執行猶予判決を取れば日本に居続けられるのか|外国人事件における「執行猶予=安心」という誤解と入管法24条の構造
2026/05/21
執行猶予判決を取れば日本に居続けられるのか|外国人事件における「執行猶予=安心」という誤解と入管法24条の構造
在日中国人当事者のご家族の方々から、「執行猶予を取れれば安心です」「有罪でも執行猶予なら強制送還されません」という説明を耳にされたとのお話を、当事務所でもしばしば伺います。しかしながら、外国人事件においては、こうした説明は一部正しい一方で、一部は重大な誤解を含んでおります。本記事では、ご家族がしばしば陥られる3つの誤解を切り口に、入管法24条各号の構造、退去強制事由がどのように刑事処分と連動するのか、そしてなぜ「不起訴処分」が「執行猶予判決」より決定的に重要なのか、を整理してご説明いたします。
誤解その1:「執行猶予=在日継続」
第一の誤解は、「刑事手続における執行猶予」を「在留資格の保全」と直接同視されるところにございます。
実際には、入管法24条には複数の退去強制事由が定められており、各号の構造は互いに異なり、執行猶予判決による救済の有無も号ごとに異なります。具体的には、
24条4号リ(無期又は1年を超える拘禁刑):本号の射程内ではありますが、但書において「全部の執行猶予の場合を除く」旨が定められております。すなわち、全部執行猶予の場合は同号が直接には発動いたしません。
24条4号チ(薬物関係の有罪):覚醒剤取締法、大麻取締法、麻向法等の違反による有罪判決は、刑期の軽重、執行猶予の有無を問わず、退去強制事由となります。すなわち、薬物事案について「執行猶予が付いたから大丈夫」という安心は、入管法上は錯覚でございます。
24条4号ヌ(不法就労助長罪):入管法73条の2違反の有罪についても、執行猶予の有無を問わず、退去強制事由となります。
24条4号ロ(在留資格関連の拘禁刑):資格外活動罪等に関連する号でございます。
以上のとおり、執行猶予判決の効果は、4号リの射程内においてのみ救済となるものであり、4号チ・ヌ等の他の号には全く及びません。「執行猶予=在日継続」という一般化された説明は、入管法の構造から見ると、部分的真実にとどまる片面的情報でございます。
誤解その2:「罰金で済むなら問題ない」
第二の誤解は、「略式命令で罰金のみで終結する処分」を、「軽微な処分・影響なし」と評価される点でございます。
確かに、多くの過失犯(過失傷害罪、過失運転致傷の軽微事案、過失盗品等関与罪等)が罰金で終結する場合、4号リ(拘禁刑関連)の要件は原則として満たされません。しかしながら、
第一に、4号チ(薬物関係の有罪)は罰金にも及びます。薬物事案について「罰金で済んだ」が安心材料とはなりません。
第二に、次回の在留期間更新申請時には、処分歴が「素行不良」を判断する資料として精査されます。刑事処分自体が軽微であっても、在留期間更新申請が拒否される、あるいは在留資格変更申請が厳格に審査されるおそれがございます。
第三に、罰金前科は「公的記録」として、検察庁の犯罪経歴資料に永久的に残存し、次回入国・在留資格申請時の審査ポイントの一つとなります。
誤解その3:「刑事手続の結果を見てから入管を考える」
第三の誤解は、ご依頼者への影響が最も大きい誤解とも言えますが、刑事手続と入管手続を「順序」として処理する発想でございます。
刑事手続と入管手続は、「順序」関係ではなく、並行・連動関係にございます。具体的には、
被疑者・被告人の刑事手続における供述・証拠は、入管手続の資料として引用されます。刑事手続における有罪判決は、そのまま入管法24条該当性の事実的基礎となります。刑事手続終結後、拘置所・刑務所からの釈放と同時に、しばしば直接入管局に収容され(入管法39条等)、退去強制手続に移行いたします。退去強制手続で提起する異議申立て・在留特別許可申請には、刑事手続中の事実・証拠を援用する必要がございます。
すなわち、刑事弁護の最初の段階から、後の入管手続を視野に入れた戦略を組まなければなりません。「まずは刑事を終わらせ、入管はあとで考える」というご態度では、刑事手続で本来争うべき事実――故意・過失の程度、共謀の範囲、所持物の客観的属性等――について最良のタイミングを逸し、後の入管手続で援用できる証拠が極めて限定されてしまいます。
正しい理解:最初から「不起訴処分」を最優先目標とする
以上のことから、外国人刑事弁護の最優先目標は、最初から「不起訴処分の獲得」に据えるべきものでございます。その根拠は、
第一に、不起訴処分は「有罪判決の不存在」を意味し、4号リ・チ・ロ・ヌいずれの号についても「拘禁刑」「有罪」の要件を満たす基礎が存在しないことになります。退去強制事由該当性の射程が、根本から切断されます。
第二に、不起訴処分の獲得は、有罪判決を逆転させる難度に比べてはるかに低く、費用・時間の負担も小さく済みます。
第三に、たとえ起訴された場合でも、最初から不起訴を目標として展開した活動――示談、被害感情の鎮静化、検察官意見書の提出、弁護人意見書の積み重ね――は、それ自体が後の公判及び在留特別許可手続にとって有利な素材の蓄積となります。
当事務所の独自論点:行政処分における責任主義の射程
当事務所松村大介弁護士が現在係争中の事例D-2(不法就労助長事案、いわゆる蘇さんの事件)では、入管の伝統的実務に正面から挑戦し、次の趣旨を主張しております。すなわち、仮に刑事手続で有罪と認定されたとしても、その有罪認定が事実・証拠の精査に基づくものであり、犯意又は過失の程度が極めて軽微である場合には、後の退去強制処分の判断にも責任主義の射程が及ぶべきであり、そうでなければ憲法31条(適正手続)、憲法13条(個人の尊重)、憲法14条1項(平等原則)に反することになる、という主張でございます。
この論点の実践的含意は、次のとおりでございます。たとえ刑事手続で執行猶予判決を獲得した場合(つまり4号リの但書でカバーされる場合)であっても、「すべて終わった」と処理すべきではないこと。たとえ刑事手続で残念ながら有罪判決が言い渡された場合でも、入管手続で「当該有罪認定の責任非難可能性の程度は、在留資格を剥奪するに足る程度に至っていない」旨を引き続き争うべきこと。これこそが、刑事弁護段階から伏線を張る「二重の防御線」の発想でございます。
当事務所の解決事例
代表的事例の一つは、特殊詐欺の受け子事件において全件不起訴処分を獲得した事例でございます(参考事例B-2、弁護士ドットコム掲載)。複数回再逮捕された複雑事案について、徹底した取調べ対応、違法取調べへの抗議、主張立証の積み重ねを通じて、全件について不起訴との結果を獲得いたしました。本事例は、被疑事実の外形が一見重く見えても、弁護方針の精緻な分析と主張方法の適正性次第で結果を逆転させうることを示すものでございます。
代表的事例の二つ目は、観光目的で来日された依頼者についての事例D-1でございます(弁護士ドットコム掲載)。公的書類が殆ど存在しないという困難な状況下で、入管庁の過去許可事例の精査を通じて、1発で在留特別許可を獲得いたしました。本事例は、万一退去強制手続に移行した場合でも、当事務所が過去許可事例から在留特別許可への活路を見出した実績の証左でございます。
代表的事例の三つ目は、係争中の事例D-2でございます。前例のない在留特別許可の獲得は、それ自体が当事務所の「二重の防御線」の発想が現実に結実したものでございます。
当事務所の体制
当事務所の最大の特徴として、松村大介弁護士が接見の初動から公判の結審まで 全工程を直接担当 いたします(事務員・若手弁護士による代行を行いません)。また、当事務所には外国人事件に精通した中国語専属通訳が常駐しており、捜査機関側の通訳とは別に、依頼者ご本人のために動く立場の通訳をご利用いただけます。加えて、刑事手続終了後の在留資格更新・変更等の手続については、提携する行政書士と連携してワンストップで対応可能でございます。
結語
「執行猶予を取れば在日継続できる」という一般化された説明は、入管法24条各号の構造から見ると、部分的真実にとどまる片面的情報でございます。在留資格の真の保全のためには、最初から「不起訴処分の獲得」を最優先目標として据え、刑事手続と入管手続を並行・連動する一体の視野で弁護方針を設計する必要がございます。
本記事は一般的な解説であり、個別事案については弁護士に直接ご相談ください。
過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。
執筆者情報
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
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