舟渡国際法律事務所

池袋ポケモンセンター殺人事件と「ストーカー規制法の課題」――命を守る制度のあり方を問う

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池袋ポケモンセンター殺人事件と「ストーカー規制法の課題」――命を守る制度のあり方を問う

池袋ポケモンセンター殺人事件と「ストーカー規制法の課題」――命を守る制度のあり方を問う

2026/03/28


夢の場所で奪われた命
2026年3月26日夜7時過ぎ、東京・池袋のサンシャインシティ2階「ポケモンセンターメガトウキョー」で、21歳のアルバイト店員・春川萌衣さんが元交際相手の男(26歳)に刃物で刺され、命を奪われた。春休みで子どもや外国人観光客で賑わう”夢の聖地”が、一瞬にして惨劇の現場と化した。男はその場で自らも首を刺し、搬送先で死亡した。
春川さんは「ここで働くのが夢だった」という強い思いを持ち、そのために力を尽くしていた。その尊い命と夢が、理不尽にも奪われた。心からご冥福をお祈りするとともに、このような悲劇が二度と繰り返されてはならないという思いで本稿を書く。
警察は動いていた。それでも防げなかった
この事件で重要なのは、警察が全く対応していなかったわけではないという点だ。
警視庁は、亡くなった女性とみられる人物から、ストーカー行為で相談を受けており、ストーカー規制法に基づき相手に禁止命令を出したり、同法違反容疑で逮捕したりして対応。この女性からも定期的に様子を聞き取るなどしていたという。 
男が1月に禁止命令を受けた際、警察に促された加害者向けのカウンセリングの受診を拒否していたことが27日、わかった。 
逮捕・禁止命令・カウンセリング勧告という手続きはすべて踏まれていた。それでもなお凶行は防げなかった。これは今回の担当者の問題というよりも、制度そのものが内包する構造的な限界を示すものだと私は考えている。

「桶川の教訓が活かされず、無念」
私は、川崎ストーカー殺人事件(2025年)の取材で次のように述べた。
「川崎ストーカー事件での警察の対応は、警察庁の通達に反する等問題点が非常に多く、ストーカー規制法の限界・矛盾を露呈しています。今回の事件は、1999年(平成11年)に発生した桶川ストーカー事件を彷彿とさせる事件であり、桶川ストーカー事件の教訓を十分に生かしきれておらず、無念でなりません。」 
今回の池袋の事件を前にして、また同じ言葉を繰り返さなければならない。桶川から26年。なぜ変わらないのか。

一般論として――ストーカー規制法が抱える制度的難題
以下は、今回の事件の被害者・遺族への評価とは切り離した、法制度一般に関する私見だ。
ストーカー規制法は、その性質上、解釈が本来的に難しい法律だ。「つきまとい」「監視」「執拗な連絡」といった行為が法に触れるか否かは、行為者と被害者の関係性、経緯、頻度、文脈によって大きく異なり、一律に判断できない。
捜査機関にはこの曖昧さの中で、個別事案の実態を丁寧に把握しながら臨機応変に対応することが求められる。マニュアルへの機械的な当てはめではなく、高度な判断力と裁量が必要とされる所以だ。
同時に、制度設計の観点からは過剰な規制がもたらすリスクにも目を向ける必要がある。一般論として、規制の網を過度に広げることは、本来自由であるはずの私的領域への国家の過剰な介入につながり、監視社会への道を開くおそれがある。また実務上の経験則として、状況に応じた段階的・抑制的な対応が、かえって事態の平和的収束につながる場合があることも、制度設計上無視できない知見だ。
これらの指摘は、今回の被害者の対応を論じているのではなく、あくまで法制度設計の一般論として申し述べるものだ。

統計から見た冷静な現実認識
制度を論じる上でもう一点触れておきたいことがある。
ストーカー相談件数は毎年数万件に上る。その大多数は、警告・禁止命令・逮捕といった対応によって収束しており、警告を受けた者の約90%がその後行為をやめているというデータがある。
痛ましい事件が報道されるたびに「ストーカー犯罪が制御不能になっている」という印象を受けがちだが、それは正確ではない。今回のような最悪の結末は、深刻な全体像の一部であると同時に、件数の上では全体のごく一部だ。この現実を直視することは、被害者の苦しみを軽視するためではなく、感情に流されない冷静な制度改善のために必要な視座だ。

私が担当した奈良ストーカー警告事件
ここで、私が代理人を務めた事件を紹介したい。ストーカー規制法の問題の別の側面を示す事案だ。
依頼者は日本の大学に通う中国籍の女性。同じ研究室に所属する先輩の男子学生が「女性からストーカー行為を受けた」と訴え、奈良県警がこの女性に文書警告を発令した。しかし、これは全くの誤解に基づくものだった。女性は何ら身に覚えがなく、理不尽な警告に深く傷ついていた。
問題は、従来の判例・実務上、「この警告は行政指導であり、裁判で争う手段がない」とされていた点だ。私はこれに徹底的に異議を唱えた。複数の行政法学者から意見書を取得し、立法過程の内部資料まで分析した上で、法廷で戦い続けた。
その結果、大阪高等裁判所(令和6年6月26日判決)は、警告に法的効果が存在することを正面から認め、地位確認請求についても、警告の存否を巡る紛争が現在の法律関係に関するものであることを認めるなど、極めて画期的な判断を下した。警察側の主張を全面的に排斥し、欠格事由たる地位変動は、後続処分ではなく、警告によって生じるという画期的な判決を獲得した。 
ストーカー規制法は被害者を守るための法律だ。しかしその運用が誤れば、全く無実の人間を「ストーカー」と烙印を押してしまう。被害者保護と適正手続きの両立は、制度の根幹にかかわる問題だ。

警告制度の構造的問題
今回の事件が改めて浮き彫りにしたのが、禁止命令後の「空白」だ。
ストーカー規制法の「警告」は現状、行政指導、つまり、それに従うかどうかが対象者の任意に委ねられる扱いだ。行政指導と解する限り、被害者側の申し出があっても、警察には警告を発する義務は生じない。 
今回の加害者は、禁止命令が出た後もカウンセリングを拒否し、罰金を払って釈放された。その後を実効的に管理する手段が制度上不十分だったと言わざるを得ない。

被害者の方へ
この場を借りて、ストーカー被害に悩む方に伝えたいことがある。
警察への相談と並行して、早期に弁護士に相談してほしい。被害者代理人として弁護士が関与することで、証拠の整理、告訴状の作成、禁止命令の申立て、民事損害賠償請求など複数の手段を同時に動かすことができる。
また一般論として申し上げると、自身の生活環境・行動パターンに関する情報管理は、現行制度の限界を補う現実的な防衛手段となりうる。理不尽な負担を強いることになるが、命を守るための実践的な対策として知っておいていただきたい。

必要なのは「精度の高い制度設計」
私はかつてこう述べた。「警察ではいまだに『恋愛』『男女トラブル』については『どっちもどっち』との旧態依然とした偏見が根強く、『話は聞いてくれるが対応してくれない』という例も多いのです。」 
今後、必要なのは単純な厳罰化ではなく、精度の高い制度設計だ。カウンセリング拒否への実効的なサンクション、禁止命令違反の迅速な検挙体制、警察署と本部の情報連携の徹底、そして誤認警告への司法的救済手段の確立——。被害者保護と適正手続きの保障は対立しない。両者を同時に実現する制度こそが、ストーカー規制法の目指すべき姿だ。
春川さんの死を無駄にしないために。制度を感情ではなく、冷静な知性で変えていくために。私はこれからも法廷と言論の両方で戦い続ける。

NHK「未解決事件」への協力と継続的発信
NHK「未解決事件 File.12 ストーカー殺人 なぜ繰り返されるのか」(2026年1月24日放送)は、桶川・川崎ストーカー殺人事件を検証し、どうすれば被害を防げるのかを生放送で掘り下げた番組だ。 私はこの番組の取材に協力し、法制度の問題点を社会に伝えた。また岩波書店のストーカー問題に関する文献においても専門的なコメントを寄せるなど、メディア・学術両面からこの問題の発信を続けている。

松村大介(まつむら だいすけ)舟渡国際法律事務所 代表弁護士第一東京弁護士会所属。慶應義塾大学法科大学院修了。令和6年、大阪高裁でストーカー警告の処分性を認める画期的判決を獲得。NHK「未解決事件」取材協力、岩波書店刊行物へのコメント提供など、メディア・学術両面からストーカー問題を発信。被害者・加害者双方の代理経験を持つ、ストーカー規制法の第一人者。📍 東京都豊島区高田3-4-10 布施ビル本館3階(高田馬場駅徒歩5分)WeChat ID: matsumura1119

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