在留カード偽造・行使事件 ―「製造・販売」と「購入・使用」の構造的差異と退去強制リスク
2026/05/19
在留カード偽造・行使事件 ―「製造・販売」と「購入・使用」の構造的差異と退去強制リスク
1. はじめに
近時、警視庁が東京都内において、在留カード偽造に関与した中国籍の被疑者を相次いで摘発しているとの報道がございます。押収された偽造カードは7500点を超え、購入者として再逮捕された顧客とみられる方も20名以上に上っているとされております。同種類型の大規模摘発事件は毎年、まとまった規模で報道される類型です。
在留カードは、日本政府(出入国在留管理庁)が中長期在留外国人に対して交付する身分証明書であり、厳格に管理された公文書です。その偽造・不正使用は、有印公文書偽造罪(刑法155条)と入管法73条の3・73条の4の複合違反として位置づけられる重罪類型です。本記事は、同種事案における初動の整理であり、個別事件を断定的に評価するものではございません。
2.「製造・販売」と「購入・使用」の罪名構造の差異
在留カード偽造事件における被疑者の立場は、概ね次の三類型に整理できます。
第一は、偽造の主犯(製造者・販売者)の立場です。この立場では、有印公文書偽造罪(刑法155条1項:1年以上10年以下の拘禁刑)と入管法73条の3(在留カード偽造・販売等:1年以上10年以下の拘禁刑)の複合違反が成立します。この類型では実刑率が極めて高く、執行猶予の獲得は容易ではありません。
第二は、偽造に協力した共犯(個人情報の提供・販売の手伝い等)の立場です。共謀共同正犯論の適用範囲・未必の故意の有無が、責任の有無を分ける論点となります。
第三は、偽造カードの購入・所持・使用者本人の立場です。多くは、在留期限経過後の就労継続を目的として、あるいは来日時の就労資格取得困難を理由として、地下市場から偽造カードを購入されるケースです。この類型では入管法73条の4(偽造在留カードの所持等:1年以上10年以下の拘禁刑)が適用されます。
三類型における刑事責任の軽重には大きな差がございますが、退去強制事由該当性の有無は、刑事責任とは別の構造で評価される点に注意が必要です。
3. 退去強制リスク ― 入管法24条4号リの拘禁刑要件
入管法24条4号リは、「無期又は1年を超える拘禁刑に処せられた者」を退去強制事由として規定しております。本要件には次の三つの注意点があります。
第一に、「1年を超える拘禁刑」であって、「1年以上」ではありません。拘禁刑1年丁度の実刑判決は、4号リに該当しないという構造です。もっとも、在留カード偽造の法定刑下限は「1年以上」であり、量刑が1年を超えることは珍しくありません。
第二に、執行猶予全部が付された場合は、原則として4号リに該当しません(同号但書)。ただし、令和4年改正後の一部猶予の場合は除外規定の範囲外であり、別途精査を要します。
第三に、4号リの判断は、同条4号チの「薬物関係の有罪」が罪名そのものを退去強制事由とする構造とは異なり、最終的な宣告刑の量刑が決定的に重要となります。したがって、在留カード偽造類型の弁護方針においては、「公判で量刑を1年丁度に抑える」または「執行猶予全部を獲得する」という方針が、退去強制回避の観点から決定的な意義を持ちます。
4. 不起訴処分の意義 ― 責任主義の射程
不起訴処分の獲得は、在留カード偽造事案では特別な意味を有します。なぜなら、4号リの退去強制事由は、不起訴の事案には原則として及ばないからです(拘禁刑が宣告されないため、要件不充足)。
ここで重要な論点として、入管法24条の退去強制事由判断において、故意・過失は要件であるかという問題があります。たとえば、購入者が「偽造とは知らなかった」と主張する場合、刑事段では未必の故意の有無を争うことができますが、入管段では従来の実務上、「客観的に偽造カードを所持していた事実があれば足りる」とされてきました。
この実務運用が憲法上適正であるか、責任主義(「責任なくして刑罰なし」)の射程が行政処分にも及ぶべきではないかという問題は、当事務所松村大介弁護士が現在係争中の事案D-2(不法就労助長事件)の核心論点です。同事案の帰趨は、在留カード偽造類型における入管段の防御戦略にも、重要な示唆を与えるものと考えております。
5. 初動対応の3つのポイント
第一に、黙秘権の行使です。偽造カードの入手経路・販売者の情報・知情の有無等の論点については、弁護人と十分に協議する前の供述は極めて危険です。
第二に、早期の私選弁護人選任です。本類型は、共犯関係・組織犯罪の背景を伴う場合が多く、単純な当番弁護士の対応では十分でない場合があります。外国人組織犯罪・入管法解釈の経験を有する弁護人の選任が、結果を大きく左右いたします。
第三に、経験ある通訳人の確保です。在留カード偽造事件の取調べでは、「どこで購入したか」「誰と連絡を取ったか」「何回使用したか」といった細部の供述が、通訳のニュアンスの差異により起訴・量刑の判断に影響を及ぼし得ます。
6. 当事務所のご案内と解決事例
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区)は、松村大介弁護士(第一東京弁護士会・登録番号59077・2019年登録)が、中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする事務所です。
事例A-1:覚醒剤取締法違反(営利目的所持)事案で無罪判決を獲得。営利目的の薬物事案は、在留カード偽造と同じく重罪類型に属し、執行猶予の獲得も容易ではない事件類型です。当事務所では、徹底的な証拠分析と被告人質問・反対尋問により、無罪判決を獲得した実績がございます。裁判員裁判対象事件・重大事件への対応経験は、在留カード偽造の組織犯罪型事案への対応力の基盤となっております(出典:弁護士ドットコム、弁護士JP)。
事例E-1:裁判員裁判対象事件・世界的に報道された重大事件への対応経験。国際刑事事件、裁判員裁判対象事件への対応経験は、在留カード偽造の大規模事案(組織犯罪・国際犯罪の論点を伴う場合)への対応力の根幹となっております(出典:弁護士JP、ココナラ法律相談)。
事例D-2:不法就労助長事件における責任主義の争点(係争中)。前述のとおり、退去強制事由判断における故意・過失要件論は、当事務所松村弁護士が現在係争中の先進的論争です。在留カード偽造の購入・使用者の事案において、「偽造を知らなかった」との主張を刑事段で確立できれば、入管段の防御における重要な先決条件を構築することができます。
当事務所の最大の特徴として、松村大介弁護士が接見の初動から公判の結審まで全工程を直接担当いたします(事務員・若手弁護士による代行を行いません)。また、当事務所には外国人事件に精通した中国語専属通訳が常駐しており、捜査機関が指定する通訳とは別に、依頼者ご本人のために動く立場の通訳を、刑事手続全般にわたってご利用いただけます。
7. 結語
在留カード偽造事件は、立場の違いにより、量刑と退去強制リスクの幅が極めて大きい類型です。「1枚購入した」と「数千枚製造した」との間に存在する、刑事責任と入管リスクの差異を、入管法24条各号の構造解析に習熟した弁護人が精密に評価・防御することが、結果を分けます。
本記事は一般的な解説であり、個別事案については弁護士に直接ご相談ください。本記事に記載した過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。
舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
WeChat ID:matsumura1119
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舟渡国際法律事務所
住所 : 東京都豊島区高田3丁目4-10布施ビル本館3階
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