不法就労助長と行政処分と過失の要否
2025/09/03
【はじめに】
今回の記事では、入管法を例題にとって、行政処分と過失の要否について論じたいと思います。
この論点が正面から問題となる案件を担当しています。
この訴訟の問題意識は、本人に何ら責任がない場合であっても、行政処分を課すことができるのかという問題です。
【法律の仕組み】
我が国では、外国人の急増に伴い、不法就労対策が急務になっています。
入管法では、自ら「不法就労」をする者も規制されていますし、一定の要件の下で他人に「不法就労」をさせたもの、「不法就労助長」も禁止されています。
このうち、「不法就労助長」は、刑事罰も予定されています。
さらに、外国人が雇用主の場合には、他の外国人を不法就労させてしまった行為が、退去強制事由にも該当する仕組みになっており、退去強制に連動する仕組みになっています。
いずれの場合も、実務上、採用しようとする外国人の在留カード(原本)を確認すれば、不法就労助長には該当しないとされています。
【事案の概要】
事案の概要について説明します。
依頼者は中国人女性であり、契約社員として、翻訳業務をになっていました。
依頼者の勤務先は、人材派遣会社であり、外国人を多数雇用していました。
このような外国人に関する人材派遣会社の場合には、不法就労助長には細心の注意を払っていました。具体的な、採用判断は、採用部門の責任者及び代表者のみが行うよう徹底して周知されていたのです。
依頼者の女性は、採用部門の責任者の採用面接に先立ち、採用希望者であるベトナム人から履歴書の提出や、在留カードの原本の提示を受ける等、採用業務のお膳立てをしていたのです。
この後、採用部門は、採用希望者のマスクを外させて、在留カードの写真と同一人物であるかの確認作業を、採用部門の責任者自らの判断として対応すべきでした。
しかし、採用担当者はこの作業を行わなかったがゆえに、結果として、在留資格のベトナム人を採用してしまったのです。
会社全体としてみれば不法就労に関与してしまったとの批判もあり得ると思います。
問題は、中国人女性は会社から命じられた業務を誠実に遂行しており、中国人女性には何ら責任がないことです。
【法的問題点】
刑事法の領域では、明確に、責任主義が採用されています。すなわち、故意・過失が存在しなければ、刑事責任を負わないという考えです。
これに対し、行政行為に責任主義が採用されるとは、必ずしも解釈されていませんでした。むしろ、当然のように、「行政行為は客観的事実の発生のみで足り、故意・過失は不要である」と解釈されていたのです。実際に入管の解説書でもそのような記載が散見されます。
行政処分と過失で論じられるのは、通常、「過料」等の場合です。過料の場合、金額も高いとは言えません。
しかし、行政処分のうち、退去強制事由としての不法就労助長の場合には、それが認定されてしまうと、外国人は退去強制のレールに乗せられてしまう等、過料に比較して不利益が大きすぎるのです。
このような不利益を考慮したとき、退去強制事由であるからといって、過失が必要になるものとは思えません。
他にも入管法の規定をよく分析してみると、入管法自身、「他人の行為に巻き込まれてしまった場合」には過失が必要であるとする趣旨の規定をしているのです。
したがって、退去強制事由としての不法就労助長には、過失を要するものと考えられます。
【最後に】
不法就労対策の必要性は否定しません。しかし、その規制で意味があるのは、過失があった行為者のみのはずです。
現状の規制は、過失のない者まで退去強制対象とするものであって、本末転倒と言わざるを得ません。
この記事で述べたように、不法就労に関与してしまったと捜査機関から嫌疑をかけられてしまった場合、一度その認定を受けてしまうとこれを争うことは容易ではありません。したがって、疑いをかけられてしまった段階で、弁護士に相談することの必要性が非常に大きいのです。
----------------------------------------------------------------------
舟渡国際法律事務所
住所 : 東京都豊島区高田3丁目4-10布施ビル本館3階
電話番号 : 03-6709-0603
東京にて中国人の方をサポート
東京を中心に刑事事件の弁護
東京にて行政事件に関する対応
----------------------------------------------------------------------