刑事事件で「故意・過失」を争うことは、退去強制を防ぐ第一歩でもある ― 責任主義の射程と入管法24条の構造論
2026/05/07
刑事事件で「故意・過失」を争うことは、退去強制を防ぐ第一歩でもある ― 責任主義の射程と入管法24条の構造論
外国籍の方、特に中国籍の方やそのご家族から、当事務所には日々、刑事事件と入管手続が連鎖する場面でのご相談が寄せられます。そのなかで繰り返し直面するのが、
刑事事件と入管手続が「二重の不利益」のように積み重なる構造です。
罰金刑や執行猶予判決など、刑事事件としては比較的軽い結果に見える処分であっても、罪名・刑期によっては入管法24条各号の退去強制事由に該当し、長年築き上げた日本での生活基盤を一瞬で失うことになりかねません。しかも、退去強制事由の判断にあたっては、刑事手続では当然に争われるはずの
「故意・過失」が要件とされない、というのが従来の入管実務の運用です。
本記事では、この実務に対する当事務所の問題意識と、刑事事件の段階から見据えるべき「二重・三重の防御線」について、一般論として整理いたします。
一、入管法24条の構造 ― 「号ごとの精査」が不可欠
入管法24条が定める主な退去強制事由は、概ね次のとおり整理できます。
- 24条1号〜3号:不法入国・不法上陸・不法在留(在留期間経過後の残留等)
- 4号(各号):正規の在留資格を有する外国人が、特定の犯罪歴・活動類型に該当する場合
- 4号リ:原則として、無期又は1年を超える拘禁刑に処せられた者(ただし、刑の全部の執行猶予の言渡しを受けた者は除外規定により対象から外れる)
- 4号チ:刑法・薬物関係法令等に違反して有罪判決を受けた者(薬物関係は刑の重さを問わず対象となりうる点に注意)
- 4号ロ:在留資格に関連する活動について刑罰法令に違反して拘禁刑に処せられた者 等
(出典:e-Gov 法令検索 https://laws.e-gov.go.jp/law/326CO0000000319)
各号の構造は微妙に異なり、
「実刑か執行猶予か」「刑の長さ」「罪名・条文」といった要素により扱いが分かれます。実務上、誤った前提(「執行猶予なら大丈夫」「罰金なら大丈夫」等)に基づく自己判断は極めて危険であり、号ごとの精査が不可欠です。
二、入管実務の現状 ― 「退去強制事由は故意・過失を要件としない」
入管実務では、退去強制事由の判断は
「客観的事実」のみを基礎に行われ、外国人本人の故意・過失の有無は問わない、とする運用が長年踏襲されてきました。
典型的な例が不法就労助長罪です。雇用主側が「雇用した者が不法就労者であることを知らなかった」と争って刑事事件で無罪を主張しても、入管手続では別途「客観的に不法就労助長があった」と認定されれば、退去強制事由に該当するとされる ― これが従来の構造です。
こうした運用は、行政処分は刑事責任とは独立に判断される、という形式論的な理由付けに支えられてきました。しかし、ここには近代法の根本原則である
「責任なくして罰なし(責任主義)」を、行政処分にどこまで及ぼすべきかという、避けて通れない根本問題が伏在しています。
三、当事務所の問題意識 ― 責任主義の射程は行政処分にも及ぶべきである
退去強制は、当事者の生活基盤・家族関係・職業継続に対し、刑事罰に劣らぬ重大な不利益をもたらす処分です。この処分を、
故意・過失を一切問わずに「客観的事実」のみで発動することは、次の憲法的価値と整合しないと、当事務所は考えています。
- 憲法31条(適正手続の保障):刑事手続のみならず、重大な不利益処分にも及ぶと解されている
- 憲法13条(個人の尊重):本人の責任なくして重大な不利益を負わせることは、個人の尊厳に反する
- 憲法14条1項(平等原則):故意ある外国人と、故意・過失なき外国人とを同列に取り扱うことは、合理的理由を欠く
当事務所は、目下、不法就労助長事案において、まさに
「退去強制事由にも故意・過失を要件とすべきである」「過失責任主義の射程は行政処分にも及ぶ」という論点を、正面から問う訴訟を係争中です(後掲・事例D-2)。判決の方向性は確定しておりませんが、入管実務の従来の枠組みそのものを問い直す、先駆的な訴訟と位置付けています。
四、弁護方針への反映 ― 二重・三重の防御線という発想
将来的に退去強制事由への発展が予想される刑事事件においては、刑事事件の段階から、次の防御線を意識して活動することが重要です。
第一の防御:刑事事件における故意・過失の徹底的な争い
構成要件該当性において、故意(特に未必の故意)の不存在、過失の不存在を、徹底的に主張・立証します。これは刑事事件本来の論点であると同時に、後の入管手続における第二・第三の防御線の事実的基礎を築く作業でもあります。証拠の保全、被疑者ノートの作成、客観証拠の精査 ― 刑事段階で蓄積した事実関係こそが、入管手続でも武器となります。
第二の防御:入管手続における責任主義違反論の主張
仮に刑事事件で有罪となった場合に備え、入管手続段階では「退去強制事由該当性の判断にも責任主義の射程が及ぶ」「故意・過失なき退去強制は憲法31条・13条・14条1項に違反する」旨の主張を展開できるように、
刑事弁護段階から証拠と主張を残しておくことが肝要です。
第三の防御:在留特別許可における平等原則違反論
入管庁が公表してきた過去の許可事例の中から、本件と同種の事情を有する事例を抽出し、
「同種事例で許可された者と本件で不許可となる者を、合理的理由なく異なる扱いをすることは、憲法14条1項違反である」旨を主張します。これは入管庁自身が「許可相当」と判断した先例による行政の自己拘束を問う論理であり、当事務所が在留特別許可関係で標準的に用いている基本構造です。
五、当事務所の対応能力と解決事例
【事例D-2】不法就労助長事案・責任主義違憲訴訟(係争中)
当事務所は、冤罪により不法就労助長罪に問われ、強制退去の危機に瀕した依頼者を代理し、
「退去強制事由にも責任主義の射程が及ぶ」「故意・過失なき退去強制は憲法違反である」との論点を正面から問う訴訟を係争中です(出典:弁護士JP掲載)。本訴訟は、退去強制事由における故意・過失要件論の先駆的な実例として位置付けられ、本記事の論点を実践している唯一の現在進行形の事例といえます。
【事例D-1】難関とされた在留特別許可の獲得
観光目的で来日した依頼者が日本人女性との間に子を授かり、在留資格を喪失して不法滞在で逮捕・起訴された案件において、入管庁過去の公表事例を精細に分析し、「同種事情の許可実績がある以上、本件のみ不許可とすることは平等原則違反である」旨の主張を展開し、
在留特別許可を1発で獲得した事例(出典:弁護士ドットコム「難関な在留特別許可に成功」)。本事例は、第三の防御線(平等原則違反論)の典型例です。
【事例A-1】覚醒剤取締法違反(営利目的所持)の無罪判決獲得
裁判員裁判対象の重大事件において、徹底した証拠分析と被告人質問・反対尋問を通じ、
無罪判決を獲得した事例(出典:弁護士JP・弁護士ドットコム)。本事例は、第一の防御線(刑事事件本体での故意・所持立証への徹底抗弁)の典型例であり、後の入管手続を見据えた弁護活動とも一貫する姿勢を示すものです。
中国語通訳完備・行政書士提携によるワンストップ対応
当事務所は中国語通訳を常時手配可能であり、刑事事件・入管手続の双方を一貫して対応できる体制を有しています。提携の行政書士事務所により、刑事手続終了後の在留資格更新・変更等にも、ワンストップで対応いたします。
六、結語
外国籍の方にとって、刑事事件は「刑事処罰」のみで終わらず、「在留資格喪失」「強制送還」へと連鎖いたします。この連鎖の中で、
刑事事件における故意・過失の徹底的な争いは、刑事事件本来の防御であると同時に、将来の入管手続における第二・第三の防御線の出発点でもあります。
近代法の根本原則である責任主義の射程を、行政処分(退去強制)にどこまで及ぼすべきか ― これは現在係争中の重要論点です。当事務所は、目の前のご依頼者の救済と、制度設計の問い直しとを、両輪で進めてまいります。
本記事は一般的な解説であり、個別事案については弁護士に直接ご相談ください。
本文中で言及した過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
微信(WeChat)ID:matsumura1119
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住所 : 東京都豊島区高田3丁目4-10布施ビル本館3階
電話番号 :050-7587-4639
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