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紛失防止タグを用いた位置情報の無承諾取得等の規制と憲法31条

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紛失防止タグを用いた位置情報の無承諾取得等の規制と憲法31条

紛失防止タグを用いた位置情報の無承諾取得等の規制と憲法31条

2026/01/23

1 はじめに

 従来、GPS装着行為はストーカー規制法の規制対象となっていました。

紛失防止タグもGPSと同様に被害者の位置情報を把握することができる点で、GPSと同様の機能を達成することできます。

 しかし、ストーカー規制法上におけるGPSとは、要するに、人工衛星システムを用いて位置情報を取得する機能を有するものと定義されていたので、紛失防止タグのような人工衛星システム以外の仕組みを用いるものは、GPSには該当しないものとされていました。

 そこで、このような問題に対処するため、ストーカー行為等の規制等に関する法律の一部を改正する法律(令和七年法律第八十三号)により、紛失防止タグも規制対象とされました。

 このブログでは、法改正の背景、具体的な規制対象、最判令和2年7月30日を踏まえて規制強化がもたらす危険性について解説を行います。

 

2 ストーカー行為等の規制等に関する法律の一部を改正する法律(令和七年法律第八十三号)

 今回の改正により追加された紛失防止タグに関するストーカー規制法の条文を抜粋します。

 ストーカー規制法2条

3 この法律において「位置情報無承諾取得等」とは、特定の者に対する恋愛感情その他の好意の感情又はそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的で、当該特定の者又はその配偶者、直系若しくは同居の親族その他当該特定の者と社会生活において密接な関係を有する者に対し、次の各号のいずれかに掲げる行為をすることをいう。
一 その承諾を得ないで、その所持する位置情報記録・送信装置(当該装置の位置に係る位置情報(地理空間情報活用推進基本法(平成十九年法律第六十三号)第二条第一項第一号に規定する位置情報をいう。以下この号及び次号において同じ。)を記録し、又は送信する機能を有する装置で政令で定めるものをいう。以下この項において同じ。)(第三号に規定する行為がされた位置情報記録・送信装置を含む。)により記録され、又は送信される当該位置情報記録・送信装置の位置に係る位置情報を政令で定める方法により取得すること。
二 その承諾を得ないで、その所持する位置特定用識別情報送信装置(当該装置を識別する情報を送信する機能を有し、当該装置の周辺において当該情報を受信した識別情報送受信装置(位置情報記録・送信装置その他の装置であって、当該情報を受信し、及び送信する機能を有するものをいう。)の位置に係る位置情報を利用して、その所在する地点又は区域の位置を特定するために用いられる装置をいう。以下この号及び次号において同じ。)(同号に規定する行為がされた位置特定用識別情報送信装置を含む。)の位置に係る位置情報を取得すること
三 その承諾を得ないで、その所持する物に位置情報記録・送信装置又は位置特定用識別情報送信装置(以下この号において「位置情報記録・送信装置等」という。)を取り付けること、位置情報記録・送信装置等を取り付けた物を交付することその他その移動に伴い位置情報記録・送信装置等を移動し得る状態にする行為として政令で定める行為をすること

 

3 ストーカー行為等の規制等に関する法律施行令の一部を改正する政令(令和七年政令第四百二十四号)

 ストーカー規制法2条3項各号で紛失防止タグの具体的な規制は「政令」で定めるものとされています。そこでこの項目では、「政令」では具体的にどのような行為が規制対象になっているのかをわかりやすく説明することにします。

 

 (位置情報記録・送信装置等を移動し得る状態にする行為)
第三条 法第二条第三項第三号の政令で定める行為は、次に掲げる行為とする。
一 その所持する物に位置情報記録・送信装置等を差し入れること
二 位置情報記録・送信装置等を差し入れた物を交付すること。
三 その移動の用に供されることとされ、又は現に供されている道路交通法(昭和三十五年法律第百五号)第二条第一項第九号に規定する自動車、同項第十号に規定する原動機付自転車、同項第十一号の二に規定する自転車、同項第十一号の三に規定する移動用小型車、同項第十一号の四に規定する身体障害者用の車又は道路交通法施行令(昭和三十五年政令第二百七十号)第一条第一号に規定する歩行補助車(それぞれその所持する物に該当するものを除く。)に位置情報記録・送信装置等を取り付け、又は差し入れること

 

4 最判令和2年7月30日と過剰な規制な憲法違反

 私が担当したストーカー警告事件(大阪高判令和6年6月26日)でも指摘したとおり、ストーカー規制法による過剰な規制な常に国民の権利自由を制約する危険性を秘めています。

 そして、今回のストーカー規制法改正による紛失防止タグの規制拡大は、刑事罰を伴うストーカー行為罪(ストーカー規制法18条)の犯罪構成要件にも該当するものであり、罪刑法定主義(憲法31条)の観点から、類推解釈は禁止されています。

 過去、ストーカー規制法によるGPS規制がなかった頃、GPS装着行為を「見張り」に該当するものとして、最高裁までこの該当性が激しく争われた事例がありました。 

 最判令和2年7月30日・最高裁判所裁判集刑事328号19頁は、結論としては、GPS装着行為は「見張り」に該当しないと判断しました。具体的には、最判令和2年は、「ストーカー規制法2条1項1号は,好意の感情等を抱いている対象である特定の者又はその者と社会生活において密接な関係を有する者に対し,「住居,勤務先,学校その他その通常所在する場所(住居等)の付近において見張り」をする行為について規定しているところ,この規定内容及びその趣旨に照らすと,「住居等の付近において見張り」をする行為に該当するためには,機器等を用いる場合であっても,上記特定の者等の「住居等」の付近という一定の場所において同所における上記特定の者等の動静を観察する行為が行われることを要するものと解するのが相当である。そして,原判決の認定によれば,被告人は,元交際相手が利用していた美容室の駐車場等においてGPS機器を上記自動車に取り付けたが同車の位置の探索は同駐車場等の付近から離れた場所において行われたというのであり,また,同駐車場等を離れて移動する同車の位置情報は同駐車場等の付近における同人の動静に関する情報とはいえず,被告人の行為は上記の要件を満たさないから,「住居等の付近において見張り」をする行為に該当しないとした原判決の結論は正当として是認することができる。」

 最判令和2年を受けて、GPS装着行為もストーカー規制法の規制対象とするため、ストーカー規制法の法改正が行われて現在に至ります。

 紛失防止タグの規制は被害者の保護に繋がる反面、規制強化の波に押されて、類推解釈、拡張解釈が行われると、国民の権利自由の制約をもたらしかねないのであり、注視すべきです。

 

 

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