のおそれの程度に加え、収容によって被る不利益、すなわち被収容者の心身の健康状態や家族関係に与える影響等が考慮される。
・退去強制令書発付後の段階では、逃亡・不法就労のおそれの程度に加え、同様に収容による不利益(健康・家族関係等)が考慮される。
要するに、監理措置の可否は、逃亡等のおそれという保安的要素と、収容による人権侵害的要素とを衡量する、総合的な裁量判断の構造をとっている。だからこそ、対象者の家族関係・健康状態・生活基盤といった事情を的確に主張・疎明できるか否かが結論を左右する。これはまさに、法的主張の巧拙が結果を分ける場面であり、専門家である弁護士の関与が本質的に要請される領域にほかならない。
4 監理措置決定申請の必要書類(様式の内容)
以下では、出入国在留管理庁が公表する実際の様式PDFから、監理措置決定申請に用いる中核書類の記載項目を確認する。申請の核となるのは、次の二つの様式である。
(1)監理措置決定申請書(別記第五十一号の三様式〔施行規則36条の2関係〕)
入管法44条の2第4項又は52条の2第4項に基づく申請書であり、主任審査官宛てに提出する(用紙はA列4番)。様式の記入欄は、次のとおりである。
・宛先・根拠:主任審査官宛て/入管法44条の2第4項又は52条の2第4項
・監理措置決定を希望する外国人:氏名(性別)・生年月日・国籍地域
・代理人(該当する場合):氏名(性別)・生年月日・国籍地域・住居地・連絡先・外国人との関係
・監理人(個人):氏名(性別)・生年月日・国籍地域・住居地・連絡先・外国人との関係
・監理人(法人):名称・本店又は主たる事務所の所在地・代表者氏名・連絡先・外国人との関係
・監理措置決定を希望する理由(記載欄)
・署名:申請人(代理人)の署名・申請年月日
(2)監理人承諾書兼誓約書(別記様式)
監理人となろうとする者が署名する書面であり、責務の理解と適格性を確認・誓約する。様式の内容は、次のとおりである。
・被監理者:氏名(性別)・生年月日・国籍地域
・監理人:氏名又は名称・国籍地域・本人との関係・署名年月日(法人の場合は代表者氏名)
・責務の理解確認(4項目):①被監理者の生活状況の把握と指導監督、②相談対応・援助の努力、③届出義務の履行、④報告義務の履行、の各理解にチェック
・適格性の確認:暴力団員等に該当しないこと・暴力団の支配する企業でないことの確認
・誓約:記載内容が事実と相違ない旨の署名
(3)添付を要する疎明資料
・監理人の身分を証する書類(運転免許証・在留カード等の写し)
・申請人の収入・資産を疎明する資料(預貯金通帳の写し、住民税の課税(非課税)・納税証明書等)
・指定住居を明らかにする資料(賃貸借契約書の写し等)
・申請理由を疎明する資料(収容による不利益=心身の健康状態・家族関係への影響等を示す陳述書・診断書等)
申請は、外国人が収容されている(又は仮放免中であればその担当)地方出入国在留管理官署の窓口に直接出頭して提出する方法によらなければならず、郵送による申請は認められていない。手数料は無料であるが、主任審査官が必要と認めるときは、300万円を超えない範囲で保証金の納付が条件とされることがある。
注目すべきは、この様式が「代理人」欄をあらかじめ設けていることである。制度は代理申請の受け皿を様式上は用意している。ところが、そこに座ることのできる代理人を、施行規則は本人の親族(それも本人が16歳未満か疾病等で自ら申請できない場合に限る)に絞り、弁護士をその席から明示的に締め出している。代理の可能性を制度自身が認識しながら、あえて弁護士だけを排除しているのである。
そして、これらの書類は、収入・資産の疎明、住居の確保、監理人の手配、そして何より「収容による不利益」と「逃亡等のおそれの低さ」を説得的に組み立てる申請理由の作成など、法的知識と構成力を要する作業の集積である。収容施設内にあって外部との連絡も制約される外国人本人が、通訳もなく、これを独力で整えて窓口に「直接」持参することが、どれほど非現実的な要求であるかは、実務に携わる者であれば直ちに理解できよう。
5 申請主体の限定――弁護士は「代理申請」できない
ところが、これほど専門的援助を要する手続でありながら、入管法施行規則及び入管庁の運用は、監理措置決定申請の申請主体を極めて狭く限定している。すなわち、
① 申請は、原則として監理措置決定を受けようとする外国人本人が行う。
② 例外的に代理申請が許されるのは、本人が16歳未満であるか、又は疾病その他の事由により自ら申請することができない場合に限られ、しかも代理しうる者は、本人と同居する配偶者・子・父母・その他の親族に限定される。
この枠組みの下では、成年で意思能力を欠かない外国人については、たとえ収容中であっても、弁護士が代理人として監理措置決定申請を行う余地が存在しない。さらに、在留資格に関する諸申請について認められている「申請取次」の制度(弁護士・届出済みの行政書士等が本人に代わって申請書類を提出できる仕組み)も、監理措置決定申請には及ばない。つまり、代理申請の道も、取次の道も、いずれも閉ざされているのである。
弁護士は、被監理者を監督する「監理人」としては制度に組み込まれる。それにもかかわらず、被監理者の側に立って申請を代理することは許されない。国家の側で監視役を担うことは歓迎されるが、当事者の側で権利を主張することは拒まれる――この構図は、権利擁護の観点から到底正当化しがたい。
6 弁護士代理の原則
わが国の法制度は、権利義務をめぐる争いにおいて、当事者が専門家たる弁護士の代理を受けることを、制度の基幹に据えてきた。その象徴が、民事訴訟法54条1項本文の定める「弁護士代理の原則」である。同項は、法令により裁判上の行為をすることができる代理人のほかは、弁護士でなければ訴訟代理人となることができない旨を規定する。
この原則の趣旨は、二重である。第一に、当事者本人の保護――専門的知識を欠く者が、非専門家に事件を委ねて不利益を被ることを防ぐこと。第二に、手続の適正・円滑の確保――資格と倫理規律に服する専門家が関与することで、手続全体の公正を担保することである。裏を返せば、これは、権利を争う者は、資格ある専門家=弁護士の援助を受けられるべきだという価値判断の表明にほかならない。
もっとも、弁護士代理の原則は、直接には民事訴訟という「裁判手続」の局面を規律するものであり、監理措置決定申請という「行政手続」に、条文としてそのまま適用されるわけではない。行政手続一般について弁護士強制がとられていないことも事実である。したがって、精緻を期すならば、ここで援用すべきは条文それ自体ではなく、その基礎にある憲法上の価値である。以下、項を改めて論じる。
7 憲法上の評価――代理人弁護士の排除は違憲である
(1)憲法34条前段の弁護人依頼権
憲法34条前段は、「何人も、理由を直ちに告げられ、且つ、直ちに弁護人に依頼する権利を与へられなければ、抑留又は拘禁されない」と定める。監理措置は、まさに「収容(抑留・拘禁)」と表裏一体の制度である。すなわち、監理措置決定申請とは、身体を拘束された者が、その拘束から解かれて社会内で生活するための、いわば「収容からの出口」を求める手続にほかならない。
身体拘束からの解放を求める、その一点においてこそ、弁護人(弁護士)の援助を受ける必要は最も切実である。にもかかわらず、当該手続について弁護士の代理を一律に排除することは、拘禁された者に保障されるべき弁護人依頼権の実質を空洞化させるものであって、憲法34条前段の趣旨に正面から抵触する。行政手続上の身体拘束であっても、身体の自由が制約されている事実に変わりはなく、同条の保障が及ぶべき実質的理由は何ら減じない。
(2)憲法31条の適正手続と行政手続
憲法31条の定める適正手続の保障は、刑事手続に限らず、行政手続にも及びうる。最高裁大法廷平成4年7月1日判決(成田新法事件)は、行政処分であっても、それによって制限を受ける権利利益の内容・性質、制限の程度等を総合較量して、事前の告知・弁解・防御の機会を与えるべき場合があることを認めた。監理措置決定申請は、身体の自由という最も重い権利利益に直結する手続である。かかる手続において、当事者が専門家の代理・援助を受ける途を実質的に確保することは、適正手続の中核的要請というべきである。
(3)憲法32条の裁判を受ける権利・法へのアクセス
監理措置の許否は、逃亡等のおそれと収容による不利益とを較量する裁量判断であり(前記3)、その判断を争い、あるいは有利に導くためには、事実の的確な主張と法的構成が不可欠である。弁護士代理の原則が体現する「権利を争う者は専門家の援助を受けられるべきだ」という価値は、憲法32条の保障する裁判を受ける権利、ひいては実効的な法へのアクセスの理念と通底する。行政段階で弁護士の関与を封じることは、その後の不服申立てや行政訴訟における防御の準備をも掘り崩し、司法的救済の実効性まで減殺する。
(4)手段の合理性・比例原則
本人申請を原則とすること自体には、本人の意思確認・本人特定という一定の正当な目的があり得よう。しかし、その目的は、申請書への本人署名や面前での意思確認等、よりゆるやかな手段によって十分に達成できる。意思確認の必要性は、弁護士による代理を全面的に禁止しなければならない理由にはならない。まして、監視役たる監理人には弁護士を許容しながら、権利擁護者たる代理人からは弁護士を排除するという区別は、目的との合理的関連性を欠く。過剰な制約であって、比例原則に反する。
以上を総合すれば、成年で意思能力を有する被収容者について代理人弁護士による監理措置決定申請を一律に認めない現行の運用は、憲法34条前段・31条・32条の趣旨に反し、少なくとも憲法上の重大な疑義を免れず、その限度で違憲の評価を受けるべきである。仮に法律・規則の文言上そう読まざるを得ないのであれば、当該規則は憲法適合的に解釈されるか、然らずんば改正されなければならない。
8 結論
監理措置は、全件収容主義の弊を改める制度として、本来歓迎されるべき方向性を持つ。しかし、その入口である監理措置決定申請から代理人弁護士を締め出す運用は、制度の理念を自ら裏切るものである。
身体を拘束された外国人が、収容からの解放を求めるまさにその手続において、弁護士の代理・援助を受けられない――これは、憲法34条前段が保障する弁護人依頼権、31条の適正手続、32条の裁判を受ける権利、そしてこれらに通底し民事訴訟法54条1項に結晶した「弁護士代理の原則」の根本価値に照らして、正当化しえない。弁護士を監視役たる監理人として制度に取り込みながら、権利擁護者たる代理人としては排除するという転倒は、その不合理を端的に物語っている。
求められる是正は明快である。第一に、成年で意思能力を有する被収容者についても、弁護士が代理人として監理措置決定申請を行いうるよう、施行規則を改め、又は憲法適合的に運用すること。第二に、少なくとも在留資格関係申請と同様の申請取次を監理措置決定申請にも認めること。第三に、収容施設内における弁護士アクセスと申請援助の機会を実質的に保障することである。
身体の自由は、あらゆる権利の基盤である。その回復を求める場面でこそ、法は当事者の傍らに弁護士を置くべきであって、当事者から弁護士を遠ざけてはならない。監理措置決定申請における代理人弁護士の排除は、速やかに改められるべきである。
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