【過失があっても責任を負う?】不法就労をさせてしまった場合の責任
2025/09/04
本日は、外国人に不法就労をさせてしまった場合の責任について解説します。
1 不法就労とは
不法就労とは、日本に在留する外国人が、本来就労できない、または認められていない活動を行うことです。
具体的には、オーバーステイ状態の場合等正規の在留資格を持たない者が収入を伴う活動をすること、あるいは在留資格を持つ外国人でも、許可を得ずに許可された活動範囲を超えて働くことなどが該当します。
2 不法就労に関する法的責任
(1)不法就労した外国人自身
不法就労した外国人自身は、オーバーステイの場合には、オーバーステイとして入管法により3年以下の懲役、または300万円以下の罰金が科される場合があります。
また、オーバーステイでないとしても、無許可資格外活動の罪として、入管法により、1年以下の懲役もしくは禁錮または200万円以下の罰金が科される場合があります。
(2)雇用主、事業主
不法就労に関与してしまった雇用主、事業主には不法就労助長罪という刑事罰が予定されています。
また、下記4で詳論するとおり、もっとも怖いのが退去強制の対象になる可能性があるということです。
入管法73条の2は以下のように規定しています。
第七十三条の二 次の各号のいずれかに該当する者は、三年以下の拘禁刑若しくは三百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
一 事業活動に関し、外国人に不法就労活動をさせた者
二 外国人に不法就労活動をさせるためにこれを自己の支配下に置いた者
三 業として、外国人に不法就労活動をさせる行為又は前号の行為に関しあつせんした者
2 前項各号に該当する行為をした者は、次の各号のいずれかに該当することを知らないことを理由として、同項の規定による処罰を免れることができない。ただし、過失のないときは、この限りでない。
一 当該外国人の活動が当該外国人の在留資格に応じた活動に属しない収入を伴う事業を運営する活動又は報酬を受ける活動であること。
二 当該外国人が当該外国人の活動を行うに当たり第十九条第二項の許可を受けていないこと。
三 当該外国人が第七十条第一項第一号、第二号、第三号から第三号の三まで、第五号、第七号から第七号の三まで又は第八号の二から第八号の四までに掲げる者であること。
不法就労助長罪として典型的なものは、「事業活動に関し、外国人に不法就労活動をさせた者」に該当する場合です。したがって、不法就労に関与してしまった雇用主、事業主の場合でも不法就労助長罪に問われる可能性があるのです。
3 不法就労助長に過失は不要?
近代憲法の基本的な考え方に基づき、責任がない限り罪に問われないという考えがあります。
これを受けて日本の刑法でも原則として刑事責任を負う場合は、故意がある場合であるとし、過失犯処罰はその旨の規定がある限りこれを処罰するという考えがなされています。
不法就労助長の場合には、入管法73条の2第2項により、「前項各号に該当する行為をした者は、次の各号のいずれかに該当することを知らないことを理由として、同項の規定による処罰を免れることができない。ただし、過失のないときは、この限りでない。」として、非常に厳しい規制がなされています。
刑事事件で問題となる場合は、在留資格を全く確認していない場合、在留カードを確認していない場合などですが、このような場合であっても「過失」が存在すると判断されることが多いのです。
4 外国人が雇用主、事業主の場合には退去強制になる可能性がある
外国人が雇用主、事業主の場合には、不法就労助長罪とは別に退去強制になる可能性があることは要注意です。
上記のとおり、刑事罰としての不法就労助長の場合、在留資格を確認している場合などには、犯罪が成立しない余地が残されています。
ところが、退去強制事由としての不法就労助長の場合には、必ずしも、故意・過失が要求されないと解されているのです。
ここで退去強制事由としての不法就労に関する入管法24条3の4の規定を確認します。
三の四 次のイからハまでに掲げるいずれかの行為を行い、唆し、又はこれを助けた者
イ 事業活動に関し、外国人に不法就労活動(第十九条第一項若しくは第六十一条の二の七第一項の規定に違反する活動又は第七十条第一項第一号、第二号、第三号から第三号の三まで、第五号、第七号から第七号の三まで若しくは第八号の二から第八号の四までに掲げる者が行う活動(第四十四条の五第一項の規定による許可を受けて行う活動を除く。)であつて報酬その他の収入を伴うものをいう。以下同じ。)をさせること。
ロ 外国人に不法就労活動をさせるためにこれを自己の支配下に置くこと。
ハ 業として、外国人に不法就労活動をさせる行為又はロに規定する行為に関しあつせんすること。
この規定により明らかなとおり、退去強制事由としての不法就労の成立には、入管法73条の2の規定により過失免責規定が存在しないのです。
したがって、実務では、雇用主、事業主に過失がない場合であったとしても、退去強制事由に該当する危険があるのです。
なお、私の立論では、このような制裁的行政処分の場合には責任主義の観点から過失が必要と解すべきであり、これを争う訴訟を提起して徹底的に戦っています。
5 最後に
このように不法就労に関与してしまった場合に責任は非常に緩やかな要件の下で認定されるのです。
特に、外国人が事業主、雇用主の場合には、退去強制につながる可能性があるので、不法就労に関与しないよう事前の対策を意識すべきことはいうまでもありません。
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