不法就労助長で逮捕、摘発された場合の対処法
2025/09/12
1 はじめに
この記事では、「不法就労助長」という問題について解説をしたいと思います。
その前提として「不法就労」とは何かについて解説をします。外国人は入管法に基づく在留資格(ビザ)を付与されて、その範囲で日本で適法に活動をすることが許可されています。ですから、「技術・人文知識・国際業務」のビザを有する外国人が、このビザにカバーされない別の仕事をしてしまうと、それが不法就労になるのです。
その上で、「不法就労助長」とは、不労就労をしている外国人を雇用する等、不法就労に関与してしまった場合を意味します。
この不法就労助長は、実務上非常に緩やかに処罰される傾向にあり、重点的に解説したいと思います。
2 不法就労助長のペナルティ
不法就労助長は、助長「罪」と、退去強制事由の2種類で処罰される仕組みになっています。日本人の場合は(1)のみ対処すればいいのですが、外国人の場合は(1)、(2)の両方に対処する必要があります。
(1)刑罰法令違反としての不法就労助長罪(日本人・外国人共有)
入管法により、三年以下の拘禁刑若しくは三百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する、と定められています。
(2)退去強制事由としての不法就労助長行為(外国人のみ)
入管法により、不法就労助長行為をした外国人は強制送還の対象になります。
3 不法就労助長に該当する行為とは
入管法第七十三条の二 次の各号のいずれかに該当する者は、三年以下の拘禁刑若しくは三百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
一 事業活動に関し、外国人に不法就労活動をさせた者
二 外国人に不法就労活動をさせるためにこれを自己の支配下に置いた者
三 業として、外国人に不法就労活動をさせる行為又は前号の行為に関しあつせんした者
典型的な「不法就労助長」とは、「事業活動に関し、外国人に不法就労活動をさせた者」を意味します。
このうち、「事業活動に関し」とは、行為者が自ら運営し、または従業者として従事している事業の目的遂行のために必要な活動に関してという意味であり、一般家庭使用人として働かせるような場合は含まないと解釈されています。
次に、不法就労活動を「させた」とは、東京高裁平成5年9月22日判決は「入管法七三条の二第一項一号が規定する『外国人に不法就労活動をさせた』とするためには、当該外国人との間で対人関係上優位な立場にあることを利用して、その外国人に対し不法就労活動を行うべく指示等の働きかけをすることが必要であると解される」と判示しています。
実務上の多くの事案で争われるケースは、「自分は当該不法就労を知らなかった。自分は責任者ではない。自分は名義人であり実質的な経営者ではない。」というものが殆どです。
4 知らなかったでは済まされない?不法就労助長で要求される調査義務
一般的な刑事法の考え方によると、「責任がなければ制裁を課されない」(責任主義、憲法31条)が採用されています。例えば、殺人罪の場合、殺意がなければ殺人罪は成立しません、詐欺罪の場合、詐欺の故意がなければ詐欺罪は成立しません。
このような一般的な刑事法の傾向からすると、不法就労助長で求められる調査義務は高度のものが求められていることに注目すべきです。
入管法第七十三条の二 次の各号のいずれかに該当する者は、三年以下の拘禁刑若しくは三百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
2 前項各号に該当する行為をした者は、次の各号のいずれかに該当することを知らないことを理由として、同項の規定による処罰を免れることができない。ただし、過失のないときは、この限りでない。
一 当該外国人の活動が当該外国人の在留資格に応じた活動に属しない収入を伴う事業を運営する活動又は報酬を受ける活動であること。
二 当該外国人が当該外国人の活動を行うに当たり第十九条第二項の許可を受けていないこと。
三 当該外国人が第七十条第一項第一号、第二号、第三号から第三号の三まで、第五号、第七号から第七号の三まで又は第八号の二から第八号の四までに掲げる者であること。
入管法は、不法就労について非常に厳格な態度で望んでいます。条文はやや難しい表現になっていますが、要するに、実際の勤務内容に対応するビザを持っていなかったこと、資格外活動の許可を受けていないこと等です。これらを確認しない場合には、たとえ、実際には不法就労を知らなかったとしても、不法就労罪が成立するのです。
平成21年入管法改正により「在留カード」が制定され、外国人管理は在留カードによって行われることになりました。この在留カードには、在留資格(ビザ)や、有効期限、資格外活動の有無などが明記されているので、在留カードを確認すれば、実際に採用しようとしている外国人が不法就労であるか否かが一目瞭然です。ですから、外国人を雇用する事業者には、「在留カードを確認する」ことが調査義務として求められており、これを怠った場合には、不法就労助長が成立する可能性があるのです。
一応、「過失なく知らなかった場合」には不法就労助長罪は成立しないとされ、まだ救いの余地は残されていますが、不法就労助長罪は相当怖い法律であるということです。
5 もっと怖いのが「退去強制事由」としての不法就労助長
ここから先は、不法就労助長行為をしてしまった人が「外国人」である場合です。
入管法では、不法就労助長「罪」とは別の制裁として、不法就労助長行為をした場合は退去強制の対象とすると定められています。
退去強制事由としての不法就労助長の場合、何が不法就労助長に該当するかについては、上記の解説のとおり、刑罰法令違反としての不法就労助長「罪」と同様です。
ただし、退去強制事由としての不法就労助長行為の最大の特徴は、知らなかった場合でも免責の余地がないということです。上記のとおり、不法就労助長「罪」の場合は、やや適用の余地は少ないものの、過失なく知らなかった場合には不法就労助長「罪」が成立しない余地がありました。
入管実務の考え方によると、退去強制事由としての不法就労助長行為は、「行政処分であり、刑罰ではないので、故意・過失は不要ではない。客観的に不法就労助長行為が存在すれば十分である。」というものです。
なお、退去強制は外国人の日本での生活基盤を剥奪する重大な不利益処分であり、このような不利益処分の重大性に鑑みて、私の立場では、通常の行政処分とは異なり、「不法就労助長行為の成立には、故意・過失が必要である」と解釈すべきです。この問題については最高裁でも戦っており、様々なメディアやブロ区で情報発信をしていますのでご参照ください。
以上をまとめると、現状の実務では、退去強制事由としての不法就労助長行為の成立には、客観的に、ある外国人が不法就労しており、それに関与した程度の事実が存在すれば足りるのです。だからこそ、不法就労助長行為の疑いをかけられてしまった外国人には、命取りになりかねないのです。
6 不法就労助長を疑われた場合の対処法
以上のとおり、刑罰法令違反としても、退去強制事由としても、不法就労助長の成立は非常に緩やかに解釈されており、多くの外国人の反論は排斥されているのが現状です。
ただし、いずれにしても「不法就労助長」に該当する事実認定がなされてから、制裁処分が課される仕組みになっています。
一般的な刑事弁護の場合もそうですが、捜査機関からの本格的な捜査が開始する前に、弁護士とよく事実関係について打ち合わせを行い、どの範囲で事実を認めるか、どの範囲で事実を否認したり、黙秘をしたりするのかを検討すべきです。このような弁護が成功した場合には、そもそも不法就労助長の事実が認定できなかったり、過失なく知らなかったとして不法就労助長の成立が否定される場合も期待できるのです。
また、外国人の場合には、刑事事件としての処分が終わった後には、入管での退去強制の問題が残っています。入管での対応を見据える場合、刑事事件で目指すべきは不起訴処分のうち「嫌疑不十分」です。「起訴猶予」ではありません。
このような問題意識を持っていただき、不法就労助長を疑われた場合、捜査機関や入管の本格的な調査が始まる前に、不法就労助長問題に精通した弁護士に相談して、戦略的な弁護を受けることをお勧めします。
弊所では、社会の耳目を集める数々の難関事件や従来の実務を乗り越える先進的な訴訟を手掛けています。これらの案件は実務に一石を投じたものも少なくありません。特に、成立範囲の緩やかな不法就労助長については、「不法就労助長行為の成立には、故意・過失が必要である」との理論武装を行い、徹底的に戦ってきた実績があります。
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