国旗損壊罪は憲法違反の疑いが濃厚
2026/01/29
1 はじめに
2025年発足の高市早苗内閣は、日章旗(いわゆる「日の丸」)を損壊する行為について、刑法92条を改正し、新たに、国旗損壊罪の制定を目指しているものとされています。
このブログでは、諸外国の判例を踏まえつつ、国旗損壊罪が憲法違反である疑いが濃厚であることについて解説をするものです。
2 国旗損壊罪(案)
「日本国に対して侮辱を加える目的で国旗を損壊、除去または汚損した者に2年以下の懲役または20万円以下の罰金に処する」(「刑法の一部を改正する法律案」2012年、自民党提出案、廃案)。
同法律案の起草者の1人である高市早苗議員は、法律案の立法趣旨について、諸外国では自国の国旗を素損壊する行為に刑事罰をもってき禁止する立法例が存在することに触れて、「日本の国旗であれ、外国の国旗であれ、損壊等の行為は、「国旗が象徴する国家の存立基盤・国家作用を損なうもの」であり、「国旗に対して多くの国民が抱く尊重の念を害するもの」であると述べている(https://www.sanae.gr.jp/column_detail1293.html)。
3 他国の国旗を損壊する行為が刑法で禁じられていることは別問題
上記2のとおり、国旗損壊罪法律案の立法趣旨の1つとして、諸外国では自国の国旗を素損壊する行為に刑事罰をもってき禁止する立法例が存在することに触れられています。日本の刑法92条においても、他国の国旗を損壊する行為が禁じられていることとの均衡上、自国の国旗を損壊する行為も平等に禁じられるべきであるという主張であると思われます。
国旗損壊罪は、刑法の「第四章 国交に関する罪」の中で規定されているとおり、その保護法益は、外国との良好な外交関係の維持にあると理解されています。
過去の政府答弁(平成11年6月11日、小渕内閣)においても、「同条は、刑法第二編第四章の「国交に関する罪」の中に置かれているとおり、我が国の外交作用の円滑、安全等を考慮して、かかる行為を処罰することとしたものと考えられる。」と述べていることも同様です。
さらに、この政府答弁では、「我が国の国旗等に対する同様の行為については、これを処罰する規定がなく、刑法制定当時における具体的な論議は必ずしも明らかではないが、これは、国家の威信の保護の在り方として刑罰をもって強制することが適当かという根本的な問題があることのほか、他人の所有する国旗等の損壊等については刑法第二百六十一条(器物損壊罪)が適用されることなども考慮されているものと考えられ」ると答弁されています。
したがって、「諸外国では自国の国旗を素損壊する行為に刑事罰をもってき禁止する立法例が存在すること」は、この改正案を正当化する理由にはならないものと考えます。
4 諸外国では自国の国旗を損壊する罪を違憲無効であると判断した判例もある
国旗は、一般的に、国の象徴であり、国を称賛する場面で使用されることもあれば、逆に、国家権力に対して対抗する場面で国の象徴として使用されることもあります。
後者の場面では、そのような表現行為もまた表現の自由(憲法21条1項)として憲法上の保障を受けるところ、国旗損壊罪によってこれを制約することは、表現の自由に対する制約になり得るものです。
アメリカでは、1968年に国旗を「切断、毀棄、汚損、踏みにじる行為」を処罰対象とする国旗冒涜処罰法を制定しました。ストリート事件(1969年)、ジョンソン事件(1989年)、アイクマン事件(1990年)では、このような法律を違憲無効と判断して、被告人に対して無罪判決を言い渡しているのです。
5 最後に
上記のとおり、国旗損壊罪は憲法21条1項に違反して違憲無効であるというべきです。
上記で示した過去の政府答弁(平成11年6月11日、小渕内閣)においても、「我が国の国旗等に対する同様の行為については、これを処罰する規定がなく、刑法制定当時における具体的な論議は必ずしも明らかではないが、これは、国家の威信の保護の在り方として刑罰をもって強制することが適当かという根本的な問題があることのほか、他人の所有する国旗等の損壊等については刑法第二百六十一条(器物損壊罪)が適用されることなども考慮されているものと考えられ」ると答弁されていることにも着目すべきです。
このように国旗損壊罪は、刑法論の解釈としても合理性がないばかりか、「国家の威信の保護」という観点からしても、表現の自由を不当に制約しないよう刑罰をもって望むべきではなく、既存の器物損壊罪、公務執行妨害罪等によって対処が十分可能であると考えます。
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