舟渡国際法律事務所

警察に「ストーカー」と疑われたら、人生はどう変わるのか

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警察に「ストーカー」と疑われたら、人生はどう変わるのか

警察に「ストーカー」と疑われたら、人生はどう変わるのか

2026/05/11

警察に「ストーカー」と疑われたら、人生はどう変わるのか

―― 冤罪型ストーカー事案を弁護する側からの現場報告

 

2026年5月11日 舟渡国際法律事務所 代表弁護士 松村大介

 

■ 想像してみてほしい

 あなたはある日の夜、自宅のインターフォンが鳴る音で平穏を破られる。出てみると、生活安全課を名乗る警察官が二人立っている。「お話を伺いたい」と言われ、近くの警察署の会議室まで連れて行かれる。気が付くと、机の上にはあなたが書いた「上申書」が置かれ、警察官の口からは「これは口頭での警告です」という言葉が告げられる。何の事前の連絡もなく、反論する機会もないまま、あなたは公的な記録の中で「ストーカー行為者として警告を受けた人物」になる。

 翌日、別の警察官が再びあなたの自宅を訪れる。そして、あなたが長年大切にしてきた財産――例えば狩猟用の銃、運転免許証の効力に関わる資格――が、令状もないまま「念のため」と言われて取り上げられる。

 これは、私の事務所が現に取り扱っている事案で実際に起きていることである。誇張ではない。冤罪型のストーカー警告は、ある日突然、ある人の人生の根幹を引き抜く。本稿では、その全体像と、これに対抗するための法的な戦い方を、できる限り具体的に書き残しておきたい。

 

■ 「ストーカー」と疑われた瞬間に起きる、四つの段階的な不利益

 ストーカー規制法という法律は、被害者を守るための法律である。私はその役割そのものに反対するつもりは毛頭ない。私自身、被害者側の代理人として、加害者に対する禁止命令、刑事告訴、損害賠償請求を多数取り扱ってきた経験がある。

 しかし、その同じ法律が誤って発動すると、何が起きるのか。私は、これを「四段階の不利益が、時間差で、領域を越えて積み重なっていく構造」だと整理している。

 

▼ 第一段階:口頭警告

 法律上の根拠は実は曖昧で、警察法2条1項の責務規定を根拠に、警察官の現場判断でなされる。「あなたの行為はストーカー行為に該当するおそれがあるので、今後やめてください」と口頭で言い渡されるだけのものである。書面の交付すらない。

 法的効力としては最も軽いように見える。実際、警察自身が「これは行政指導であり、行政処分ではない」と説明することが多い。だが、ここに最大の罠がある――内容を文書で確認することができず、事後にこれを争う司法的な手段が制度的にほぼ存在しないのである。

 

▼ 第二段階:文書警告(ストーカー規制法4条1項)

 警察が一歩踏み込むと、文書による警告が発令される。被害者からの「警告申出」、3条違反行為の存在、そして「更に反復して当該行為をするおそれ」の三要件が形式的に整えば、警察の判断で発令できる。

 従来、文書警告も「行政指導にすぎない」と扱われてきた。しかしこの理解は、平成20年の銃刀法改正によって決定的に変質した。文書警告を受けたことが、銃砲所持許可の「絶対的欠格事由」として法律上明記されたためである。

 大阪高等裁判所令和6年6月26日判決――私自身が代理人として獲得した判決――は、この点を正面から認めた。すなわち、文書警告は、「直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められるもの」に形式的には該当すると判示した。これは、文書警告の法的性格を巡る議論の景色を一変させる、極めて重要な判断である。

 

▼ 第三段階:禁止命令(同法5条)

 文書警告に従わず、ストーカー行為が反復されていると判断されると、公安委員会から禁止命令が発令される。これは行政処分性が明確に認められており、命令違反は2年以下の拘禁刑または200万円以下の罰金(同法19条以下)という刑罰の対象になる。

 ここに来てようやく、対象者には行政不服審査・取消訴訟という争訟手段が制度的に開かれる。だが、ここまで来てしまった後では、社会的なダメージは既に深刻である。

 

▼ 第四段階:ストーカー行為罪(同法18条)での逮捕・起訴

 禁止命令に違反するか、または最初から悪質と判断されれば、刑事事件として逮捕・勾留・起訴に進む。報道され、勤務先を失い、家族との関係も崩れる。たとえ後に無罪を勝ち取っても、失われた時間と評判は戻らない。

 

■ 領域を越えて広がる「副次的処分」

 もう一つ強調しておきたいのは、これらストーカー規制法上の処分自体にとどまらない、領域横断的な波及効果である。

 典型例が銃刀法である。同法5条1項18号には、銃砲所持の「絶対的欠格事由」として「他人の生命、身体若しくは財産若しくは公共の安全を害し[…]おそれがあると認めるに足りる相当な理由がある者」という、極めて広い受け皿(バスケット条項)が用意されている。

 現場で何が起きているか。警察は、ストーカー規制法の口頭警告という非公式の事実認定を、そのまま銃刀法18号の「おそれ」の根拠として転用し、銃砲を仮領置する(同法11条8項)。一切の事前手続もないまま、長年適法に所持してきた銃を取り上げる。私が現に弁護人として戦っている事案は、まさにこの構図である。

 同様の波及は、医師・薬剤師・教員・運転免許など、欠格事由を内包する各種資格制度の運用全般で起こり得る。「ストーカー行為者」というラベルが一つ貼られた瞬間に、その人の生活基盤を支える複数の地位が、玉突き的に脅かされていく。

 

■ 弁護人としての実務感覚 ―― 「いったん疑われた者」が反論することの困難

 ここからは、いささか踏み込んだ私の率直な実務感覚を書く。

 警察は、当然ながら、ストーカー被害の重大性、過去の悲惨な事件への発展リスクを強く意識している。これは被害者保護の観点からは正しい姿勢である。問題は、その帰結として、現場の判断が「疑いがあるならまず規制を入れる」という方向に大きく傾きやすい点である。

 そして一度、「この人物はストーカー行為者である可能性が高い」という見立てが警察内部に形成されてしまうと、その評価をひっくり返すことは、想像以上に困難である。

 行為者側がどれほど合理的な反論をしても、それは「自己正当化の弁明」と受け取られかねない。客観的な証拠を提出しても、「言い逃れのための材料作り」と解されかねない。被害者と評価された相手方に何らかの形で説明を試みれば、その接触行為そのものが「独立した付きまとい行為」として新たな処分根拠に変わってしまう。

 この、いったん疑われた者が制度的に防御の足場を持てないという非対称性こそが、私がストーカー冤罪を「最大の恐怖」と呼ぶ理由である。だからこそ、警告を受けてしまった直後、まだ事態が硬直化していない段階での法的対応の質が、その後の全てを決めるのである。

 

■ なぜ冤罪が生まれるのか

 構造的な原因は、概ね次のとおり整理できる。

 第一に、ストーカー規制法2条の「つきまとい等」の定義が、文言上極めて広範であること。同条1号から8号に該当しうる行為は、現代の通常の人間関係のうちに普通に存在する所作(連絡、面会の要求、贈り物、SNS上の反応等)を広く包含する。

 第二に、「更に反復しておそれ」要件の判断が、警察の主観的・将来予測的判断に大きく依存していること。

 第三に、警告段階で行政手続法上の告知・聴聞が制度的に保障されておらず、行為者の言い分が記録に残らない構造であること。

 第四に、いったん発令された警告に対する司法審査の道筋が、判例・実務上長らく閉ざされてきたこと。

 第五に、警告に至る端緒となる「警告申出書」その他の警察内部資料が、対象者には事実上開示されず、何を根拠に「ストーカー」と判断されたのかすら把握困難であること。

 これらの構造要因が複合する結果として、誤解、思い込み、対人関係のもつれの一方からの申告が、そのまま「公的に認定されたストーカー」へと固定化される現象が、現実に起きている。

 

■ 救済の四つの柱

 以下、当事務所が実務で用いている救済手段を、四つに整理して紹介する。それぞれが単独で機能するものではなく、事案に応じて組み合わせて運用する。

 

▼ 第一の柱:行政手続法36条の2に基づく行政指導中止申出

 これは、平成26年改正で創設された制度で、行政指導の相手方が、その行政指導が法律の要件を充たしていないと考えるときは、当該行政機関に対し、調査の上で中止その他の必要な措置を取るよう求めることができる、という枠組みである。

 警察自身が「口頭警告は行政指導である」と公言している以上、その口頭警告に対しても、この36条の2が形式的に適用可能である。私は、現実の事案でこの中止申出書を警察署長宛てに正式に提出し、警告の根拠とされた事実関係の不存在、要件の不充足を、書面で明示的に争うアプローチを取っている。

 行政手続法36条の2第3項によれば、申出を受けた行政機関は「必要な調査」を行い、要件不適合と認めれば中止その他の措置を取らなければならない。法律はそう書いてあるのである。これに対して警察がどう対応するかは、まさに今、私が現場で問うている課題である。

 

▼ 第二の柱:大阪高判令和6年6月26日を起点とする訴訟戦略

 前述のとおり、私が獲得した大阪高判令和6年6月26日は、文書警告に法律上の効果が存在することを明示的に認めた。最高裁の上告審に係属中である現在、本判決自体の確定的射程はなお流動的だが、少なくとも次の二つの訴訟類型は、現実の選択肢として組み立て可能である。

 一つは、文書警告の無効を確認する公法上の実質的当事者訴訟(行政事件訴訟法4条)。「警告が付着しない地位」の確認を求める訴えである。文書警告の処分性が判例上完全には確立していない現状において、確認訴訟は実効的救済手段となり得る。

 もう一つは、判例の進展を見据えた取消訴訟。大阪高判の射程が今後どのように展開するか、上告審を含めた動向を慎重に見極めつつ、適切な事案で取消訴訟を提起する。

 いずれの訴訟も、違法な警告によって被った損害について、国家賠償法1条1項に基づく損害賠償請求と併せて提起することが、戦略的にも実務的にも合理的である。

 

▼ 第三の柱:副次的処分の場での「警告の違法性」の主張

 仮に文書警告そのものに対する争訟が困難であっても、警告を根拠とする副次的処分――銃刀法上の仮領置・取消処分、各種資格制度上の処分等――に対する不服申立てや取消訴訟の場で、その違法性の根拠の一部として、根拠とされた警告自体の違法性を主張することは可能である。これは、ストーカー警告を直接の訴訟対象にせずとも、実質的にこれを争う有力なルートになる。

 ここで私が頻繁に依拠している判例が二つある。

 

 札幌地判令和3年12月17日(令和2年(行ウ)第7号)。

 銃砲所持許可の取消処分を取り消した事案であるが、その判示は、ストーカー冤罪型の事案にも極めて応用が利く。同判決は、銃刀法の立法趣旨について、「銃砲が国民の生命や身体に対して高度の危険性を有する一方で、社会生活上有用な道具としての機能も有することに鑑みて、同法に違反した場合にその許可を一律に取り消すのではなく、その取消しを個々の事案における具体的事情を踏まえた裁量判断とし、これを都道府県公安委員会に委ねた趣旨であるものと解される」と明示した。さらに同判決は、行政処分庁の主張を「極めて抽象的ないし観念的な危険をいうものにすぎない」と退け、具体的・実質的な危険性の裏付けを欠く処分を、裁量権の逸脱・濫用として違法と判断した。

 冤罪型のストーカー警告事案に当てはめれば、「警告を受けた」という事実だけをもって「他人の生命等への害悪のおそれ」を肯定することは、まさに札幌地裁が排斥した「抽象的・観念的な危険」の典型である。

 

 東京地判平成30年3月30日。

 仮領置処分が直接の対象となった、銃刀法分野の重要先例である。同事案は、原告が妻に対し「殺すぞ」「ぶっ殺したい奴がいる」といった明白に脅迫的な言辞を繰り返した極めて重大な事案であった。

 それにもかかわらず、同判決は、平成27年3月の仮領置の後、平成28年1月に銃砲が返還された経緯を取り上げ、「本件仮領置は[…]上記危険性を認めて行われたものであるが、その後の調査結果や、原告と原告妻の関係が改善していくに従い、危険性も消失していったと判断され、本件散弾銃の返却に至ったというものであり、返還の時期等も含めてその都度適正な判断のもとに行われたものと認められる」と判示した。すなわち、仮領置の後に生じた事情の変化を考慮して銃砲を返還するという公安委員会の判断を、裁判所が「適正な判断」として明確に是認したのである。

 これは、極めて重要な意味を持つ。脅迫的言動が反復された極めて重大な事案ですら、後発的事情を考慮して銃砲を返還することが裁判所のお墨付きを得るのである。冤罪型の事案、すなわち、そもそも脅迫的言動が存在せず、警告後にも一切の問題行動がない事案では、なおさら強力に妥当する。仮領置を継続することは、東京地判が示した「後発的事情の考慮による返還」という判断枠組みと正面から矛盾し、平等原則違反(憲法14条)、比例原則違反として違法・不当となる。

 当事務所が現に担当している銃刀法11条8項仮領置事案では、まさにこの二つの判決を主軸に据えて、公安委員会に対する審査請求書を組み立てている。

 

▼ 第四の柱:相手方との示談交渉

 最後に、極めて重要であるにもかかわらず見落とされがちな手段として、被害者と評価された相手方との示談交渉がある。

 文書警告の要件のうち「更に反復しておそれ」は、将来予測である。示談が成立し、当事者間で接触をしない合意が形成され、本人が代理人を通じてしか相手方に関与しない態勢が整えば、この要件は事実上失われる。これは、警察に対して警告の必要性そのものを否定する、極めて強力な後発的事情となる。

 ただしここに最大の注意点がある。行為者本人による直接接触は、それ自体が新たな付きまとい行為と評価される危険性が極めて高い。示談交渉は、必ず弁護士を代理人として、警察に対し事前に交渉の意図と方法を明示し、牽制をかけた上で、慎重に進めなければならない。

 

■ 最後に

 ストーカー規制法は、被害者を守るためにこそ存在する。私はその目的を否定するつもりはまったくない。しかし、その同じ法律が、誤った発動の仕方をしたとき、全く身に覚えのない人の人生を一方的に削り取る道具にもなり得る。被害者保護と適正手続の保障は、二者択一ではない。両者を同時に成立させる制度設計こそが、ストーカー規制法のあるべき姿である。

 もし読んでくださっている方が、自分にも近いところで似たような事態が起きていると感じるのであれば、ひとつだけ、強くお伝えしたい。被害者と評価された相手方には、絶対に、ご自身では接触をなさらないでほしい。電話一本、メール一通、近所での偶然の遭遇――どれもが新たな処分根拠に変質し得る。

 そして、警察にいったん「ストーカー行為者」として位置付けられてしまうと、その認識を覆すことは、想像をはるかに超えて困難である。これがストーカー冤罪の最大の恐怖であり、初期段階での法的介入の質が、その後の全てを左右する理由である。

 行政指導中止申出、相手方との示談交渉、副次的処分への審査請求・取消訴訟、国家賠償請求、文書警告に対する地位確認訴訟――これらの選択肢をどう組み合わせるかは、事案によって異なる。だからこそ、なるべく早い段階で、ストーカー規制法とその関連領域に通じた弁護士に相談していただきたい。

 私は、被害者の代理と冤罪救済の双方を、これからも法廷と言論の両面から続けてまいる所存である。

 

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松村 大介(まつむら だいすけ)

舟渡国際法律事務所 代表弁護士/第一東京弁護士会所属

慶應義塾大学法科大学院修了。令和6年、大阪高裁でストーカー警告の処分性を認める画期的判決を獲得。NHK「未解決事件」取材協力。

〒171-0033 東京都豊島区高田3-4-10 布施ビル本館3階(高田馬場駅徒歩5分)

TEL:050-7587-4639 WeChat ID:matsumura1119

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